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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第3章 ドラゴンロード
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第116話 渚さんと始まりの扉

『ナギサ、瘴気内ではレーザーの威力は減衰する。一発じゃあ仕留めきれないかもしれない。よく狙って撃つんだ』


 ルークが一輪バイクの上で自前の狙撃銃を構えながらそう忠告した。もっともビークルの上でレーザー狙撃銃を構えている渚は……


『よし、一匹目!』

『おいおい、忠告するまでもなかったか』


 まったく問題なしとスケイルドッグを一体始末していた。

 渚の脳内にあるチップはレーザーの出力や減衰の影響までを計算して弾道予測線を表示している。通常の銃器に比べて電子制御の面が大きいレーザー狙撃銃は詳細なパラメータの出力もしてくれているため、渚とは相性が良かったのである。

 そしてその様子をウルミとリンダは後ろに下がって見てる。どちらも長距離用の攻撃手段も持っていないし、そもそも見えてもいないのだから、手の貸しようもなかった。


『あんな霧の先によく当たるものね。ウチのスナイパー組に匹敵するんじゃないかしら』


 ウルミがそう口にした。

 騎士団にもマシンアイを保有し長距離スナイプを得意とする者も存在するのだが、ウルミは近距離専門なため門外漢であった。そしてウルミの反応にリンダが少しばかり誇らしげに笑みを浮かべた。


『ふふふ。ナギサはどちらかというと銃の方が得意ですし、これぐらいは当然なのですわ』

『ふぅ。銃の方が得意ね。それであの剣さばきとは……まったく、恐れ入るわね』


 そう話している間にも戦闘は続いていく。とはいえ、それは戦いにはなっていない。渚たちが一方的に撃ち続ける狩りであった。

 また二体三体と倒された段階でスケイルドッグたちもようやく敵の方向を把握しビークルへと駆け出したのだが、むしろ直線に向かってきた分、的としては狙いやすくなってもいた。


『渚、リーダータイプが奥にいるぞ。おそらくライトケルベロスだ』

『ライト? あいつか。って、緑色に光って……消えた?』


 ライトケルベロスを視界に収めたのとほぼ同時にレーザーを撃った渚だが、その攻撃はライトケルベロスの前で消滅した。そのことに眉をひそめる渚にルークが話を続ける。


『さらに上位にヘビーってのがいるからライトだ。三つ首から順にアイテールライトのシールドを発生させることでシールドを継続しながら突進を可能としている。レーザーも見ての通り、今の出力じゃあ効果はないな』

『今の出力なら……か。だったらいけるかな』

『なんだって?』


 ルークが怪訝そうな顔をしたが、渚の脳内ではミケが『イケるね』と同意していた。


『渚、高出力モードを解放する。ただ外すと次まで時間がかかるけど』

(まあ、そんときはそんときだ。問題ない。やってくれ)


 渚の了承の返事にミケが頷くと、レーザー狙撃銃が変形し始めた。銃身が伸び、いくつかのパーツが変形して内部をむき出しにし、さらに銃に付いていたみっつのリングが分離して銃口の前に並んで浮遊する。それにはルークが驚きの顔をしたが、どうやら高出力モードについては知らなかったようである。


『照準セット完了。あらら、馬鹿なヤツだ。当たらないと踏んで直線に突っ込んできてるぜ。ま、悪いが次は通るけどな!』


 そして渚がトリガーを引くと高出力のレーザーが放たれた。それは浮かんでいるリングの間を次々と抜け、それぞれを通過するたびに収束されて縮まり、より圧縮されたレーザーとなって直進していく。


『うぉっ』


 その一撃は空中に炎の道を作りながらライトケルベロスのシールドを貫通し、本体も貫いた。


『え、なんだそりゃ?』


 思わずそんな言葉を口にしたルークの前で、レーザー狙撃銃はプシューと煙があげながら元の形に戻っていき、またアイテールシリンダーがガコンと出てきた。


『あ、使い切ったね』

『マジかよ。威力高すぎだろ』


 ミケの言葉と予想外の威力に渚は驚きの声をあげたが、ともあれ敵のボスは倒した。残った敵はスケイルドッグだけだ。


『まあいいか。残りはライフル銃でいくか』

『いや逃げていくよ。ボスを倒されて勝てないと見たようだね』


 そのミケの言葉と共に背を向けて去っていくスケイルドッグたちの姿が渚の視界に映し出される。


『なんだよ。根性ねえな』


 その様子に渚は手に取ったライフル銃を下ろした。すでに探知範囲外。当たる可能性は低く、撃つ意味は薄かったのである。

 それから一行は倒した機械獣のパーツとアイテールを回収すると、その場を離れて再び目的地に向かって進み始めた。




  **********




『またかよ。クソッ』


 渚が思わず叫んだ。

 現在の渚たちはスケイルドックを退けてから計九度目の機械獣と接敵していた。これまでと異なる異様な遭遇率には渚ならずとも全員が苛立ちを覚えていた。そして、今回襲撃を仕掛けてきたのはウナギスネークと呼ばれる機械獣だ。


『銃が効かないから苦手なんだよな、こいつら』


 ルークがそんなことを口にしながらバイクで逃げ回りつつサブマシンガンで撃ち続けているが効果は薄い。一方でウルミは刀型のアイテールブレードで斬り裂き続けていた。


『電磁流体スキン。銃使いには厄介だけど、私には関係がないわね』

『また出番ですわよクロ』

『これが終わってしばらく休めれば良いのですけれどね』


 リンダやクロも次々とウナギスネークを捌いていく。ウナギスネークの弱点は斬撃だ。渚も補助腕サブアームについたメテオファングやバスターモードの手刀で挑み、そして十分後には今回の戦闘も無事に終了していた。もっとも被害がないだけで疲労は蓄積されている。


『これで九度目の襲撃ですのよ。それも数もバラバラ、種類も別。なんなんですのよ、これ?』


 リンダが悲鳴のような声をあげてその場にへたり込んだ。さすがにハイペースでの襲撃に彼女の疲労もかなり溜まっているようだった。


『正直ケイたちは置いてきて正解だったわね。来たらあの子ら何人か死んでたわ』


 またウルミが息を整えながらもそう口にする。

 各々の戦闘能力の高さから機械獣の襲撃にもまだ耐えられているが、カモネギ従騎士団の面々が仮についてきていた場合、乱戦に巻き込まれでもすれば相当な被害が出た可能性は否定できない。


『まあ、バリエーション豊かなのは百鬼夜行のハグレだからだろうな。となると、目標には近付いているとは思うんだが……おい、あれ?』


 そう言って、周りを見回していたルークがとある一点を指差した。

 リンダと同様にその場に尻餅をついて座っていた渚がその指先に視線を向けると『あ!?』と声をあげた。そこにあったのは砂漠から突き出た建造物と中に入るための扉だった。


『なんだ? 天遺物の残骸か?』


 ルークが怪訝な顔をしてそれを見るが、渚にはその扉に覚えがあった。おそらくあの扉は……


『ミケ……あれって、もしかして?』

『うん、そうだね』


 そして渚の問いをミケが肯定する。


『おめでとう渚。無事に到着できたようだね。君にとっての始まりの場所に』


 そう。そこにあったのは、かつて渚が脱出した軍事基地の非常用出口であったのだ。


【解説】

電磁流体スキン:

 電磁流体装甲と同様に銃弾を弾く機能を有しているが、その素材は柔らかく柔軟性に富んでいる。衣服などに流用できれば良いのだが、機械獣から剥いで再利用する技術は現在の埼玉圏内にはないようである。

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