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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第3章 ドラゴンロード
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第120話 渚さんとアンタッチャブル

 アストロクロウズとレシピを手に入れた渚は倉庫を出て、続けての分かれ道へと慎重に進んでいく。もっとも道中にはメテオライオスや他の機械獣の姿はなく、辿り着いた先にあったガレージの中を覗き込んでも動いているものは発見できなかった。その状況に渚は眉をひそめつつもガレージ内へと入っていく。


(ミケ、どうも何もいないみたいだな)

『脱出を諦めてスリープモードでそこらに転がっている可能性も考えたけど……なるほど。どうやらあそこから外に出て行ったみたいだね』

(ハァ。砂で埋もれてるけど……あれって出口だよなぁ?)


 渚とミケの視線の先には破壊されたシャッターと外から雪崩れ込んできている砂の山があった。


『シャッターに開けられた穴の幅はメテオライオスのものと一致するね』

(つまりはここから外に出れるってわけだ。で、かなりの荷物が残ってるじゃん? なあミケ。強化装甲機アームドワーカーもあるぜ)


 渚がガレージ内を見渡すが、その場には軍用の装甲車や装甲が強化されている強化装甲機アームドワーカーらしきものが並んでいた。端にはコンテナがいくつも置いてあり、中には恐らくは武器や武具なども入っているのだろうと思われた。


(はは、こいつは当たりだな。あの強化装甲機アームドワーカーはウルミさんにいい土産になるな)

『おや、自前のものにせずに渡すのかい?』

(まあな。どのみち二機も三機もいらないし、あの装甲も重そうで動きも鈍そうだしさ。今のヤツであたしはいいよ。装甲車は今のビークルと交換したいけど……む?)


 何かに気付いた渚が目を細めて装甲車を見た。どうも一部が破壊されている跡がある。また確認できる限り、すべてのものに同じような損傷があった。


『あの破壊の跡は多分メテオライオスの牙によるものだろうね。まあ、仕方ないか。どうもアイテールシリンダーを奪われたようだ。その部分を修理しないと使えないね』


 ミケの言葉に渚が『そっかぁ』と言いながら装甲車へと近付いていく。アイテールシリンダーを奪われても直せば普通に使えることを渚も経験上理解していたので、特に気落ちすることもなかったのである。そして渚が装甲車の窓を覗き込むと、内部はかなりの広さがあるようだった。


(結構広いな。トラックぐらいはある。けど……修理は必要か。なあミケ。この大きさならエンジンの出力だって大きいと思うんだけど、外してビークルに移植できないか?)

『ちょっと、待ってて。ええと、はい』


 ミケがマシンアームからコードを伸ばして装甲車へと繋ぐと、わずかに起動音がした後にガコンと装甲車の前部が開いた。そして、中から両手で持てる程度の何かの装置が出てきたのである。


『エンジンではなくモーターだけどね。ビークルよりも高出力、低燃費のモーターモジュールだ。規格としては同一のものだから差し替えればすぐに使えると思うよ』

(結構、簡単に取り外しができるんだな?)

『規格化の統一が進んでいるからね。使えるか使えないかは規格よりも権限の問題だけど、それはクリアできている。それよりもちょっと気になることがあるんだ』


 そう言ってミケが目を細めて穴が空けられたシャッターへと視線を向けた。


『ちょっと、外へと出てみてくれないか渚』

(いいけど……埋もれてないか?)

『上に若干の隙間が空いてて光が見えている。掘ればすぐに出れると思うよ』

(あいよ。けど、こんなもんがあるならなんでこっちの道を通ってこなかったんだ?)


 渚が疑問を口にする。あの装甲車や強化装甲機アームドワーカーがもっと早くに手に入れられれば、もっと最初は楽できたのではないかと思ったのだ。


『脱出が最優先だったんじゃないかな? ここが残っているということは、あの爆発の影響外だったのだろうけど……ここにある機器を動かすには時間がかかるし、あの出入り口よりも基地に近い。それに外に出てから戻ろうにも僕はリンクが切れて、ここの情報も分からなくなってしまったしね』

(そっか。まあ、こうして今ここにいるんだからいいか)


 そう渚は思いながら補助腕サブアームを使って砂をかき出し、ミケの言葉通りに外へと繋がったのを確認するとさらに砂をかき分けて外へと出ていった。


(お、普通に出れたな。なあミケ……これか? そこらに飛び散ってる微妙に光ってる緑の土があるんだけど)

『かなぁ。うん、まあ……それはいいんだけど』

(そんじゃあ、持って帰るか。ウルミさんに見て貰えば確認もできるだろうしな)


 渚はすぐさまバックパックから袋を取り出すとそのまま詰め始めた。だが途中で『ねえ渚』とひどく慌てた声が頭の中に響き、渚が眉をひそめてその手を止める。


(なんだよミケ? こいつで野菜が造れるんだぞ。ほら、補助腕サブアームも使ってさっさと……)

『いいからアレを見て』

(あれって? は?)


 ミケの言葉に振り向いた渚が思わずギョッとした顔をする。

 霧の中に巨大な塔が見えたのだ。その異様さに渚は驚きの顔をしながらも砂山を登り、その姿をしっかりとその目に捉えた。


(おい、ミケ。これ、不味いよな?)


 渚の声が震えている。全身の血が凍りつくような恐怖を感じていた。


『うん。危険だ。正直に言って僕は今この瞬間にもこの領域から全力で逃げ出したくて仕方がないよ。いや、そうすべきだろう』


 そのミケの言葉に渚は頷くものの、けれどもその視線は金縛りにあったようにそこにあるものに向けられていた。

 それは塔ではなかった。渚が推測するに恐らくは宇宙船、それも相当に巨大なものだ。そしてその宇宙船をあの『グリーンドラゴン』が護るように巻きついていた。また周囲にはメテオライオスやブレードマンティスなどを含んだ機械獣の群れが取り囲んでいて……


 ビリッ


『いてッ』


 唐突に渚の頭の中で痛みが走った。


『渚、今のは?』

(よく分かんねえが大丈夫だ………それよりも逃げるぞミケ。無理だ。こんなの近付けねえよ。さっさと逃げないと下手しなくても全滅する。みんなが待ってる出入り口だって安全かどうかも分かんないしな。ともかく、あんなの普通じゃない。何かあったら埼玉圏自体が……)


 悪い予感がヒシヒシと湧き上がるのを堪えながら渚は踵を返して砂山を降りていく。その間にも頭の中で警告が鳴り響き続けている。そしてガレージへと戻った渚は、取れるものだけ手に取ると仲間たちの元へと走り始めた。

【解説】

宇宙船:

 かつて文明が栄えていた頃には宇宙を駆ける船は数多くあったが、現在それらのほとんどは太陽系圏外の脱出に使用されて残されておらず、建造が可能なのも月面都市などの極一部の施設のみとなっている。

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