白いシロ (3)
少し長めです。
前回のあらすじ、一行で。
シロ様、神様に怒られました。
「・・・・んぅ・・・ここは・・・」
マシュマロみたいなふかふかのベッドの中で、わたしは蛇のように蹲りながら、とろんと眠気の残った声が出た。どうもずいぶん長く眠った感覚があり、体全体がやけに重たい。ぼーっとして焦点が定まらず、脳細胞が起きていない気がする。体を起こし部屋を眺めると、ルネッサンス様式のような家具調度品が王宮の一室のように豪華で神々しく輝いてた。
そんな一室のベッドから抜け出すと、目の前の大きな鏡に自分の姿が映る。どうやら下着姿で寝ていたらしい。パジャマはベッドの上で丸まっている。いつ脱いだか思い出せないのだ。
「・・・・ふく・・・どこ?」
呟き部屋を見渡すがわたしの白の服一式がない。白の部屋で少年に言われたことを思い出し顔が真っ青になる。涙ぐみそうになり唇を噛みしめていると部屋にノック音が響いた。小さな声で返事を返すと扉が開く。部屋に入室して来たのは、ヴィクトリアンメイド服を着た人族の女性であった。年齢は二十後半ぐらいの女性だ。
黒のロングドレスに白いフリルの付いたエプロンで清楚感が伝わってくる姿だ。彼女はくびれる所とふくらむ所がはっきりした体つきで、背筋がスッと伸びている。金髪の髪を編込み後ろで結び、ゆるやかな美しい青い目でわたしに笑顔を向けた。
「おはようがざいます、シロ様」
「お、おはよう・・・ございます・・・」
「あら、目が赤いですね・・・怖い夢も見たのですか?大丈夫ですよ、ここは安全な場所ですから。・・・私はジルと申します」
「・・・シロです・・・あのぅ・・・わたしの白い服一式、知りませんか?」
「はい、こちらに・・・その前に湯浴みをされますか?」
暗く沈んでいたわたしにメイドさんこと、ジルさんが服を見せてくれたことにより、晴れやかな笑声をもらす。すると、ジルさんも口元がほころんだ。
「では、こちらに」
「はい」
そして彼女がドアを開けた場所に向かうと、10帖ほどの脱衣所があり、その先に曇り硝子張りのドアがある。わたしは、下着を脱いでいると後ろからきたジルさんが硝子のドアを開ける。すると、湯気がむわっと脱衣所に溢れ出た。すでに、お湯が浴槽に張ってあるようだ。
硝子のドアから中を覗くと、広々としたプールのようなお風呂があり、白色の大理石で作られた床と壁、白い柱と女神の像が目に映った。女神の像が持つ、瓶のような所からお湯が出ているようだ。視線を動かすと、複数ある小さな窓はステンドグラスであり、きらびやかに輝いている。
一言でいうとかなり豪華な大浴場である。
「うひや~すごい~!デカイ~広い~天井高い~!ひゃふっ!」
溢れる喜びを押し隠すことが出来ずわたしは大浴場を走り回る。ふと視線を感じる振り向くと声は笑っているが、顔は笑っていない、そんなジルさんがいた。はっとして身震いを起こしながら、ゆっくり歩き彼女の元へ向かう。小声で「ごめんなさい」と伝えると「滑ると危ないです」と釘を刺された。
ジルさんは大浴場内でも、メイド服のままいるので尋ねてみると事前に魔法を掛けたので濡れない、とのこと。その、魅力的なボディーを拝見したかったのに残念である。それから、わたしはジルさんの手により丸洗いされ、大きな浴槽につかり泳いだりしながらお風呂を満喫した。
ほくほく気分で大浴場からでるとジルさん真っ白でふかふかのバスタオルでわたしを拭き、エプロンのポケットから長さ二十センチほどの木で作られた杖を取り出した。
「なにをするんですか?」
「髪を乾かすのに使います。・・・乾燥」
杖先が淡く光ると暖かな風がふわっとわたしに吹く。すると水で濡れて重たかった髪が軽くなったのがすぐにわかり髪に触れる。指の間から流れるよにすっと抜けてサラサラ白髪が靡く。鼻歌交じりに髪を触り撫でているとジルさんが小さく「美しいです」と告げた。
