複数作品同時執筆
“前の日に明日の分を書いておく”ということを始めてから、執筆量はさらに安定していった。それも、かなり高度なレベルでだ。
おかげで、1日のノルマ文字数を上げることができた。
それまでは、1日に3000文字ちょっとを目安に書き続けていたのだが…(それで、大体1ヶ月に10万文字の小説が1作完成する)それを4000文字とか5000文字にまで上げてみた。
「上げすぎたな」と感じた時には、次の作品でハードルを下げる。
とにかく無理をしない。無理をして小説が書けなくなってしまうのが一番恐い。“毎日書き続ける”というのが一番大切なのだ。悪魔から言われたその基本だけは徹底して守るように気をつけていた。
自分の能力が上がっていくのが、僕には楽しかった。楽しくて楽しくてたまらなかった!
それで、時として無理をしてしまうことがある。そんな時は、1度自分で決めたルールを破棄してでも基本に立ち返る。“小説は毎日書き続けるモノだ”という基本に。それだけは絶対に破りたくなかった。
たとえば、こんなコトがあった。
あまりの調子のよさに、僕は長編小説を1作ずつ書き続けるのに飽きてきてしまった。
「こんなコトなら、誰にでもできる。あまりにも簡単過ぎる。もっともっと難しいコトに挑戦したい!」
そんな風な野望が心の中に頭をもたげ始める。
そうして、あるアイデアを思いついた。
「そうだ!同時に複数の作品を書いてみよう!2作、3作…いや、5作の小説を書き進めるんだ!こんなコト他の誰にもできやしないぞ!」
で、実際にその日から実行に移した。
「“思い立ったが吉日”だ!なんでも実際にやってみなければ!思いつくだけなら誰にでもできる!口で言うだけなら簡単だ!でも、それではいけない。僕は、そうはならない!ちゃんと思いついたアイデアをやってのけてみせるぞ!」
そう叫ぶと、僕は準備を開始した。
全然違うジャンルの5つの作品を同時に書き進めていくのだ。
いろいろと考えなければならないコトがある。基本的な世界観から、大まかなストーリー。主人公はもちろんのこと、数々の登場人物。それもありきたりではツマラナイ。できる限りオリジナリティあふれる作品にしようと、様々な工夫をこらす。
それらの作業を現在執筆中の小説を進めながらやっていく。
ここまで来ると、並の人間にはなかなかできない芸当だっただろう。
けれども、僕は小説に没頭していた。いや、小説しか残されていなかったというべきだろうか?他の何もかもを捨てて、たった1つ小説だけに賭けていたのだ。それゆえに成せる技。
僕は、ほとんど食事をするのも忘れ、朝から晩までこの作業に没頭し続けた。眠くなったらベッドへと倒れ込み、目が覚めると再び作業を開始する。
そんな生活を何日も何日も続け、5つの全く違った小説の準備を整え、実際に書き始め、書き進めていった。
だけど、さすがに、これには無理があった。
開始当初は、「そんなに無理をすることはないだろう。全部の作品を毎日書き続けることはない。メインにしている小説以外は、曜日を決めて週に1度ずつ書き進めていくくらいでいいか」などと考えていたのだが、そうもいかなくなってきた。
やはり、毎日書き続けていないと、感覚が鈍ってしまうのだ。
「アレ?この作品って、どんな感じで書いてたんだっけ?」と、上手く小説の世界に入れなくなってきてしまう。
なので、必然的に毎日書き続けることになる。
とはいえ、さすがに5作全部を毎日というのは無理がある。
結果、メインに書いている小説は毎日。それ以外の小説は、その日の気分で選んで2つか3つずつ書くというスタイルに落ち着いた。
おかげで、確かに退屈はしなかった。退屈などしている暇がなかった。
けれども、思ったほど執筆ペースは上がらず、執筆量も月に10万文字程度で頭打ち。1ヶ月に1作ずつ完成させていき、どうにか3作ほどは最後までは書き上げた。
メインに書いていた小説は、その後も半年以上書き続け、最終的に50万字を越える大作となった。
そして、残りの1作はというと…恥ずかしい話だが、いまだに最初の数行を書いたまま放置されたままになってしまっている。




