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鏡の中の悪魔の正体

 広場で一悶着ひともんちゃくあり、引っ込みのつかなくなった僕は、鏡の中の悪魔をみんなに見せることになってしまった。

 走って小屋に帰ってきた僕は、机の上に置いてあった鏡を引ったくると、急いで広場へと駆け戻る。


「オイ!やめろ!そんなコトをするな!そんなコトをしたら大変なコトになるぞ!」

 鏡の中からそう叫ぶ悪魔の言葉も聞かずに、ひたすらに僕は走り続ける。

 そうして、広場に集まっていたみんなの前に鏡の表面を向けた。

「これが悪魔だ!コイツが今まで僕に指導してくれたんだ!おかげで、僕はこれだけの能力を身につけることができたんだ!」

 僕はそう叫んで、みんなの方を眺め回した。

 だが、どうしたのだろうか?なんの反応もない。

 シ~ン…としたまま、何事も起こらない。みんな黙ったままで、何もしゃべろうとはしない。広場に集まっていた者だけではない。鏡の中の悪魔も黙ったまま。

「どうした?悪魔よ?みんなにあいさつをしろよ。これまでずっと、お前が僕に小説の指導をしてくれたんだって言ってやれよ。いろいろとみんなにも教えてやれよ」

 そこで、ようやくポツリと悪魔が一言もらした。

「無駄だ。聞こえはしない」

「え、どういうコトだ?」

「他の者には、このオレの言葉は聞こえないし、姿も見えない。それができるのは、この世界でもお前だけだ」

「意味がわからないよ。何を言っているんだ?悪魔よ」


 その様子を眺めていたみんなは、「かわいそうに…」とか「頭がおかしくなってやがる…」とか口々につぶやくのみだった。

 さっきまで激昂げきこうしていた理論家グラブエルでさえも、こう言って僕をなぐさめてきた。

「なんか…ゴメンな。オレが悪かったよ。まあ、いろいろ大変だと思うけど、お前もがんばれよ」

 そうして、みんな散り散りになって、去っていってしまったのだった。


 僕は、あ然とし、あとに1人ポツンと取り残されてしまった。

「どういうコトなんだ?一体、これは?」

 仕方がなく、トボトボと1人で小屋への道を歩いて帰る。

 その道中、鏡の中から悪魔が話しかけてきた。

「どうもこうもないさ。ご覧の通り、見ての通りさ」


 僕は意味がわからないまま、小屋の扉を開き、中へと入った。

 すると、さっきまで僕の肩に止まったまま黙っていたオウムのピャーロットが、こう語り始めた。

「モウオワリダナ。コノオレノヤクワリモ」

「え?」

「オマエニハモウ、シドウナドヒツヨウハナイ」

「まさか!お前だったのか!ピャーロット!悪魔の正体は!」

「チガウナ。カガミノナカニ、アクマナドイナイ。スベテ、オマエノモウソウダ」

「そう。お前はずっと1人でしゃべっていた。オレがこの小屋のやって来た時からもずっと」

 ヘビのスネックもそう言ってきた。

「そんな…」

 なんということだ…

 最初から、鏡の中に悪魔など住んではいなかったとは。全ては僕の妄想。鏡は、ただの鏡に過ぎなかったのだ。これまで悪魔がしゃべってきた言葉、それらはみんな僕自身が語っていた言葉だった。悪魔の正体は、この僕自信だったのだ。

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