それから、わたしはジルさんにより下着、白の服一式を着せれるということに唇を尖らせて、拒否をしたがメイドの仕事ですの一点張りにより彼女に衣服を着せられた。羞恥心がどこかに行ってしまったわたしでもなんだか恥ずかしい。服を着たわたしは再び目が覚めた一室に戻り、化粧台の椅子に腰を下ろした。軽く化粧水を顔に塗り、唇に淡いピンクの口紅を塗り、ジルさんが微笑んで頷く。
ジルさんはわたしの後ろに回り髪を結っていく。どうやら、フィッシュボーンとゆう髪型にするようだ。両サイドの髪を耳の上まで編み込み、耳から先の毛束は三つ編みをし、両サイドの三つ編みを真ん中で合わせ、白金のバレッタ(髪留め)で留めて完成したようだ。白金のバレッタは大きな粒のサファイアで装飾されいる。
「あの、ジルさん」
「はい、なんでしょうか?・・・・あと私のことはジルと呼んでくださいませ、シロ様。」
「えっと、そのジルさ・・・ジル、なぜ、おめかしを?」
「女の真の武器は剣、杖、防具ではありません。化粧と美しさです・・・・とゆうのはわたしの自論です、はい」
「は、はぁ」
「・・・すいません、話が逸れましたね。数刻後、領主ロバート・セシル・オルソン公爵様と謁見することになっております」
「公爵様かあ・・・ってここってあの白いお城なの?」
「然り」
「・・・そっか」
わたしの化粧や衣服がジルの手により整い、お茶の準備を致しますと告げて部屋を出て行く。一人になったわたしは大きな窓に視線を向けて、遥か遠くに見える白い塔を見つめた。途方も無い距離だろうと思わせる白い塔、そしてさらに先に黒く霞む山の様の物も見える。わたしの目は千里眼のような物だろう、と確信しながら、瞑想にでも耽るかのように目を閉じた。
そして、ジルの言葉で現実に引き戻される。
「――シロ様、お茶とお茶菓子ををお持ちしました」
「ありがとう」
■
ジルの準備したお茶こと、紅茶はわたしの知るアールグレイによく似ており、茶葉に柑橘系で香りを付けたフレーバーティー。そしてこの紅茶と相性が良いであろう、レアチーズケーキ。トッピングにイチゴとイチゴソースが添えられている。多分、この世界の紅茶、果物なので名前は違うだろう。しかし、わたしにはアールグレイの紅茶、レアチーズケーキにしか見えない。すごく美味しそうだ。
一口、アールグレイを飲むとわたしの知っている味がし、正直感動した。まさか、別の世界で飲めるとは思わなかったからだ。そして、切り分けられたレアチーズケーキを口に入れる。口の中で直様、レアチーズが溶け、クッキーを砕いて作ったクラスト生地がサクサクと響く。・・・感動ものだ。ああ、涙でそうと呟く前に瞼から筋を引いて涙がこぼれた。
「シ、シロ様!!??」
「美味ししゅぎて涙でたよぉ~ふえ~」
「・・・まだありますから、切り分けますね」
「うう、ありがとう~ジル~」
わたしは感激して涙が溢れながら小さな口でレアチーズケーキ頬張る。ジルは微笑みながらわたしを見つめる姿はまるで、姉のように、母のように。優しい視線だった。その表情だけでわたしは満面の笑みを浮かべ最後のレアチーズケーキを口に入れた。
それから、ジルからこの領地ことを教えて貰った。領地は大きな川に囲まれているそうだ。わたしが降り立った城壁の西門の辺りで、その場所はからは見えない場所だったらしい。町には多くの水路があるらしく城下町の人々しかしらない水路もあるらしい。
驚くことにこの水上都市を作り上げたのは、初代領主が一人で創造魔法を使用し創ったと云う。現に大規模な都市を創るとなると、かなり骨が折れるらしい。まず、人と魔力を確保し、創造する本城、城下町、道、水道。街に必要な全ての物を創造する見取り図を思い浮かべる。情報量が多すぎて、領主の身体が持たないらしい。
