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太ったりやせたりの繰り返し

“毎日小説を書き続けていれば、自然と体力はついていく”

 それを僕は学んだ。

 こういう所は、スポーツと同じだ。日々の鍛錬たんれんが大切。最初は短い距離しか走れなかったものが、いつの間にか長距離を走れるようになっている。あるいは、短距離であろうとも、1日に何本も何十本もこなせるようになってくる。

 相変わらず僕は長い文章を書くのは苦手で、1文1文も短ければ、1話1話も短い小説を書いていた。改行や空行こそ増やしてはいたが、内容的にはビッチリと埋まった密度の高い文章でもある。

 ただし、その短い文章の積み重ねで、長編小説を書けるようになってきてはいた。“1作10万文字”という目標は軽々とこなせるようになり、1ヶ月前後で1作を完成させるという行為を繰り返していた。


 僕は、小説を書き始めると、ほとんど1日の休みもなく書き進める。というか、休めやしない。

「油断して1日でも休んでしまうと、翌日に続きが書けなくなってしまうのではないだろうか?」という心理が働いて、休むのが恐くなってしまうのだ。

 なので、新作を書き始めると、最後の1文字を書き終えるまでは、なるべく休まないようにしていた。なんらかの病気にでもなればお話は別だが、そうでない時は休む気はなかった。

 特に、「小説を書くのが面倒だから」とか「アイデアが浮かんでこないので、今日は書かないでおくか」とか「なんとなくやる気が出ないなぁ…」などという理由で休むのだけは絶対にしないようにしていた。

 それをやってしまうと、次の日、余計にキツイ状態におちいってしまう。1日サボれば、2日目は2倍辛くなる。2日サボれば、3日目はさらに2倍辛くなる。過去の経験から、僕はそれをよく知っていた。

 なので、休むならば、必ず書いている作品を完成してから。それを守り続けていた。

 1作書いては、しばらく休む。1作書いては、しばらく休む。半年の間に、僕はそれを何度も繰り返した。


 どうやら僕は、小説を書いている時には、作業に没頭してしまい、食事をするのも忘れてしまうらしい。なので、必然的に摂取せっしゅカロリーも減り、体もどんどんやせていく。

 逆に、何もせずにボ~ッとしていると、ついつい美味おいしい物を食べすぎてしまい、ブクブクと太ってしまうのだった。

 こうして、小説を書いている時にはやせ、そうでない時期には太るというコトを繰り返していった。

「こんなコトならば、ずっと小説を書き続けていた方がいいのかな~?」と、僕はレストランの中でつぶやく。


 以前の僕ならば、自分で自分をりっすることができなかった。なので、1度遊び始めると、トコトン遊びまくってしまい、美味おいしい物を食べ始めると、いくらでも食べてしまっていた。

 でも、今の僕は違う。“自制する”ということを覚えたのだ。

 だから、小説を書いていない時期には、ニンフの泉にも遊びに行ったし、レストランで贅沢な料理を堪能たんのうしたりもする。それでも、決して限度を越えない。

 常に、僕の頭の中には小説があった。

「小説を書かなければ。次の作品を書かなければ。そのためにはムチャはできない。限界を越えちゃいけない。限界を越えるならば、小説の中の世界だけにしよう!」と、そう決めていた。

 その思いが僕を支え、新しい作品を生み出した。決してムチャせず、毎日コンスタントに書き続ける。進み続ける。

 そうして、僕の進んだ道の後には書き上げた原稿のたばが残り、同時に能力はメキメキと上がっていった。できる限り、これまでに書いたことのないタイプの小説に挑戦し、苦手分野を克服していく。独自の技術をいくつも身につけていき、細かいミスもほとんどしなくなった。


 “継続とは力なり”などという言葉もあるが、まさにその通りだった。

 小説を書き続けることで、小説を書く能力だけは無限に上がっていく。他は何もできない人間になっていったが、とにかく小説だけは書けるようになっていく。

 それで満足だった。

 元々、僕がこの森を訪れた目的はそれなのだ。小説を書くこと以外は、何もなくていい。

 美しきニンフと遊んだり、レストランの豪華な料理を食べたり、ゆったりと温泉につかったり、そんなのは一時いっときの気晴らしに過ぎない。全ては、オマケ。より良い小説を書くための準備に過ぎない。


 心が小説の世界と一体化していくのを僕は感じていた。

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