表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/59

僕がゴーリキじいさんよりも上回っている部分

「僕とゴーリキじいさんの決定的な違い。僕の方が上回っている部分…」

 僕は必死になって考え続けた。もちろん、その間も小説を書くことだけはやめない。毎日、机にかじりつき、小説だけは書き続けている。その合間に、悪魔の出した問いかけについて考えるのだった。


「情熱…かな?情熱だけは負ける気がしない。ゴーリキじいさんどころか世界中の誰にも!」

 僕のその言葉を聞いて、悪魔はあっさりと断言する。

「違うな。そんなものは誰でも持っている。しかも、その情熱の量とやらをどうやってはかる?どうやって証明するね?」

 確かに。情熱なんて持っていても、証明のしようがない。ただ自分で「これだけ熱意があります!これだけのやる気があります!こんなに大きな夢を持っています!」と叫ぶばかり。それじゃあ、他の人たちと変わりはしないし、誰にも納得してもらえはしない。

 たとえば、僕とオコモとどれ程の違いがあるというのだろうか…

「ン?」と、僕は気づく。

 僕とオコモの違い?そして、ゴーリキじいさんとの違い?

「そうか!これか!これが悪魔の言っていたコトか!」

 僕は「わかった(エウレカ)!」と叫びたくなった。そうだ!実に単純なコトだったのだ。単純極まりない!いつも、僕が言っていたコトじゃあないか!

「ゴーリキじいさんは“かつて小説家であった者”なのだ。もちろん、昔は傑作をいくつも生み出した。そこには敬意を払わなければならない。だが、今はもう違う。僕らと同じ。いや、それ以上に小説が書けなくなってしまっている。だから、この小説の森に迷い込んできてしまったのだ」

「そうだ」と、悪魔が静かに答える。そうして、さらに続ける。

「ようやくわかったか?もはや、それは小説家ではない。“かつて小説家であった者”だ。たとえ、どんな傑作を生み出そうとも、どのような賞を受賞しようとも、どのような立派な勲章を与えられようとも、そんなコトは関係がない。奴がいかな高名な小説家であろうとも、それは過去の話。今現在、小説を書いていなければ、それは単なる落伍者らくごしゃと同じ」

 誰もが、そうなる危険性を秘めている。この僕だって、小説が書けなくなったら、単なる駄目人間だ。僕も、落伍者の仲間入りというわけだ。

「ゴーリキじいさんは、確かにかつては名作家であった。小説を戦いとたとえるならば、かつての英雄。かつての伝説的戦士。けれども、今は違う。単なる老兵。いや、戦場に立たなくなった日から老兵ですらない。兵士でもなければ、戦士でもない。一般人となんら変わりはしない。ただの普通の人間だ。そうだろ?悪魔よ?」

「その通り!だが、お前は違う!お前は、今もって戦場に立っている。現役戦士だ」

「現役戦士…」

「そうだ。さあ、戦え!戦場を舞え!お前にしか書けないお前だけの小説を書け!」


 かつて名戦士だった者。それは、退役軍人と同じ。

 その功績こうせきたたえねばならないだろう。だが、今現在の能力はまた別だ。

 仮にどんなに戦う意志があったとしても、実際に戦場に立っていないのでは意味がない。

 「まだ負けない!まだワシはやれる!」と、どんなに口にしたところで、ゴーリキじいさんはもう小説なんてほとんど1行も書いちゃいない。それじゃあ、「夢だけはあります!やる気だけは誰にも負けません!」などと叫びつつ実際には全く書かない若者と同じなのだ。


 僕は、そうはならない!なってなるものか!

 この命尽きるまで!寿命の訪れるその日まで戦う!戦い続けてみせる!!


「僕は、いくつになろうとも書き続ける!小説を!死ぬまで書き続ける!それこそが小説家の使命であるのだから!!」

 そう、未来への自分へ約束した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