そして、今わたしがいる場所は、現領主、ロバート・セシル・オルソン公爵がわたしの為に創った離宮。それも数日前に。それゆえに現在療養中らしい。わたしが現れて領主及び側近の者たちは、興奮で胸が激しく波立つのを感じたそうだ。
ただ、わたしも何日間か眠ていたようで、領主及び側近の者たちは生きた心地がしなかった、とのこだ。何やら、わたしはやらかしてしまったらしい。むうと不貞腐れていると新しい紅茶が入れられる。横を見ると微笑むジルが小声で「半月はビックリ致しました、はい」と伝えられ、わたしは視線を泳がせる。何日間とかいうレベルじゃないぐらい、お寝坊をしたらしい。
あと領地の特産物等を聞いたが、名前を聞いてもチンプンカンプンだったので今後見に行こう、となった。
「楽しみだなあ~あと、面白そうなのないかな?」
「ん~そうですね・・・・・・・ダンジョンなどもありますね」
「へ、へぇ~?」
とクエスチョンマークのお花畑を浮かべなが返事をするとジルがコホン、と咳払いをし語る。
「オルソン公爵領にも幾つかのダンジョンがあります。そもそもダンジョンとは魔素が濃い場所にあります。困ったことにその周辺の生き物全てが変異して魔物になってしまい、周囲を侵食しダンジョンが完成します。それらを狩り生業にしているのが冒険者ギルドの冒険者達。彼はそれに特化した者たちの通称ですね」
「へぇ~オルソン公爵領で有名なダンジョンなところはあるの?」
なにやらすごく顔がウキウキしていて、瞳がキラキラしているジルは早口だ。すごく好きのようなので相槌を打つ。・・・これが失敗だと気づいたのがこのあと直ぐだった。
「ああ~そうですね~【地下迷宮ノア】ここは発見され、約二百年になると云われているのですが、未だクリアされておらず、未だ到達階数は八十階。ドロップアイテムは超最高ランクばかり、そして魔物!魔物がすごいのです!!はぁ~多くの大型魔物、そして、ドラゴン・・・はぁ、素敵!!!・・・次は【古戦場跡アダムス】ここは死の大地あります。火山地帯なのでほぼ生き物はいません。まあ、ある種を除いては・・・・まあドラゴンなんですがね!!最強種の黒龍たちのテリトリーなので、正直この地に行きつ前に、並大抵の冒険者は諦めます、命第一ですからね。ドラゴンの素材売るだけでお金持ちになれますし・・・なので、最高ランクの冒険者だけに許された場所とまで謳われます。・・・その死の大地を越えやっと【古戦場跡アダムス】へ入るのですが、まあ此処へ辿り付きし者は私が知り限り、1パーティしかしません。とゆうか、未だこの場所へ挑戦した者はいないと云われています。・・・あとは、ああ忘れるとこでした!!ここ、この都市の地下にもあるんですよ~まあ初心者専用のダンジョンなんですがね~」
「・・・・はあ、そうなんだ・・・へえ~」
すごい剣幕とジルの発する熱に、わたしは体力を奪われ彼女を半目で見つめながら外の風景視線を移した。・・・どうやら、まだ話は続くようだ。
ジル曰くこのオルソン公爵領には数多くのダンジョンあるそうだ。しかし、殆どが低ランクのダンジョンのため、中級冒険者が潰し回るそうだ。都市のダンジョンは厳重に管理してあるため魔物が街に出ることはないと言ったジルはの表情は少し暗く感じたが、直ぐに姿を消す。
あと、魔物やダンジョンが増えることを未然に防ぐのも冒険者の仕事、とのことらしい。
領主ことロバート・セシル・オルソン公爵は常に冒険者ギルドの者たちのダンジョンに赴き、巨大な斧で魔物を潰し回り、豪快に笑っているそうだ。
(・・・・正直・・・会いたくない・・・はああああ・・・)
頭を抱えそう思っていると、ジルは満面の笑みで言った。
「武闘派であり、筋肉ダルマであり、暑苦しいのですが、その、お優しいのです、はい・・・」
ジルは何だが苦笑いを浮かべる。豪快に笑う姿を思い浮かべたのだろう。ただ、頬がほんのり赤いのは気のせいだろうか。気のせいにしておこう、そうしよう、うん。
