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想い違い

嘘でしょ…。



「ちょっと!聞いてないよ…里菜っ」



隣にいる里菜に小声で囁く。



「当たり前じゃん。言ってないんだから♪」



昨日、強制的に取り付けられた所謂合コン、の約束を果たす為、私達は放課後駅前のカラオケに来ていた。


どうやら相手側の男子はもう揃っているようでドアの隙間から3人の人の影が見えた。



「ふふふ♪由佳、嬉しいでしょ?驚かせよう思って秘密にしてたんだっ」



部屋にいたその3人のうち、1人だけ見覚えのある顔があった。



「別にっ嬉しくなんてない!ていうか、〝あの人〟と里菜知り合いだったの???」


「ん〜〜知り合い…かな?まあ詳しい事は企業秘密ってことで。」


なんとも歯切れの悪い応答にたくさんの疑問符が頭の中に浮かぶ。


しかし、それ以上私が質問することはできなくなった。



「あっ!里菜ちゃん、と由佳ちゃん!


入って入ってー」



ドアの前でつったていた私達に気づいた1人の男子がドアを開け、私達を部屋に招き入れたのだった。




部屋に入ると、まず初めに〝彼〟と目が合った。


「はじめまして由佳ちゃん。」


にこり、と笑って彼はそう言った。




初めてまして…なのかな?



「は、初めてまして」


一瞬迷ったがとりあえずそういうことにしておいた。



「えーーっと、あれ?もう一人は?


男3人なんだけど、女の子は2人だけ?」


茶髪のいかにもチャラそうな男子がそう言った。



合コンとは同じ人数同士の男女が交流し仲を深めるものだろう。


しかし、今集まっている女子は私と里菜の2人のみ。


「あれ、3人のが良かったー?」



「大丈夫大丈夫ー。今日は〝そういうの〟じゃない

んだし。」


私と里菜が戸惑っていると、スタイルの良い黒髪眼鏡の男子がそう言った。


〝そういうの〟じゃない、って合コンとかじゃないってこと?


どういうことなんだろう…。



「まっ、そーだな。じゃあ、とりあえず二人とも座ってよ!」




なぜか、里菜は黒髪眼鏡君の隣に、


私は〝彼〟の隣に座ることになってしまった。



「じゃあ、自己紹介からーーーー。」



1通り自己紹介を終えて分かったことは、


爽やか黒髪眼鏡君は早瀬 咲人 君、といって


この3人の中では1番話しやすそうな人。


チャラそうな茶髪君は日野 流星くん、といって


話している分には見た目に比べるとそんなにチャラそうな感じではない。悪い人ではなさそうだ。


そして、私の隣に座ってほとんど話さない〝彼〟


〝彼〟の名前は、皆藤 風 。


風とかいてフウと読む。


自己紹介を聞く限りでは、落ち着いていて口数が少ない人、という印象。


第一印象とさほど変わらない、思った通りの人だな、というのが感想だ。



私は、里菜と彼らの関係を聞こうと思ったのだけれどみんなが早くも打ち解けて会話が盛り上がっているので、私が入る隙がなくなってしまった。





「実はさ、俺、由佳ちゃんのこと前から知ってたんだ。」




会話に入れずにいると、横から彼が話しかけてきた。


「えっ、そうなんだ。」


実は私も。


そう言うべきか言わないべきか私にはわからなかった。


この時私は1種の可能性を抱きはじめていた。


しかし、もし私が「私も前からあなたのことを知っています」などと言えばそれが本当か否かをわかってしまうような気がして、

やはり私はそれ以上何も言うことが出来なかっ

た。



「電車でさ、朝いっつも同じ電車なんだけど…見たことない?」


どんどん可能性が確信に近づいていく。


でも、だめだ。どこかで止めないと面倒臭いことになってしまう。


私が最も恐れていることになる前に。



「今日、初めて見ました。」


嘘をついた。



「あ〜…そっか。そうだよね。」


残念そうな顔をした彼だった。


それはある訳ないと思いつつも密かに期待していた可能性が本当に存在しなかったことがわかった時の落胆のようなものであった。


「…ははっ、なんか俺だけ変な勘違いしてたみたいで…ごめんね。俺気持ちわりー笑」


「…。」


彼がしていたのは勘違いでも何でもなくて、

全て、概ね当たっている。


でも、そうじゃないんだよ、と勘違いなんかじゃないよ、と言えないのは、これ以上先に進むのが怖いから。



私は別に、彼に会いたくなんてなかった。


毎朝、見れるか見れないか分からない〝あの人〟に恋とも呼べる感情を抱いて電車に乗り込む、ワクワクやら不安やらが詰まったあの時間が好きなのだ。


〝あの人〟が私の中に実在していないままで良かったのだ。


ただ、私だけが想い、見つめ、私だけが満たされる。そんな独りよがりの憧れで充分だった。


「…明日、見かけたら声かけていいかな…?」


きっと、彼も私に同じような想いを抱いていて、

それを現実にしようとしていた。


そして、今日、やっと本当に出会うことのできた憧れに対して、どうしてそんなに臆病になっているのだろう。


ここまでしておいて、どうしてもっと強気になれないのだろうか。


「だめ」


「えっ。」



「なんて言うわけないでしょう。言えませんよ、そんな事。


だから、そんなふうにずっと不安そうにしているのはやめてください。」


嫌でも、「見かけたら声をかけていいですか」と聞かれたら いいですよ、と答えてしまうものだと思う、普通は。


それに、私は嫌なんかじゃない全然。


だから、〝いいですよ〟なのだ。



「…ありがとう。」


私はきつめな口調で言ったつもりなのに、どこにも感謝される要素なんてないのに彼は〝ありがとう〟と、そう言った。



彼はきっと、素敵な人。


なら、もうそのままでいいじゃないか。


これ以上汚してしまわないように、これ以上〝彼〟が〝彼〟でなくならないように。



「また、明日会いましょうね」


私はこれ以上、彼に近づかかない。





今日、そう決めた。

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