閑話 戦闘狂な二人
次回から本編開始です。
――オルソン公爵領、領主城のとある一室にて。
「街が騒がしいな」
一人の男が呟き、部屋を見渡す。そこには甲冑を纏いし騎士たちが両側一列に並び立っている。その男から一番離れた位置にいる、私、ノルン・ヒルダは一歩前に進み一礼をして男に伝えた。
「先日の女神シロ様の降臨により城下で連日祭りとなっております、ロバート様」
私の前には、領主ロバート・セシル・オルソン公爵様がいる。
髪は茶髪で青い瞳をギラギラとさせている。この場いる男性の中で ロバート様の身体は誰よりも大きい、獣人の巨大な体より、人族の彼の体は段違いなのだ。身体は鍛え抜かれた筋肉、鋭い眼光はまさに強者だ。後方には愛用の巨大な斧が置かれている。その斧は魔法で身体を強化しても私は扱えない、ここ居る騎士も同じだ。 ロバート様はその斧を眺め、窓から城下を見つめ、「夢ではないようだ」と小声で呟く。視線の先には数日前に建てた離宮が映っているようで、深いため息を吐く。
そこには今まさに女神シロ様がお眠りになっている。その離宮は急遽作り上げたロバート様はまだ体調が悪いのか頭を抱えている。あまりにもその姿に私を始め他の騎士も驚きを見せている。だが、一人だけにこやかにロバート様に視線を向ける者がいた。
「筋肉ダル・・・マ・・・ではなく、ロバート様。女神シロ様は相変わずお眠りになっておりますが、シノ様によると、もうじきお目覚めになるとのことです」
彼女はメイドこと“ジル様”はそう言いほくそ笑む。
見た目は実に美しい女性だ、美しいのだが、ロバート様をまるで害虫を見るような目で見つめ、フフッと笑う。メイドさんがこんな態度をしているにも関わらず、その場に居る騎士は何も言わない、目を合わせない。彼女に皆、恐怖しているのだ。もし、逆らいでもするなら、公爵領から追い出され、過酷なダンジョンに身ぐるみを剥がされ放り込まれると云われる者だ。私はその場面を一度見ている・・・只今絶賛“ジル様”から視線を逸らしているロバート様だ。
一体、なにをしたかと言われると、些細なことだったたらしい。だが、それは“ジル様”の逆鱗に触れてしまいロバート様はダンジョンに転移魔法で彼の地、【地下迷宮ノア】 のダンジョンへと飛ばされたらしい。私は恐ろしくなり、その日からメイドさんを“ジル様”と呼ぶようになった。
転移魔法にて飛ばされたロバート様は、約一ヶ月後ヒゲをぼうぼうと生やし、にこやかに高笑いしながら「今戻った」と告げると、ジル様は黒い表情を浮かべ、ロバート様に聞こえるようチッと舌打ちしにした。
すると、ロバート様は満面の笑みを浮かべ彼女の前に跪いて「ジル帰ったぞ!!土産だ!!・・・・・・愛してる!!!!」その言葉に私は、唖然となった。
恐る恐るジル様を見ると眉間に皺がより、美しい顔に血管が浮き上がって黒い笑みを浮かべる。そして「お帰りなさい、あ・な・た」と言った。
私はその瞬間理解した、まだ騎士になったばかりで解らない私でも解った。彼女はジル・セシル・オルソン公爵夫人と。
(・・・そんなやり取りがあったのは数年前だったなあ)
ジル様は王家に連なる姫であり、文武両道。全て分野にて成績優秀であるジル様が、筋肉ダル・・・マ・・・じゃなかった、ロバート様の奥さんとは何だか釈然としない。ふと、ジル様と目が合うとにこやかに笑いかけらると背筋がゾッとしたが私も笑みを浮かべる。今現在、ジル様はシロ様のお世話をしているらしく、毎日充実した日々を過ごしていると言われていた。
そして、私もまた離宮に招かれ、私の能力、“読心術”にてシロ様に触れてあることを知った。今日はそれを伝えるためにこの場に私は居る。
・・・が、中々言い出せない。ロバート様とジル様がものすごい火花を散らしなが視線で夫婦喧嘩を繰り広げているからだ。そんな中で部屋の扉が開く。その場の者たちは視線を動かした。
そこには、ダノン隊長とシノ様がいた。
「また喧嘩しておるのじゃ・・・あきんのう、お主らは・・・はあ」