と心に刻みふと視線を感じ、外に視線を向ける。椅子からでは見えないので窓に近づく。すると、ジルがわたしの後ろを付いてくる。
「・・・犬だ」
離宮の庭に黒色の大型犬らしき生き物がいた。目の色は金色で鋭い目をしている。
「ああ、お迎えです、シロ様」
後ろにいたジルに視線を向けると「あら、いやだ!もうこんな時間!?」と呟いている。どうやら、話をしすぎたらしい。わたしは半目で彼女を見つめ、犬が居た庭に視線を向ける、そこにはもう姿はみえない。撫で撫でしたかったなと呟く。すると、いつ開いたか、わからないが窓が開いている。クエスチョンマークを頭に浮かべていると私の横から音が響く。
「ワフっ!」
「ひえっ!?」
驚きで足元がぐらつくのを覚え、わたしは尻餅を付いた。どうやらさっきの犬のようだ。わたしを見つめる視線がやけに熱い。尻尾がブンブンと揺れている。そして、視線をジルに向ける。
「ワフッ!!」
「おはようございます、ロイド様」
「ワフッ!ワフッ!!グルル!!!」
「ああ、すいません。シロ様とのお話に夢中になってしまい・・・」
「・・・グルル」
どうやら、一人と一匹は会話が成立しているようだ。まさにファンタジー!と思いつつ、フカフカでモフモフな犬にわたしは抱きついた。いたるところを触りまくり、撫でまくり、舐めまくり、うへへしていると犬のロイドはどうやメスのようだ。いつの間にか、ジルはジト目でわたしを見ていた。ロイドは、はあはあとしている。嬉しかったのだろう、わたしはも嬉しい。
だが次の瞬間、耳を疑った。
「もう、嫁にいけない・・・わふ・・・・」
「へぇ??????」
可愛らしい声が聞こえた瞬間、犬のロイドが開いた窓から凄い速さで部屋から姿を消した。わたしは口をパクパクしながジルを見上げる。なにやら、頬が赤く染まっており、もじもじしている。わたしを起こしてジルは言う。
「あの方は、ロイド・クラウ様です。とあるお方の参謀をしているとか。お恥ずかしいとの事でいつも犬の姿をされていますね。ちなみに女性で、種族は半魔族です」
「・・・・・・・・・・・・・うそん」
唖然としながら、心の中で盛大にやらかしたあああ!わたし、ただの変態じゃんかああ!と叫ぶ。しかし、それは過ぎし過去なのだ、身震いをしながら、記憶を抹消して其の辺に捨てることにした。だが、しかし、犬耳もいいものだ・・・うん・・・・と思うと再び身悶え始め吐息が漏れる。
「まあ気にしないでいいですよ。さあ、行きましょうか」
頷くとジルは部屋のドア開ける。
わたしは豪華な部屋から出ると赤い絨毯が左右に数百メート伸びている廊下にでた。天井から下がった数多い骨董品のような、シャンデリアはキラキラと輝いている。そして、天井に描かれ無数の絵が描かれていた。視線を戻すと等間隔で窓があり床から大体一メートルぐらいの高さの台には、見たことのない白い花が生けてある。
ドアを締めたジルに視線を向け「案内を」と告げる。優しい笑みを浮かべながら頷いて彼女はゆっくり歩き出す。わたしの小さい歩幅では大人のようには歩けない。それを知っているジルはゆっくりと歩く。背は高くすらりとし腰はきゅっと締まっている後姿のジルは実に美しい。
ジルに見とれているとわたしは廊下から右に曲がり少し歩くとドアあった。なぜか、ジルは杖を持っているか解らないが、なにかを呟くと杖先が淡く光る。すると、振り向いたジルは小さくな声で「お待たせしました」と言った。
再び歩き出すとジルは言う。ここの離宮には強力な結界があるため先に解いたとのことらしい。なんでも、上位魔法を受けても完全に防ぐらしい。そもそも、わたしは上位魔法が何となく凄いものだとは解るが、どれだけの威力があるとかは知らないので軽くそうんなんだと話を流していた。
