表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/59

しだいに切れ味の増していくナイフ

 “1日も休まず小説を書き続け、1作完成させた”という経験は、僕に大きな自信を与えてくれた。

 わずか原稿用紙で300枚かそこら。世の“長編”といわれる小説に比べると、まだまだ量は少ないだろう。それでも、中身はビッチリと詰まっている。普通の小説2~3作分にも負けないくらいの自信はあった。


 “1日も休まずに”と言ったが、正確には“1日も休めなかった”と表現するべきかもしれない。

 もちろん、「決して休むなよ」と悪魔から忠告されていたというのもある。「1日に書く量はわずかでもいい。1日1枚でもいい。その代わり必ず書け!」それが、悪魔からの忠告だった。

 だが、それ以上に自分自身の問題でもあった。

「1日でも休んでしまったら、続きが書けなくなってしまうのではないだろうか?」という不安が、常に心にくっていたからだ。

 以前の僕は、そうだった。

「1日くらい休んでもいいか。その分、明日、倍の量を書けばいい」

 そう思い、ゆったりと1日を過ごす。すると、どうだろう?翌日は、もっと書けなくなる。書くのがつらくなる。厳しくなる。

 さらに翌日はどうか?もっと辛くなる。厳しくなる。もっともっと書けなくなる。

 そうやって何日も書けない日が続き、やがては何週間も何ヶ月も書けないまま、無為むいに時を過ごしてしまっていた。

 毎日書き続けることで、それがなくなったのだ。


 また、もう1ついいコトがあった。

 それは、“文章力の向上”である。

 1日の執筆量を減らし、1話を短めに終わらせることで、心にゆとりができた。毎日、その日に書いた原稿を見直せるようになってきた。これにより、誤字脱字は極端に減り、日本語としておかしな部分もかなり減ってきた。

 もちろん、完全にゼロにすることはできない。わざとおかしな文章にして、独自性を出そうと工夫する時もある。だが、それ以外の“意図せぬ文章的欠陥”は、ほとんどなくなったと言ってもいい。

 毎日、原稿用紙2~3枚ずつ。ちょっと書いては、ちょっと見直す。ちょっと書いては、ちょっと見直す。この繰り返しで、ミスを激減させることができたのだった。しかも、執筆原稿は毎日着実にまっていく。いいコトずくめに思えた。


 さらに、もう1つ。

 僕は根本的な意味で“小説を書く”という行為の意味を理解し始めてきた。

「そこか!これか!これが、小説を書くってコトなんだ!」と、開眼する瞬間が何度も訪れた。

 それと同時に、こうも思った。

「なんてこった!これまで僕がやってきたコトはなんだったんだ!?あんなものは、とても小説とは言えない。ただ単に奇想天外なストーリーを展開したり、奇抜なキャラクターを登場させたり、目の前のおもしろさばかりを追い求めてしまっていた!」

 もちろん、それも小説のおもしろさの1つではある。だが、“根本的なおもしろさ”ではない。“表面上のおもしろさ”に過ぎない。

 小説には、もっと深みがある。重みがある。人の心の底にドスン!と響くような衝撃がある。そういった、心の底からわき上がる“魂”とでも言うべきもの、それを込められなければならなかったのだ。

 昔の僕には、それができていなかった。だが、今の僕にはそれができる。まだ、ちょっとだけだけど、キッカケをつかみ始めている。このまま、この能力を伸ばし続けていけば、いずれは本当に“史上最高の傑作”を書けるかもしれない。


 僕は、鏡の中の悪魔に向ってこう語りかける。

「君が言っていた“毎日小説を書き続ける”という言葉の意味をようやく理解し始めてきたよ。その大切さを!一流のピアニストは、1日もピアノを弾くことを欠かさないと聞く。1日サボれば、元の能力を取り戻すのに3日はかかる。1週間もサボれば1ヶ月はかかるという、アレだな」

「そうだ。小説というのは、一時いっときにまとめて書くようなものではない。どんなに量は少なくとも、毎日コツコツと書き続けるものなのだ。まるで、ナイフをぐようにな」

「ナイフ?」

「そうだ。戦場で戦士が使用するナイフのようなものだ。毎日毎日、使い続け、手入れし続ける。そうすることでその切れ味はさらに増し、より強い敵を倒せるようになっていく」

「戦士、敵…か」

「逆に、道具の手入れをおこたり、戦場から長く離れてしまった者の書く文章は、地に落ちる。とても、読めた代物しろものではなくなる。書いている本人にはその気はなくとも、確実に切れ味は落ち、腕はにぶってしまっている」

「なるほど」

「お前は戦士だ!ここは戦場だ!戦え!戦場に立ち続けろ!1日も欠かさずにな!!」


 よっし!わかった!

 書こう!書いてみせよう!1日も欠かさずに!

 だが、あせらず、あわてず、確実に。毎日、着実に1歩ずつ。

 僕は、あらためてそう決心し、再び原稿用紙に向い始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