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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第3章 ドラゴンロード
100/321

第100話 渚さんとエリートキッズ

祝100話!

『うっし、これで最後か。思ったよりも楽に片付いたな』

『やっぱり強化装甲機アームドワーカーは強力だね。燃費も悪いしかさばるけど』

『けど、持ってきて良かったろ』


 渚がミケにそう返しながら、オーバーヒートして煙を噴いているガトリングレーザーを降ろして周囲を見回す。ミケの演算により近辺の状況はすべて把握されており、渚の視界にはそれぞれにマーキングも付いて表示されている。リンダとクロも無事なのも確認できており、従騎士団のメンバーに対しては味方信号ではなく中立、照準がいつでも合わせられるように設定されているが、ひとまずは問題ないようだった。


『で、とりあえず機械獣の始末は済んだけどよ。いきなり撃ってきたりはしないよな?』

『多分ね。けれども、今はまだ信頼に足る相手でもない』


 ミケがそう言い切る。

 従騎士団の構成は補助外装サポートフレームと呼ばれるアシスタントスーツを装着した子供たちであったが、それでも全員が武装している。それに先ほど爆発して放棄したようだが、強化装甲機アームドワーカーすらも所持していたのだ。戦闘能力を持っている相手に子供も大人もないとミケは考えていた。


『すみません、助かりました』


 そして渚が彼らを観察していると、ビークルの中からヨロヨロと少年が出てくる。それから他の子供達もその場に集まって並んでいく。


『僕らはコシガヤシーキャピタル、カモネギ従騎士団です』

『カモネギ……』


 その名前はありなのだろうかと渚は思ったのだが、この場で疑問に感じたのは渚だけのようであった。


『僕は団長の……ッ、ケイです』

『んだよ。怪我してんのか?』


 渚の声にケイが少しだけ首を傾げたが、話を続ける。


『はい。情けないことですが強化装甲機アームドワーカーを破壊された際に』

『ああ、あのときの。よく助かったな』

『おいお前、見てたのかよ!?』


 渚の言葉に少年のひとりが声を荒げる。どうやら助けずに見ていたと思われたようである。そしてその少年の態度にケイと名乗った少年が口を開く。


『ビィ、失礼だぞ』


 ケイの注意にビィと呼ばれた少年が『けどよぉ』と声を出したが、対して渚も状況を察して口を開いた。


『あたしらこの先のクマガヤタワーで今晩泊まっていてさ。それで騒がしいのが見えたんで駆けつけてきたんだよ。間に合わなかったのは済まなかったな』

『いえ。お気になさらず。この戦闘で従騎士団内の死傷者は出ていませんから』

『なら良かった』


 ホッとした声の渚に、ケイが申し訳なさそうな顔をする。


『それよりも、どうやらそちらの休息のお邪魔をしてしまったみたいですね』

『ま、そこらへんは持ちつ持たれつだろ』


 渚がそう返した。自分たちが休んでいたクマガヤタワーにケイたちが機械獣を連れてきたのは事実だが、それがわざとではないのは明らかだし、すでに状況も片付いている。渚にしてみれば問題はその後である今だった。


『まあさ。戦闘も終わったしお前も怪我しているみたいだし、後から来るうちのリーダーと一緒にまずはクマガヤタワーまでいって休んでいてくれよ。あたしはそっちの強化装甲機アームドワーカーや機械獣のパーツをちょっと回収してくるからさ』

『あ、でしたらこちらも手を』

『んー、そんじゃあみんな足腰ガタガタしてるしさ。力が余ってるのだけ頼むわ』


 渚はそう言ってリンダと共にすぐさま動き始めた。それをケイが指示した補助外装サポートフレーム装備の何人かが追い、それから小一時間ほどで回収を終えた渚たちはクマガヤタワーへと帰還を果たしたのであった。




  **********




「おお、結構広いテントだな」


 戻ってきた渚たちの目にまず入ってきたのはクマガヤタワー内部に設置された大きな簡易テントだった。それは渚たちのものではなく、ケイたち従騎士団の所有物だ。そしてテント内に入った渚とリンダ、それに団員たちをルークとケイが出迎えた。