「いや~あついねえ~おじさんも嫁さんほしいなあ・・・・っと、失礼!城下より今戻りました、ロバート様」
「おう、帰ったな!城下はどうだ?」
「はっ、随分と賑わっております、これもあの嬢ちゃん・・・じゃなかった、シロ様の祝福のおかげです。あの光の羽の影響は絶大です。なんでも、冒険者が失った腕や足が元に戻ったことや、魔物の力が弱くなったこと、まだまだ、色々あるようです」
「ほう、それは凄い、しかしな・・・ん~魔物が弱くとは・・・面白くないな・・・」
その場の者はロバート様の言葉に苦笑い浮かべる。確かに、弱い魔物は面白みなどなく、ただ狩るだけだ。楽しくないなと私が頷いている、ロバート様が満面の笑みを浮かべ、私ところ来て高笑いをしなが言う。
「アハハハ!!ノルンもそう思うだろう!!!弱い魔物は心が揺れぬ、狩るならば強い魔物、そう、ドラゴン種が心躍る!!!」
「はい!!!私もドラゴン種がいいです!!!黒龍などぶっ飛ばしたいです!!!」
「おおおっ!!!よい!!よいのおおお!!!!ダンジョンで暴れるぞおおおっ!!!!」
「「アハハハッ!」」
私はまだ知らない。周りの者に変人と思われていることを、私はまだ知らない。ふと、意気投合して興奮しているとジル様と目が合う。
(・・・ひっ!?・・・え、獲物を狙った目だ・・・ひいい)
とビビっていると、ジル様がコホンっと咳払いして言う。
「ノルン、あなたがシロ様から読み取ったことを皆に伝えて頂戴。あと、狩りにいくなら、私もいきますからね?ノルン、あ・な・た?」
「う、うむ・・・・・ノルンと報告を頼む」
「はい、私のスキルにて判明していることは、今現在シロ様は“天啓”をお受けになっております。これは神殿の巫女、シノ様と共に確認をしているので間違いはないかと思われます」
「そうなのじゃ、なんでもかなりヤバイ存在と相対しておるのう・・・・・・・・はぁ」
シノ様はそう告げると深いため息を付きうなだれた。何やら、やつれている様子なので元気を付けなければと思い、ロバート様と視線を合わせ声を合わせる。
「「元気がない時はダンジョンに行きましょう!(行くぞ!!)」」
「はあ、イヤじゃ!!・・・・ちょ!? ノルン・・・・目が怖いのじゃ!・・・・ノルン!??・・・・えっ!?・・・や、やめるのじゃああああ!!!!死にとうないいいいダノン殿おおおおお!?お助けええええええ!??ひいいい!!!」
「「ダンジョンはイイですよ!(良いぞ!!)」」
「ひいいいいいいい」
そうして、私とロバート様はシノ様を引っ張りダンジョンに向かった。
「「ヒヤッハアアアア」」
「もうイヤじゃああああああああ!!!!シロ様お助けえええええっ!!!!」
私の後方から悲鳴が聞こえたが、私はそれを無視することにした。
目の前には、数十体の魔物ゴブリンを純粋な剣技のみで全て一刀両断し屠った。ロバート様は高笑いをあげながら、五体の巨人トロール相対する。トロールは全長約6m弱の大きさの魔物だ。一瞬の刹那に五体のトロールは悲鳴を上げることなく、真っ二つになり絶命した。そして立て続けに小さなゴブリン共を踏み潰し、紙のごとく破り捨てる。
薄暗いダンジョンの通路は気づけば血の海となり、魔物の死体は消え去り小ぶりの魔石が散乱した。
「・・・筋肉ダルマが二人もおるのじゃ」
「「何か言いました!?(言ったか!!)」
「なんでもない、なんでもない・・・・もうやだぁ・・・・帰りたいよぉ・・・」
「今からラストボスですよ、楽しみですね~ロバート様!!」
「ああ、腕がなるぜえ~!!!」
「「アハハハハハハ!!!」」
「はああああああ、どうしてこうなったのじゃ・・・あの優しいノルンがなぜこんな戦闘狂に・・・どこで間違ったのじゃ?どこでじゃ?・・・・・・あは、あはは・・・・はああ」
「開けるぞおおおおおお」
「はい!!!!」
後方で何か聞こえた気がしたが、私はそれを無視して自分に身体強化魔法を掛ける。そして、ロバート様の手により大きな扉が開かれる。そこは広々とした円状の部屋だ、私たちが部屋に入ると青い炎が松明に灯る。
