オウムのピャーロット
僕は進む。
容赦なく進む。
ズンズンと森の中を進んでいく。小説の森の中を。
やがて、1軒の小屋の前にたどり着いた。
それから、僕は小屋の扉をコンコンコンと叩いてみる。
すると、中から「ドウゾ、オハイリクダサイ」という声が聞こえた。
その声に従って、僕は扉を開き、小屋の中へと入っていく。
目に飛び込んできたのは、一体の死体だった。
部屋の真ん中に大きな揺りイスが置いてあって、その揺りイスには1人の人間が座っているのだった。いや、“かつて人間であったモノ”というべきだろうか?それは、完全に死んでいた。
なぜ、それがわかったかって?
だって、それは骸骨だったのだから。
白骨化した死体から目をそらすと、今度は1匹のオウムが目に入ってきた。
「イラッシャイマセ」
オウムは、僕に向ってそう言った。
さっき、小屋の外から聞こえてきたのも、このオウムの声だったらしい。
僕は、オウムに向ってこう尋ねる。
「この死体は誰だ?」
すると、オウムの明瞭な声が返ってくる。
「ソレハ、カツテ“ショウセツカ”デアッタモノダ。イマハ、タンナル“シタイ”ニスギナイ」
なるほど。これが、この“小説の森”迷い込んで朽ち果ててしまった者の末路か。
僕は、こうならないように気をつけなければ。いや、こんな風になんてなるものか!立派な小説家になって、元いた街に帰るのだ!
あらためて、僕はそう決心をする。それは、家を飛び出し、この小説の森にやって来た時から心に決めていたコトだ。
「では、この小屋には、他に誰も住んでいないのか?」
僕は、オウムに向ってそう尋ねる。
「ソウダ」
「だったら、僕がこの小屋に住んでも構わないのか?」
「スキニスルガイイ」
「よっし!じゃあ、そうする!」
僕はそう断言し、揺りイスの上の死体に触れた。
こんなものを、このままいつまでも放置しておくわけにはいかない。庭に埋めるなりなんなりして片づけなければならない。そう思ったからだ。
その瞬間だった。
軽く人差し指の先で触れただけだったのに、“かつて小説家であった者”はサラサラと砂のように崩れ落ちていき、ホコリのようにサッと空中に舞って、そのまま消え失せてしまった。
それを見ていたオウムが、こう言った。
「コレデ、オマエガ、アタラシイ“アルジ”だ」
どうやら、これで契約は完了したらしい。この小説の森のこの小屋に住む権利を僕は得たのだ。
それは、同時に“小説家の端くれ”になったコトを意味していた。
それから、僕はもう1度オウムに向って質問をする。
「お前、名前はなんていうんだ?」
「ナマエナドナイ」
「前の主人は、お前のコトをなんて呼んでいた?」
「ナントモ。タダ、“オウム”トダケ」
それを聞いて、僕は頭を25度ほど右に傾けて、思案した。
「フ~ム…名前がないのは、ちと寂しいな。なんにしても名前は重要だ。特に重要なキャラクターには。この物語の重要人物…いや、重要オウムになるであろうお前が、ただ単に“オウム”では味気ない。何か、僕が名前をつけてやろう」
オウムは、ジッ~とコチラを眺めている。
「さて、何がいいかな…」と、僕は考える。
オウムは、黙ったままだ。
「オウムは、別名ピャロットというらしい。そういえば、どこかの動物園でサルに“シャーロット”なんて名前をつけていたな。その2つを融合させて…よっし!決めた!ピャーロットだ!オウム君、君の名前は今日から“ピャーロット”だ!」
それを聞いて、オウムはこう連呼した。
「ピャーロット!ピャーロット!ピャーロット!」
まさに、オウム返しだ。
こうして、僕はこの小屋の主人となり、オウムのピャーロットと共に暮らし始めた。
なんのために?
もちろん、「“世界最高の傑作”を生み出す“史上最高”の小説家になるために」だ!!