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小説の奥の深さを知った僕は

 小説を書くのに“反動を利用する”という方法を覚えた僕は、それを使って次から次へと新作を発表していく。これにより、情熱を絶やす心配がほとんどなくなった。


 さらには、小説の奥の深さを知り、小説でできるコトの範囲の広さを知った僕は、これまで以上に様々な手法にチャレンジしていく。

「前回、深刻なテーマを扱ったから、今回はオチャラケた主人公で軽めのエンターテインメントでいくか」とか。

「今回は徹底的にリアリティを追求して、内容的にはトンデモ話でいってみよう!」とか。

「今度逆に、歴史上の起こった事実を元に、表面上は絶対にあり得ないような出来事で固めてみるか」などと、いろいろと試したくなってしまうのだ。


 僕は、あまり長い小説を書かない。大体が本1冊分。文字数でいえば10万文字程度で切り上げてしまう。続編もそんなに多くはなかった。たまには直接的な続編を書くこともあったが、基本的には別物。

 それでも、セリフリメイクをしてみることはあった。“ほとんど全く同じストーリーで、うったえかけたいメッセージは全然違う”などという実験的な試みをやってみたり。テーマ自体は同じなのだが、ジャンルを変え、ストーリーを変えて、全くの別ものに仕上げてみたり。常に“この作品で何ができるだろうか?”と、新しいコトに挑戦してみたくなるのだ。

「いつまでも同じ小説を書いていても、おもしろくはない。それでは、ツマラナイし、成長もしない。もっと!もっとだ!もっともっと新しいコトがやりたい!」

 ついつい、そう思ってしまうのだ。


 それもこれも、書いている作品数が多いからできたことだ。

 小説というのは、やはり、たくさん書けば書くほど腕が上がるというところがあって。もちろん、ただ単に量を書くだけでは駄目!書き殴るだけでは駄目!前と同じやり方で、同じように書くだけでは能力は上がらない。

 そうではなく、常に新しいコトに挑戦しながら、「この作品を書くことによって、どのような能力が身につくのだろうか?」と意識しながら書くことで、本当に新しい能力を身につけられたりするものなのだ。

 そうして、表現の幅を広げ、書ける小説の幅を広げて、さらなる作品へと挑戦していく。この繰り返しで、さらに表現できる幅は広がり、さらにさらに能力は上がり、小説の深みへとはまっていくのだった。


 …ということは、だ。

 1作書くよりも2作。2作書くよりも3作書く人の方が、成長が早いということになる。

 僕は、大体、年に10作から20作の長編小説を書いている。以前は1ヶ月に1作がせいぜいだったのが、今では2週間から10日で1冊分の小説を完成させられるようになってきた。

 それも、軽めの内容のモノばかりではない。あんなものは、楽々書けてしまう。もちろん、そういう作品も書くには書くが、数としてはそう多くはない。全体からすると、2~3割といったところだろうか?

 そうではなく、シッカリとした重さのある小説。悪魔の言葉を借りれば“腰のすわった重いパンチ”ということになるのだろう。そういう作品をメインに執筆していた。


 ま、この際、内容は置いておこう。そこは人のきだ。

 いずれにしても、年に1作しか書かない人に比べて、僕は10倍…いや、20倍も早く成長しているということになる。

 安定して2週間に1度、長編小説を完成させられているわけでもなかったが、それでも年間を通して20作近くの作品は生み出せていたのだから。


 世の中には、本当に奇跡みたいに質の高い作品を生み出す人というのがいる。そういう人は例外だ。例外中の例外。そういう作家は、量を書かないコトを許される。年に1作とか、2年に1作とか。ヘタをすれば、5年や10年に1度しか新作を発表しない。それだけの価値を持った作品を作り出せているからだ。

 だが、そんな人はほとんど現存しない。せいぜい、小説を書いている人の中でも1000人に1人かそこらだろう。

「僕は、その1000人の内の1人になれているだろうか?」と、自分で自分に向って問いかけてみる。

「いや、無理だ。完全にそういうタイプではない」

 即座に、そのような答が返ってくる。

「だったら、数を書くしかない!数を書いて、腕を上げるしかない!」

 すぐにそういう結論にいたる。

 単純な発想だ。だが、その単純な発想を心の底から信じ、信じて信じて信じくす!信じ尽くして、書き続ける。これが、なかなか難しいコトなのだ。

 信じるだけなら誰にでもできる。夢を見るだけなら誰にでもできる。だが、おのれの信念をつらぬき通しながら、行動もともなうというのは、なかなかできることではない。これが実際にできる人の数は、単に夢を見てあこがれているだけの人に比べて、激減するだろう。

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