「ゴオオオオオオオオオオオ!!!!」
耳の鼓膜が破れそうになる魔物の咆哮が鳴り響く。
目の前には地竜が居た。見た目は四足歩行をし巨体は頑丈な茶色の鱗で覆われており、翼は退化してない。大きさは約20mを優に超える大きさであり、その体を俊敏に動かせるドラゴンでもある。強力な武器はブレス、尻尾での薙ぎ払いが威力があり危険だ。その為、中距離、遠距離から攻撃が主体になるんだが、今は遠距離職がシノ様しかいない為、近距離職の私とロバート様が主体となり攻撃し相手を屠るのだ。
それだけで、私達は心が揺らぎ、興奮する。
「「ブチかませえええええ!!!!ヒヤッハアアアアアアアアアアアアア!!!」」
「・・・・・・・・・・・・・・・アハハ」
それから、ふと気づくと私の前には無惨に息絶えた地竜が横たわっていた。どうやら私は魔力切れで、ぶっ倒れていたらしい。地面に寝ていたので至るとこがズキズキと痛む。起き上がると私から少し離れた場所に座り込むシノ様の姿が見え、地竜が横たわる場所ではロバート様が素材を切り出していた。
大きな鱗、大きな角と牙、透明なガラスの瓶に入っている血、様々素材がそこに広がったいる。確か、ドラゴンに捨てる場所などないと云われていた筈だ。
どの素材も売れば金貨50枚以上になる、それも“極僅か”でもだ。それだけ高価な代物である。高級ポーションには必ずと言っていいぐらいドラゴンの素材が使われている。ちなみに、ダンジョンで希にしかドラゴン種は出ないのだが、何故かロバート様がボス部屋を開くと必ずと言っていいほど最強と云われるドラゴン種が現れる。扉の開ける者のステータスにて現れる魔物を強さが上昇すると、ジル様が言っていた。だから、私はダンジョン行く時は、大抵ロバート様かジル様に付いていく。なにせ強い二人の力が見れるのだ。素晴らしいのだ。
立ち上がりシノ様に近づくとなにやら白目を剥いて気絶をしておられた。見なかったことにした私は解体中のロバート様を見つめ、地竜に視線を移すと唖然となった。
「私の剣が折れてる・・・・・?」
私の剣が地竜目を刺し、剣半ばからポッキリと折れていた。アダマンタイトから作られた剣が折れていた。
折れていた。折れていた。折れていた。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアア」
「おおわっ!?どうした、ノルン!いきなり叫びよって」
「わ、わ、わ、わた、わたし、わたしの、わたしの、アダマンタイトの剣があああああああああ」
「アーソレはな、その、あの」
「なぜなぜなぜなぜなぜえええええええ!!!???」
泣いた、凄く泣いた、しかし、ロバート様はケロッとしている。アダマンタイトの剣がそう簡単に折れる筈がないのに折れている。
凄腕のドワーフが造り上げた物が地竜に刺さり折れている。
折れている。折れている。折れている。アハハハ。
(・・・あ・・・ロバート様のアダマンタイトの斧も折れてる・・・・ん?)
ふとロバート様感情が私のスキル読心術で読み取った。
「(ヤ、ヤバイ、折ってしまった・・・ふ、不幸な事故なのだ・・・あ・・・・ノルンと目が合ってしまった!!!??)くう、き、気にするな、ノルンよ、ま、また作れば、『なんだって?あぁん?』・・・ひいっ!!!」
私は折れた剣を引き抜き、首を傾げて問いかける。すると、ロバート様・・・筋肉ダルマが頭を地面に擦りつけ土下座をした。
この日から私は無言の威圧を筋肉ダルマに放ちながら過ごすことを決めて過ごしていると、ジル様も同じようになった。ダンジョンに連れて行かなかったのが逆鱗に触れたようだ。そしてもう一人傷ついた者もいた、シノ様である。
よくわからないが、どうやら神殿にこもって出てこないそうだ。また、ダンジョンにでも誘ってみよう!この攻防はシロ様が起きるまで続くことになるのだった。
「もうイヤじゃああああああ!!!!」
・・・・どうして、こうなった(笑)