1つの道を極めるか?広さを求めるか?
小説家としての欲が出てきた僕は、より高度な作品を目指して書き進める。
これまでも、できる限り同じような作品は書かないように気をつけていた。
悪魔からは、小説の内容に関しては特に指示されてはいない。
「お前が好きな作品を、好きなように書け」と、ただそれだけだった。
それに対して、時々、大きな方針的な指示が入ることはある。たとえば、「小説を書き殴るな」というのも、その内の1つ。
それでも、僕は自分から望んで、なるべく別のタイプの作品を書くようにしていたのだ。
「前回がファンタジーだったから、今回は青春小説でいくかな?」
「今度は徹底的にリアリティを求めた作品にしてみよう」
「そういえば、恋愛小説って書いたことないな。ここは1つ、恋愛モノに挑戦してみるか」
などといった感じで、常に違ったジャンルにチャレンジし、仮に以前と同じジャンルであっても、前回とは全く違った視点でストーリーを進めていったり、全然違うキャラクターを主人公にしたりと、なにかしら工夫をこらすようにしていた。
今回もそれは同じで、1つの街を舞台にして、そこに様々な人物が行き交うという“都市小説”というものに挑戦していたのだった。
「それは、なかなかよい心がけだな」と、僕のそういった姿勢を見て、悪魔もほめてくれた。
「そう?」
「そうだ。その方法ならば、書ける小説の幅が広がる。1つの作風にこだわらない幅広い手法を持った作家となれる」
「フム」
「そもそも、世の中には“これしか書けない”というタイプの作家が多すぎる。ジャンルだとか作風だとか、完全に固定化されてしまっている。決してそれが駄目というわけではないのだが。その代わり、そういう者は1つを徹底的に極めなければならなくなる。そうしなければ、他の作家に対抗できない。それはそれで、茨の道となるだろう」
「なるほど」と、僕はうなずく。
「ひたすらに1つの道を極めるか?ひたすらに広さを求めるか?いずれにしろ、中途半端にはなるな。どっちつかずが一番よくない」
それが悪魔の忠告だった。
元々僕は飽きっぽい性格だったので、1つの作品をトコトン極めるというのに向いていない。似たような作品を続けて書くというのも苦手だった。となれば、道は1つ。広さを求めるしかない。
「ひたすらにひたすらに広さを求め、いずれは宇宙の果てまで描いてみせよう!」
そんなつもりでいた。
宇宙の果てだけではない。それは、ミクロの世界かもしれないし、なんでもない日常の風景かもしれない。とにもかくにも、“なんでも”書けなければならなかった。それが僕の選んだ道であり、呪いでもあった。
広さを求めると決めたからには、それを極めるしかない。油断は許されない。いくらでも成長し、どこまでも手を広げる。それが僕の長所。僕の伸ばすべき能力。
だが、同時に全く逆の心理も働く。
「あまりにも手を広げすぎるのもどうだろうか?それだと、内容が軽くなりはしないだろうか?薄っぺらく感じられるのではないだろうか?」と、そういう心理だ。
そこで、僕は考える。
「どこかで、重さを求める訓練もしておかなければならない。ただ単に手を広げるだけではだめだ。そこに説得力やリアリティを与えることができなければ」
そういうわけで、時として僕は超現実的な作品を書いたりもする。これならば、これまで書いたことにない作品に挑戦しつつ、重さやリアリティや説得力を与える能力を獲得することもできるだろう。
こういう小説が、あまり世間受けしないというのは、よく理解していた。けれども、悪魔も言っていたではないか。
「目の前の作品だけを見ている奴は二流三流。一流は、その先を見る。作品だけでなく、『そこからどう成長できたか?どのような能力を身につけられたか?』そういう考え方をする」と。
僕が目指しているのは、一流の小説家。その中でもさらにトップレベル。一流の中の一流、超一流だ!
そのためには、目の前の作品を見ていてはいけない。ましてや、目の前の作品1つの評価など気にしていてはならない。もっと先を見るのだ!ずっとずっと遠い世界を!!




