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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第3章 ドラゴンロード
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第105話 渚さんと蟷螂拳

 謎の振動を感知した渚たちは震源地に向かってアラカワ渓谷の谷底を移動していた。その振動はウルミが機械獣と戦闘を行っているために起きているのではないかと考えているケイの足取りは早く、強化装甲機アームドワーカーの歩みは渚たちの先に行っていた。


『い、急ぎましょうふたりとも。先生が今まさに戦っているのかもしれません。ここは早く』

『落ち着けってケイ。周囲の警戒を怠るなよ。お前の先生はそういうのを教えてくれない人だったってわけじゃないだろ?』


 クリアリングはしっかり……そんな姉の声がわずかに記憶から蘇った渚の言葉に対し、ケイは歯ぎしりしながらも移動速度を落としていく。


『先生なら……そうですね。感情的になったらダメなんだ』

『素早く、慎重に、正確にだ。急ぐに越したこたねえよ。ともかくあたしが前に出る。お前は周りを警戒しながらついて来い』


 渚がそう言ってバイクを走らせる。

 実際、このメンツで最も周囲の警戒ができているのは渚……というよりはミケである。全天球監視カメラとミケの連動で360度をリアルタイムで監視が可能であるためにその死角はほとんどないと言っても良い。

 とはいえ瘴気の霧の中ではそれも確実ではなく、光学迷彩などが使われれば見逃す可能性も高い。全員が警戒をし続ける意味はあった。


『しかし、この振動って戦闘じゃあないんじゃないか?』


 渚が今も響く振動を感じながらそう口にする。

 振動は定間隔で発生しており、どうにも慌ただしい感じもしていない。それにはケイも少しだけ考えてから頷き『確かに……』と口にした。


『僕の早とちりだったかもしれません。けれど転がっている残骸は増えているし、この斬られ方は間違いなく先生のものです』


 谷底に転がっている機械獣の残骸だが、途中から銃弾による攻撃の跡が消え、アイテールソードらしきもので斬られたものしか見なくなっていた。


『銃撃の跡がないのは弾が尽きたのでしょうが、それ以降は全部斬って倒しているということはアイテールソードを使い続けてるのですわよね。どうやってアイテールを消費続けながら戦っていますの?』

『そうですね。戦い続けながらアイテールの回収は難しいでしょうし、とても保つとは思えません』


 リンダの疑問にクロも同意する。

 だがケイは少しだけ誇らしげな顔で首を横に振った。


『いえ。先生の剣と機体は特別製で、それ自体はおかしいことではないんですよ。先生は敵がいる限り、戦い続けることができるんです』

『それはどういう……』

『渚、動体反応だ』


 ケイの言葉の意味を問いかけようとした渚に、突然ミケから警告の声が響いた。そして渚は正面の瘴気の先に何かがいるのを察知する。


『あれは……さっきのスカラベか。全員、止まれ』


 手を上げて停止を促す渚にリンダたちの足が止まった。


『どうしたんですの? あら、霧の先にいますわね』


 渚の視界を共有したリンダが霧の先にいるキャリアスカラベたちの姿を確認する。ミケが視界をフィルタリングし、霧の先を見えるようにしているのだ。最もその恩恵を受けていないケイはふたりのやり取りの意味が分からず首を傾げた。


『あの……もしかして瘴気の先が見えるんですか?』

『まあな。奥にキャリアスカラベと、もっとデカいのがいる。多分、アレが振動の出元だ。ガラクタを集めた何かを地面に叩きつけてる』

『ジャイアントスカラベですわナギサ。家ほど大きいですし、叩きつけてる塊はおそらくキャリアスカラベの集めたものを纏めているのでしょう。どうします?』


 リンダの問いに渚が考え込む。

 ジャイアントスカラベや、数の多いキャリアスカラベが相手だ。今は探索中なのだから、できれば戦わずに先へと進みたいというのが渚の本音であった。


『あんなでかいのとこの狭い場所で戦いたくはないな……まだ気付かれてはいないけど』

『あの、ナギサさん。スカラベたちはこちらの残骸にはまだ手を出していないのですから、おそらく彼らは反対側から来て、それであの場で倒された機械獣の回収を今しているところなんだと思います』

『ああ、そうだな。となると、この先を進んだのならばスカラベたちとも戦っているはずだし、相手は動いている。とすれば生きていれば、この周囲にいるかもしれない……か』


 渚の言葉にケイが頷き、それから渚は正面の瘴気の霧を見る。

 戦闘を行うにしても、キャリアスカラベと戦うだけならともかく巨大なスカラベを倒すとなるとタンクバスターモードは使わなければならないだろう。どうするか……と渚が考えかけたとき、ミケが『渚、不味い』と声をあげた。

 そして次の瞬間、上空から『何か』がケイの乗る強化装甲機アームドワーカーへと高速で飛来していくのが見えた。


『危ねえッ』『うわっ』


 渚の声とケイの悲鳴が同時に響き、緑の火花が散った。バイクから飛び降りた渚が上空から接近したカマキリの形をした機械獣の攻撃をバスターモードのマシンアームで受け止めたのだ。


