非常に面倒臭い
〝別に〟
その後に続くのは何だったのだろう。
私はなんと言おうとしていたのだろう。
帰り道、ふとそんなことを考えた。
鞄から1枚の紙切れを取り出す。
〝これ、風君が渡しといてって〟
そう言って里菜から渡されたこの紙には電話番号と思われしきものが書かれていた。
他には何も書かれていない。メモや一言も何も。
ただ、数字が羅列されているだけの紙切れ。
「…。」
捨ててしまおうか。
え?なぜ?
普通、朝いつも見ていた気になる異性から連絡先をもらったら嬉しいに決まっている。
そして、それをなくさないよう大事にして家まで持って帰ってそわそわしながら震える手でその番号に電話をかけるであろう。
普通は、ね。
私は違う。
普通じゃないとか他とは違って特別だとかそういうつもりじゃないけれど、ただ私は、安易に恋愛の方向へ持っていけるような人間ではないということだ。
つまり、恋に対してとてつもなく臆病なのだ。
ぐしゃっと丸めた紙を見てある考えが頭をよぎる。
そうだ、賭けをしよう。
もし、駅に〝彼〟がいたら、もしくは今から乗る電車に〝彼〟も乗っていたら。
もらった連絡先に電話をしようと思う。
これは、賭けだ。運命だ。こればかりはどうしょうもない。
しかし、もし彼がいたなら私は彼に電話をするしかないし、いなければ、このくだらない恋愛もどきをもうお終いにしてしまうだけだ。
そう、仕方ないことなのだ。私と彼の関係がどう変わるかは運命が決めること。
私はそんなことを考えながら、いつもの帰り道を
神妙な顔をして、1歩1歩を噛み締めながら歩いたのだった。
こんなどうしようもないことに真剣に悩んでしまう私は馬鹿だ。自分でも分かっている。
ただ、私は運命のせいにでもしないと1歩前に踏み出せないような弱い弱い人間なのだ、ということをどうかわかっておいてほしい。