第127話 渚さんと出発進行
「弾丸良し。アイテール良ぉし」
「こちらも問題ありませんわ。全部大丈夫ですわね」
渚とリンダが積んである弾薬箱とアイテールシリンダーの中身を確認し終えてそう口にした。
現在は首都コシガヤシーキャピタルへ向かうと決めた翌日だ。
早朝に機械市場へと立ち寄ってデウスから必要なものを購入した渚たちはビークルに乗ってすでにクキシティを出発していた。
外はミランダの視界と繋げているミケとブレードマンティスに憑いてビークルと並走しているクロが監視を行っており、渚とリンダのふたりはビークル内で待機していた。
「ミランダ。ビークルの調子はどうだ?」
『良いですね。以前のモーターモジュールに比べて出力もエネルギー効率も高くなりましたし、ずいぶんと快適です』
渚の問いにミランダがそう返す。
軍事基地の地下で渚が発見したモーターモジュールの換装はすでに済まされており、運転手であるミランダの評判もよろしいようだった。
強化装甲機や重武装化した一輪バイク、中型機械獣のブレードマンティスなどを乗せていることで積載量が増え続けていたこともあって若干動きの鈍っていたビークルだが、現在は軍用モーターモジュールに換わったことでむしろ以前よりも性能が向上していた。
「そうか。そいつは良かったけど……あの装甲車は欲しかったよなあ」
渚が地下ガレージで見た装甲車を思い出しながら、そう口にした。
「あれに乗り換えたかったんですのナギサ? 端末の映像を見させていただいた限りでは私物として使うにはちょっと大きすぎる気がしましたけど」
装甲車は積載量こそ大きいものの、渚たちだけで使用するには……という大きさであった。
「そっかなあ。ま、外に運び出せないんじゃあどうしようもないけどさ」
「今なら資金もありますし、ビークルを広くしたいのでしたらキャリアを購入するという手もありますわよ」
「キャリア?」
その言葉に渚が首を傾げた。
「はい。ビークルの後ろに追加できるパーツですわ。規格は共通ですから接続は問題ないはずです。ただクキシティには今は在庫がないですけど」
「なかったのか?」
「ええ。モーターモジュールを新調して出力に余裕ができましたし、デウスさんにちょっと相談してみたんですのよ。現在は在庫がないとのことでしたので渚には言っていませんでしたが……ただ首都にならあるかもしれませんわ」
「マジか。ビークルが広くなるなら願ったり叶ったりだな。ちょっと探してみるか」
乗り気な渚にミケも『そうだね』と口にした。
『前回の緑竜土探索ではずいぶんとアイテールを稼げたし、いいんじゃないかな。それに次にルークがきた時には動画のお金ももらえるだろうし』
その言葉に渚が苦い顔をして頷く。ミケとルークが組んで闇市場に卸し始めたエロ動画の収入の見込みは相当なものだろうと予測されていた。
そうしたこともあり現在の渚たちの金銭面は狩猟者水準で考えれば非常に充実していると言って良かった。
「じゃあ首都に着いたら探してみるとしてさ。もう出ちゃったしライアン局長は問題ねえって言ってたけど、クキシティの方は大丈夫なのかな?」
「ダン隊長たちが今日にもハニュウシティから戻って来るみたいですし、大丈夫ですわよ」
『ハニュウシティね。確かに群馬圏との圏境のそばの都市だったよね。こんな時でもダンたちが駆り出されるんだね』
ミケの疑問の声にリンダが「仕方ありませんわ」と返した。
「機械獣やグンマエンパイアの軍勢を足止めしないといけませんし。あの都市には騎士団も参戦していると聞いています」
「そういえばさ。なんなんだグンマエンパイアってのは? 機械獣とは違うんだよな?」
その問いにリンダが眉をひそめる。
「実はわたくしもよくは分からないんですのよ。ルークにはまだお前には早いって参加を止められていましたし。ただグンマエンパイアの軍勢はデキソコナイと呼ばれていますわ」
「デキソコナイ?」
「彼らが自分たちをそう呼んでいるのだそうです。ただデキソコナイは機械獣とも敵対しておりますし、シャッフルの余波で現在はあちらも動きが鈍くなっていると聞いております。っと、揺れますわね」
ガタンと車内が揺れ、リンダが窓の外を見ながらそう口にする。
どうやら砂漠から岩場のエリアへと入ったようだった。
「一応この道は多少舗装されていますが、首都周辺は岩に囲まれていますから今後はガタゴトとあまり快適ではない旅路になりそうですわね」
「岩って、確か宇宙船が落下した衝撃の地殻変動でできたんだよな。そうなると中心地である首都に近付くと余計に岩場が増えるってことだよな?」
「ええ。そうなりますわね」
「けどさ、リンダ。宇宙船が落ちたぐらいで本当にこんなことになるのか?」
渚が聞いた話では、宇宙船が落下した衝撃で地殻変動が起き、埼玉県は砂と岩の大地と化した……ということだが、それはどうにも信じ難いという気持ちが渚にはあった。そして渚の疑問に答えたのはミケだ。
『基本的には無理だろうね。天国の円環から落ちてきたからってだけで、さすがにこれはないよ』
「それはどういうことですの?」
自身の常識を否定されたリンダが眉をひそめる。
『どういうも何もさ。埼玉圏全域に及んでいるという点で範囲が広すぎるし、だというのに中心である首都近辺はなだらかすぎるよ。恐らく要因は別にあるんだと思うんじゃないかな』
「ミケ、別っていうとなんだよ?」
渚の問いにミケが少し考え込んでから『そうだね』と口にした。
『可能性としてあるのは、アイテールライトで構成されたシールドフィールド同士を接触させて衝撃波が真横に広がった場合……とかかな。もっとも片方が宇宙船だとしても、もう片方がなんだってことにはなるけどね。まあ、ここで推測しても仕方がないけど、ただ伝えられているだけの状況ではないと思う。それはそれとしてミランダ、ビークルを停めてくれ。クロは光学迷彩モードで偵察に出てくれるかい?』
『はい、ミケ。近付いていますね』
『それでは見てきます』
クロがそう言って身体を周囲の光景に同化して先へと進み、ミケの言葉で何かが近付いてきているようだと把握した渚とリンダがヘルメットを被って銃を手にとる。問題は迫ってきているのが何かということだが……
「ミケ、機械獣か?」
『さてね。今近づいてきているのは商人たちのキャラバンだ。ただ、まだ見えないけど何かに追われているような動きをしている。どうする?』
『当然助けるさ。それが狩猟者の役割なんだろ。リンダ行こうぜ』
『はいですわナギサ』
そしてビークルから渚とリンダが飛び出て待ち構え、やがて砂煙とともに五台のビークルの姿が見えると、同時に機械獣だけではなく『武装したビークル』が迫ってきているという報告がクロから届いてきたのであった。
【解説】
キャリア:
ビークルの背部に接続することで車内を拡張するパーツの一種。
この世界の武器や乗り物の多くは規格が統一されており、パーツ間の互換性が高い。




