反動を利用する
思い切りリアリティを重視した小説を書いた僕。その分、ストーリーが起伏に富んでいるわけでもなく、キャラクターも特に魅力があふれているわけでもない、非常に地味な作品になってしまった。
「これでは、読者から不満がもれるのも当然だな…」と、書き上げた作品を読み直してみて思った。
何よりも、自分自身で納得がいかない。もちろん、“作品全体に現実性を与える”という目的自体はシッカリと果たしてはいる。だが、逆を言えば、長所はその1点のみなのだ。
なので、その次の作品では、全く反対の方向へ進んでみることに決めた。
「ヨッシ!次は、現実性など一切無視でファンタジーを書いてみるか!」
こうして、物理法則完全無視で、ムチャクチャな小説を書いてみたりする。
ここで、僕は“反動を利用する”というコトを覚えた。1つの作品が、その1つの作品のみで終わることなく、これから書く別の作品に影響を与える。シンクロして共鳴してみたり、逆に反発してみたり。直接の続編ではないにも関わらず、底の底でつながり合い、影響を与え合っているのだ。
「凄い!凄いぞ、これは!!」
何も考えずとも、バリバリとペンが進んでいく。まるで、魔法のペンだ!
“徹底的にリアリティを追求する”という前作のストレスから、それを反動として、心の底から情熱の炎が燃えたぎってくる。
書いても書いても書き足りない!あふれ出てくる熱意を抑えきれず、次から次へと文字が生まれてくる。
「オッシャ!!」
絶好調で書きまくり、アッという間に次の1作は完成した。
「気持ちよく書いてるじゃないか」と、鏡の中から悪魔が声をかけてくる。
「まあね」と、僕は書き上げたばかりの原稿に目を通しながら、誇らしげに答えた。
「最近、小説を書くということがどういうことか、わかってきた気がするんだ。“真の意味”で小説を書くということが。以前も、こんな感覚を味わったことはあった。でも、それよりもさらに深い部分で理解できた気がする」
それを聞いた悪魔が、こう答える。
「まあ、まだまだ先はある。小説というのは、奥の深いものだ。お前が思っているよりも、もっともっとな。これからさらに深淵に迫っていくがいい」
深淵に迫る…か。
これまでもいろいろなジャンルに挑戦し、様々な能力を身につけてきた。細かいテクニックだって無数に習得したし、ついには作品同士を連携させ影響を与え合うまでに至った。
それでも、まだ先があるというのか…
「おもしろそうじゃないか…」と、僕はつぶやく。
おもしろそうじゃないか!ここから、まだ先があるだなんて!それでこそ、一生をかけて挑む価値があるというものだ!
僕は悪魔の言葉を聞いて、恐れおののくどころか俄然やる気になってきた。これまで以上にチャレンジ精神をかき立てられ、果てしない地平線の先を眺めるのだった。
小説!奥深し!




