怖い事
「あれ?由佳ちゃん今日早いね。」
「朝の数学のテスト、自信なかったから早めにきて自習してたの」
えらーい!っと拍手する真似をしているのは私と同じクラスの横田 花恋ちゃん。
「やっぱり由佳ちゃんはすごいねぇ。見習わなきゃ。」
「そんなことないよ。ただ私が目指してる方向が学問の道で花恋ちゃんのそれが勉強じゃないってだけだよ。私には花恋ちゃんがしていることは真似できないもん。」
そう言うと花恋ちゃんは圧倒されたような顔をした。しかし、すぐにいつもの笑顔に変わる。
「確かに、そうだね!私は一刻でも早く専属モデルになれるように頑張る!よし、そうと決まれば今日から朝夜1時間ランニングだ!今から走ってくる!」
そう言うと花恋ちゃんは、さっき入ってきたばかりの教室から元気よく走って出ていった。
花恋ちゃんはGIRLSという雑誌の読者モデルをしている。ファンも結構いて専属モデルになる日も近いのではないだろうか。
彼女は、勿論可愛くてスタイルが良い。
そして、すごく前向きで努力家だ。
そんな彼女にはいつも元気をもらっている。
「ゆーかーっ!今花恋がすごいスピードで出ていったけど何事?!」
花恋ちゃんと入れ替わりに里菜が教室に入ってきた。
「なんか1時間走ってくるんだって。」
「はっ!授業遅刻するじゃん笑」
あ、そうそう。
と私の方に真面目な顔をして向き直る里菜。
「昨日、どうだった?」
〝どうだったか〟それは、皆藤君の事を言っているのだろう。
「別に…。」
なんと答えるのが正解なのだろうか。
私が視線を横に逸らしたのを里菜は見逃さなかった。
「今日なんで1本早い電車にしたの?」
「小テストの勉強するためだよ。」
「うそ。それだけじゃないでしょ。」
うっ。
里菜は一見、フワフワしていてミーハーな女子高生に見えるけど、本当は誰より観察力があって鋭い。
私は好きともなんとも言ってないないのに、〝彼〟への想いをいち早く察して私と〝彼〟
をくっつけようとしてくれたのもその所為だ。
「思ってた人と違ってガッカリしたとか?」
「そうじゃない!!!」
「あら、即答!」
彼は、やっぱり〝思ってた通り〟素敵だった。
でも、彼に理想を描いていたのも事実でいつか本当の彼に落胆してしまう日がくるのが怖い。
私が憧れていた〝彼〟がいなくなるのが怖い。
「今は恋とか…あんまりそういう気分じゃないだけ。」
「…そっか。」
やはり彼女の観察力の鋭さからだろうか。
それ以上里菜が私の気持ちを探ってくる事はなかった。