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小説を書く化け物

 鏡の中の悪魔と1つになった僕は、それからもバリバリと小説を書き続けた。

 いや、その表現はちょっと間違っているかもしれない。確かに、物凄い速さで小説を書き続けてはいた。いたのだけど…

 それは、以前のような猛烈もうれつな勢いでというわけではなかった。もっと静かな感じ。静かではあるが着実に素早く書き進めていくのだ。

 表面上は実に落ち着いている。それでいて心の底には地獄の業火ごうかのごとき情熱が燃え上がっている。そういう状態。

 正確に表現するならば、“バリバリと”ではく“サラサラと書き進めていく”だろう。


 いずれにしても、驚異的なペースで執筆を進めていたことだけは違いがない。

 一時期のようにムチャクチャに生きているわけではない。生活は落ち着き、睡眠だけでなく食事もちゃんととるようになった。部屋は清潔にたもち、必要最低限の道具以外は何も置いていない。

 それでも、コンスタントに月に2作は長編小説を発表し続けている。もちろん、質の方も落とさない。極力きょくりょく読者にも配慮しながら、自分の世界を最大限展開する。そういう作品が書けるようになってきていた。


「いつまでも、この小説の森に居続ける必要はあるのだろうか?」と、時々思うことがある。

 もしかしたら、この森を出て、外の世界で自分の力を試した方がいいのかもしれない。それが恐ろしいわけではなかった。自信がなかったわけでもない。ただ、僕の中にまだ1つの思いが残っていたのだ。

「この森で、まだやり残したコトがある。でも、それがなんなのかがわからない。それがわかるまでは、外の世界へと出ていくわけにはいかない」

 そういう思いだ。


         *


 そんなある日、僕はその“やり残したコト”を知ることとなる。

「モウ、ジュウブンダロウ」とオウムのピャーロットが言った。

「そうだな。もう充分だ。時は来た。お前は、もう充分にそのレベルに達した。我らの力を吸収し、ここから出ていくがいい」

 ヘビのスネックも、そう言った。

「充分?そのレベル?なんの話だ?」と、僕は2匹に向ってたずねる。

「オマエハ、ジョウケンヲミタシタ」

「そう、条件を満たしたのだ。この小説の森では、1人が1匹ずつなんらかの動物を共にする決まりになっている。そうして、その人間が充分に成長したと認められた時、我らの力が与えられるのだ」と、ヘビのスネック。

「なるほど。そういうルールか」と、僕はすぐに納得した。

 だが、1つ疑問がある。そこで、続けて僕はこう尋ねた。

「それで?お前らの力とはなんだ?その力を手にいれると、僕はどうなる?」

「コレマデノショウセツカノチカラ」

「そう。これまで、我らがつき従っていた者たちの能力が与えられる」

 なるほど。そういう仕組みか。それはいい。

 僕は2匹の提案を受け入れると、それぞれの能力をいただいた。

 まずは、オウムのピャーロットから。ピャーロットは光の粒子に変わると、僕の体へと吸い込まれていった。そうして、僕は新しい力を手に入れたのを感じた。これまでピャーロットがつき従ってきた歴代の小説書きたちの力だ。

 次に、ヘビのスネック。こちらも同じように光の粒子に変わると、僕の体の中へと取り込まれた。これまた、歴代の小説書きたちの能力や記憶だ。もちろん、その中には、この森から逃げ出してしまったあのオコモの分もある。

「いいぞ!実にいい!これで、僕はこれまでよりもさらに良い小説が書けるようになるだろう!」


 だが、僕はそれでは飽きたらず、この森に居座り続けた。

 そうして、次から次へと他の小説家や小説家志望者たちを討ち倒し、飼っていた動物たちを奪っていく。そのたびに、あらたな能力が宿り、記憶を吸収するのだった。


 こうして、僕は本物の“小説を書く化け物”としていく。

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