「戻ってきたなふたり共。クロはどうした?」

「外で見張りについていますわ。なので、そちらも攻撃しないでいただけると嬉しいのですけど」


 リンダの視線が向けられたケイが頷く。


「もちろんです。機獣使いは珍しいですけど、僕らにも知識はあります。敵でないと分かるように何かしら塗装などをお願いしたいところですが」

「まあ確かに。何か目印を考えておきますわ」


 鹵獲したばかりであるのでそこまでの手が回っていないが、確かにクロなのか機械獣なのかの区別は必要だった。


「それで、あたしらがいない間に話は終わったのか?」

「いんや。一応、お前らが戻ってきてからと思って自己紹介程度だ」


 そのルークと渚のやり取りを見て「まさかあの乗り手が同い年だったとか」とビィが口にした。それに渚が反応して、眉をひそめる。


「いんや、あたしはお前らよりもお姉さんだよ、多分な」

「チンマイが、まあそっちのリンダと近い年だ。リンダの方が一歳上か?」


 その問いにリンダが頷くと大きいものがボーンと揺れた。


「え、このデケエのと……マジかよ」

「あんた、今どこ見たのよ?」

「アイ、うるせえよ。見てねえよ。物珍しかっただけだよ」


 アイに睨まれたビィが慌てて言葉を返した。その様子にケイがあははと少しだけ恥ずかしそうに笑ってから渚を見る。


「ヤマト族は年齢よりも幼く見えますからね」

「んーニホ……いや、そっちもヤマト族だろ。つかそういうフォローは良いっての。昔から言われてることだし気にしてねえよ」


 そんなことを口にしながら、渚の脳裏には過去の記憶が少しだけ蘇った。それは巨乳巨乳と自分を罵る姉の姿だ。その光景を思い出しながら渚は思う。時代によって基準は違うのだと。かつての時代では巨乳であった自分が小さく見えても仕方のない話だろうと。そんなしょうもないことを考えている渚の前で、ケイが姿勢を正して頭を下げた。


「ともかく助けてくれたこと感謝いたします。まさかメディカロイドまで連れているとは思いませんでしたし、皆救われました」

「別にもらうもん貰ってんだから問題ねえって。だろルーク?」


 渚の問いにルークが頷く。すでに治療費の代金はいただいているようだった。


「そうですか。それでは先ほども言いましたが改めて自己紹介を。僕はカモネギ騎士団の団長ケイと申します。こちらは副団長のビィとアイ。他も皆従騎士スクワイアです」

「クキシティの狩猟者ハンター調査局所属のルークとそっちのふたりがリンダとナギサだ」


 ルークの紹介に渚とリンダが頷いた。そしてケイが渚を見る。


「ああ、ナギサさんというのですね。先ほどの強化装甲機アームドワーカーの操縦は見事でした。ずいぶんと慣れているようでしたが」

「んー、いやまともに戦ったのは今回でまだ二回目だからなぁ。そうでもないと思うんだけど」

「は? あれで?」


 ビィが素っ頓狂な声をあげる。他の団員たちも驚きを顔に出していた。その様子に渚が首を傾げながら「なんだよ?」と口にする。


「なんだよって……あの動き、うちの騎士ナイトだって簡単にできるもんじゃねえぞ」

「あーそれはまあナギサは色々とあってそういうのが得意なんだ。なあ、ナギサ?」

「ん? ああ、そうだな。そういうのはあたしの得意分野だ」


 その言葉にケイやビィが眉をひそめたが、マニュアルデータのフルインストールはチップ持ちの渚だからできることであり、通常可能なことではない。それからルークがケイを見た。


「それで騎士ナイト……か。なあケイ団長、従騎士団には引率の騎士ナイトがひとり必ず付くものだと俺は聞いているんだが、そちらの方は今一緒にはいないのか?」


 その言葉にケイたちが苦い顔をして、それからビィが「百鬼夜行だ」と声に出した。それには渚もリンダも、ルークですらも驚きの顔を見せた。百鬼夜行。それは渚も遠目に見たことがある、機械獣の大移動であった。


「それは確かなのか?」


 ルークの問いにビィが頷く。そしてこう告げたのだ。


「ああ、そうさ。俺たちは機械獣の集団に襲われた。どうしようもなくなって、俺らを逃がすためにウルミの姉ちゃんがひとり残って時間を稼いでくれたんだ」

【解説】

従騎士団:

 将来騎士団になることを目指し教育されている十歳から十五歳までの従騎士スクワイアの集団。通常は首都内での訓練の日々を送っているが、実戦経験を得るために遠征することもあり、通常は騎士ナイトが引率として付いている。

 なお、構成メンバーにはヤマト族の割合が高い。

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