ドアの向こうは大広間であった、大きな玄関から、大階段を上りわたしのいる所まで赤絨毯の敷かれている。わたしの反対側もそのようだ。大階段の踊り場にある台の上には、どこかで見たことのある顔で背中から、翼を生やした女神像が飾られている。ジルはその像を見つめて、頬を赤く染めうっとりしており瞳は輝いていた。
「はぁ、シロ様・・・素敵・・・」
「・・・」
ジルはその女神像見つめ言った。言った・・・イッタ・・・・
その言葉に顔をが引きつる。言葉は発せない、声がでない。何やら、頭からネジが飛んでいった気がした。更にわたしを絶望とに突き落とす。
「ここ半月で街にもいっぱい増えたので嬉しいです、ふふふ。城下の者たちは大はしゃぎしていますね、毎日お祭りなんですよ~!そして、今日、シロ様が目覚めたことで更に盛り上がること間違いなしですね~ああ、神に感謝を!シロ様に感謝を!!!」
「うがああああああああああああああああああ!」
わたしは只々叫んだ、嘆いた、そして、激しく胸を打たれ、わたしのHPは残すとろこあと1パーセントまで削られた、主に精神攻撃でだ。勿論心でも叫んだ。どうしてこうなった!と叫び叫び、ついには口から笑いが溢れる。
「・・・アハハハ」
「シロ様も嬉しいのですね!私も嬉しいです、はい!!!」
「アハハハ、アハハハハハハハハ、アハハハハハハハハハ、ゲホゲホ」
「うふふ」
「はあああああ・・・・・もう・・・やだよぉ・・・・ぐずっん」
胸を締め付ける悲しみに似た幸福を味わいながら、わたしは涙を浮かべる。おかしいとも悲しいとも恥ずかしいとも決めがたい感情だ。
ただ、ジルの笑顔はわたしには、眩しかった。
そして、ある人物浮かんだ。ジルはどこかあの人に似ていて・・・そう、懐かしい・・・・・懐かしい、匂いがしたんだ。
だから――――
■
ふと、思い出した。
とある、手紙を。あの文を、思い出した。
――美穂へ。
卒業おめでとう。
この日を迎えれたことを嬉しく思います。
美穂、あなたはわたしたちの宝物です。いつまでも、いつまでも美穂を応援してるから。
躓いて、辛いとき、悲しいときはゆっくりでもいいから進んでほしい。
大丈夫、美穂はひとりぼっじゃない。美穂が歩いてきた道の途中に、多くの出会いがあったことを。
忘れないで。長い長い道の先には幸せが待っている。
いつか必ず、辿り着けるから。
だから、美穂。
頑張って、応援しているから。
――――お母さん。
なんで忘れていたのだろう、あんなに嬉しかったのに、涙をポロポロと流したあの卒業式のことを。ふと、美穂時代の記憶のほとんどに霧が掛かっていることに気づいた。家族の顔は思い出せる。でも、他のことが何も思い出せない。でも、母があの病室でわたしに聞かせくれたことは何となく思い出せる、そんな気がした。
ふと、身体が揺さぶれる感覚がし、ゆっくりと目を開けるとそこにジルがいた。ゆるやかに息を吐きながら、かすれた声で喋る。「よかった」と。その深い息の底に吸い込まれてしまうのではないかと心配になるくらい、はかなげな声だった。目は潤んでいて凄く可愛い美人さんそれはジル。そいて、手に触れたモフモフした毛並みに気づく。犬のロイドがわたしは背に乗せていた。「ワフッ」と鳴き、心配をかけないで!という視線をわたしに向けていた。
そんな一人と一匹を見て溶けるような幸福感に包まれた笑顔を向けた。ジルは喜びに堪えない顔しロイドはやれやれという顔した。わたしはむうと唇を尖らせる。
「おかあ・・・じゃなかった、ジルのせいなんだからね!精神攻撃は禁止です!!」
「あらら?うふふ・・・本当のことですもの、シロ様」
「ワフッ(本当のことよ)」
「くぅぅ・・・・むきゅうう」
釈然としないよおおおと心で叫びつつ、ロイドを抱きしめて顔をスリスリ、モフモフしてうへへと笑顔を浮かべる。ロイドは、はあはあと言い尻尾が凄い速さで揺れていた。
「さあ、転移魔法陣に着きました、これを使い領主城に向かいます」
新たなモフモフな犬ことロイドちゃん
シロ様はモフモフ成分を補充しないと壊れます(笑)