『なろぅっ!』


 そして渚がショットガンで反撃すると同時に、機械獣はその場から跳び下がる。


『いきなりかよ。あいつ、隠れてやがったのか』

『ギリギリで気付けたよ。危なかった』


 渚とミケがそう言い合いながら、その場から下がった機械獣へとショットガンを撃つが、散弾をわずかに当てられただけでダメージはほとんどない。恐るべき回避能力であった。


『そんな……ブレードマンティス、こんなのまでいたのか?』


 またケイがそのカマキリ型の機械獣を見て、怯えた声を出している。


『なんなんだよ、ありゃ? ずいぶんと物騒なヤツっぽいけど』

『ブレードマンティス、傭兵と呼ばれている機械獣です。手強いですわよ、気を付けてくださいまし』

『そうだね。アレは今までの機械獣とは違うと思う。それに渚、ブレードマンティスは三体いるみたいだ。それにスカラベたちも気付いた』


 戦闘は不可避。状況はよろしくない方向へと流れ始めていると理解し、渚が眉間にしわを寄せながら舌打ちする。


『やるしかないか。ケイはガトリングレーザーでスカラベを狙え。遠慮すんじゃねえぞ』

『分かりました。ナギサさんは?』

『あたしはカマキリ野郎を二体引き受ける。リンダ、一体いけるか?』

『問題ありません。一体は貰いますわよナギサ』

『ああ、頼んだ。死ぬなよ』


 先ほどの手応えからリンダにブレードマンティスは一体でも厳しいと渚は感じたが、ケイでは対処仕切れぬだろうとも予想していた。アイテールチェーンソーは渚が持っているし、強化装甲機アームドワーカーで先ほどの攻撃を受けるにはケイはまだ未熟であった。


(こっちが急いで二体を倒して、助けに行くしかないか)

『センスブースト! チッ、あっちも速い!?』


 そしてすぐさま意識を加速させる渚だが、自分に向かってくるブレードマンティスの動きに目を見開く。敵の速度がセンスブースト後でも捉えきれぬほどに速く、それにはミケも表情を硬くした。


『不味いね。ブースト率を上げる』

(頼む。これは厳しいな)


 さらに意識を加速した渚がブレードマンティスの一撃を避けて懐に飛び込もうとしたが、続けて近付いてきた二体目のブレードマンティスの爪も迫ってきていた。


(ミケッ)

『うん。補助腕サブアームで対処する』


 そして緑色の火花が散る。

 それはメテオファング付きの補助腕サブアームが二体目の攻撃を受け止めたために発生したものだが、受け止めることこそできたもののパワー負けした渚の身体が吹き飛んでいく。


(なろぉっ)


 けれど渚もただ弾かれただけではない。宙を舞いながらも狙いを付けて一体目へとショットガンを撃ち続けていく。


(避けた!? マジかよ)


 だが、その射撃をどちらのブレードマンティスも避けていく。


『軍用ではないけど戦闘型か。こりゃあ厳しいね。下がるよ』


 そう言ってミケは渚の身体が地面に接触する直前に残りの補助腕サブアームで地面を蹴って後方へと跳ばし、ブレードマンティスからさらに距離を取った。


(当たれ、当たれ! チィ、全然駄目だな)


 渚はその状況下でも手を止めずにショットガンを撃ち続けるが、幾つかの散弾は当たっているものの致命傷には至っていない。それは散弾であることを把握し一番ダメージが通らない形で避けているようだと渚は感じて苦い顔をする。


『あいつヤバいぞミケ』

『確かにね。今までとは違うタイプだ』


 距離をとった渚はセンスブーストを解くと、自動で近付いてきたバイクに積んであるグレネードランチャーを掴んで手に取った。


『じゃあこいつはどうだよ?』


 それはオスカーより貰った六連発できる回転式弾倉型。渚はそれを迷わずブレードマンティスたちを狙って撃ち続けるが、それも当たらない。それどころか渚が放った対装甲弾頭をブレードマンティスは斬り裂き、分断されたソレは空中で爆発していく。


『嘘だろ。弾頭を斬り裂いた?』


 その離れ業に渚が驚愕したが、ミケは『弾道予測線だ』と口にする。弾頭そのものは見えなくとも、来る方向と速度が分かっていて、機械の正確な斬撃がそこに加わればそうした芸当も可能なのだ。


『弾道予測線を処理できるほどのタイプか。厄介だね』


 ミケの言葉に渚の表情からさらに余裕が消える。

 どうしのぐのか。もはや撤退も怪しい状況に迷う渚だが、突然視界に何かが宙を舞ったのが見えた。


『クロ!?』


 同時にリンダが叫ぶ声が聞こえた。

 飛んでいたものはクロが操るソニックジャガーの下半身だ。

 そして、リンダとクロが受け持っていた三体目のブレードマンティスの首筋にソニックジャガーが上半身だけで噛み付いてぶら下がっているのが見えた。


『不味いな。このままだとリンダも』


 リンダはクロとの連携で辛うじて三体目を足止めできていたのだが、それがひとりとなっては……と渚が危ぶんだところだ。


『渚、チャンスだ!』


 突然、ミケがそう声を上げたのだった。

【解説】

ブレードマンティス:

 同種での群れは作らず、他の機械獣の群れに付いて行動するタイプの機械獣。

 アイテール回収を目的としていない純粋な戦闘型の機体であり、主武装のブレードは長く、若干弧を描いた片刃となっている。

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