閑話 天使が舞い降りた街
閑話、シロ様とノルンの出会い。
――オルソン公爵領 西門にて。
私の名は、ノルン・ヒルダ。種族は兎人族で、このオルソン公爵領で騎士をしています。今日はお昼から西門での監視の任務についています。しかし、特にやることがないので街の人々の会話にうさみみを立てているところだ。
都市の地下ダンジョンから初心者冒険者が制覇したとか聞こえてくる。ダンジョンは良い場所だ、公爵様曰く、素晴らしい場所であり、素材と魔石を売れば、食に困ることはないし、希にドロップするアイテムも売れればもっといい装備、武器が購入できる。しかし、初心者向けのダンジョンであるが、気を抜けば、死に至る場所。
「ああ、ダンジョン行きたいなぁ・・・はぁ」
ちなみに、魔物から剥ぎ取った素材は毛皮、角、骨様々な部位で買取金額が違う。魔石は大きさ、魔力の篭った色の濃ゆさに比例して金額が変動する。ドロップするアイテム正直、都市の地下ダンジョンからはあまり良い物は出ないが、希に良い物が出る。売れば一攫千金も夢ではない。
わたしはそんなアイテムを一つ持っている。マジックアイテムの“金色のブレスレット”。込められている力は読心術。相手の心の中を読みとる術だ。私の天性スキルも読心術で、完全に相手の思考を読める。天性スキルは生まれ持ってのものだ。しかし、私の天性スキルはイマイチだった“金色のブレスレット”を手に入れるまでは。なぜなら、相手に触れなけれ読心術は意味を成さなかったからだ。
相手の表情を読むことは出来たが、心の中を読みとるのは不可能だったので、剣術、魔法を死に物狂いで取得し、私は騎士となった。平民が騎士になったのだ。家族が、友が、周りの人が、口をあんぐり開けて完全に放心していた。
騎士とは貴族である、そうヒルダとは貴族名である。公爵様から頂いた名誉ある名。この名に恥じない行動が求められるのだが、私はあまり向いていないのだ。なにせ、平民魂から抜け出せいから仕方ない。それを知っている公爵様は豪快笑いながら「お前をそれでよい!」と言い更に豪快に笑う。
「はあああ」
深いため息を吐き、少し強い風が吹く。今日はやけに風が強いらしく、街からきゃあと多くの女性の叫び声と男性の歓喜も聞こえる。・・・・実に平和だ。
ふと街に視線を向けていると、凄まじいプレッシャーが掛かる視線を感じた。体全身が全力で逃げろと言っている気がする。手のひらの汗までわかるような焦りが溢れる。
「し、視線・・・?」
ゴクリと音が出るぐらい唾を飲み込んだ。
(ヤバイヤバイヤバイ読心術が効かない!!!???どうしよう、どうしよう、どうしよう!あっ!!念話、念話!!!隊長、隊長、ダノン隊長!!ダノン隊長おおおおお!!・・・・つぅ・・・・繋がらない・・・・はは、これやばいよぉ・・・・ううう)
半泣きしながら私はうさみみを動かす、しかし周りからは音などしない。ならば、もう一つしかないのだ。お化け・・・お化け・・・・・ひいいい・・・・し、死霊系の魔物しか考えられない。しかし私は光魔法は初級しか使えないので意味を成さない。歯が金物のようにガチガチなり体が震える。
そして冷たい冷たい突風が城壁上と私を襲う。
突風を両腕で防ぎ、過ぎ去るのを待つ。今の風はさらに、体全身が全力で逃げろと言った。足が竦む、そっと、そっと瞼を開く。
「・・・・・・・・・・・・・・・え?」
戦慄が体を突き抜ける。雷魔法に打たれたように身体中が痺れて動けない。目の前に“白い”得体の知れないものが突如現れた。いまもうさみみに自分の歯のガクガク鳴っているのが聞こえる。そして“白い”者は少し後方を確認し、私を見つめた。
“な、なにもないよ?”
美しいような、恐ろしいような、愛らしいような、声が頭に響き、恐怖で顔がゆがむ。
「ぎゃあああああああああ!!」
私は大声を出しながら走って逃げる、逃げる。背後から迫る気配に、全身の血が冷えわたって、動悸が高まる。振り返ると姿が見えなくなったり、見えたりする。白い悪魔に追われながら私は青ざめた、歌のような、呪文のような声をが聞こえたからだ。その瞬間、私は「ぎゃあああ!!」と叫ぶ。
“むうう、ひどいなあ~もお~!”
再び頭に声が響き、ブルブルと身震いして唇を食いしめる。
「声が・・・頭に響く・・・うう・・・なにこれぇ・・・」
“あれ、聞こえてるの?”
「ひいいいっ!???」
大きく私は首を振る。
(・・・・あれ、なんか・・・すごい・・・可愛い声?・・・んん~?ふぇ!???)
よく、目の前の白い悪魔みると幼女だった。髪、眉毛、睫毛、瞳、肌、服、全て真っ白の幼女が満面の笑みを浮かべ私を見ていた。
「あ、あ、あ、あなたはいったい」
“わ、わたし?”
「は、は、はい」
“ん~”
「・・・・」
白い幼女は腕を組み目を瞑る。
すると、聞こえた。ほんの少し彼女の心の声が。“ここから、はじめよう”と今にも消えてしまいそうな声が聞こえた。そして、彼女はまぶしいような、深い笑顔を浮かべて言葉を紡ぐ。
「わたしは、シロ!あなたは?」
雲の切れ間から光が溢れ、彼女を包み、白い透明な羽が舞い落ちて、彼女の背中に白い四枚羽の翼が見えた。そして、天高く続く、光の中に空中螺旋階段が見える。突風が吹き、白い羽が天高く舞い上がり、空で弾けて街に降り注ぐ。
――その日、天使が舞い降りた。
うさみみノルンさんはお化けが苦手!