後遺症に悩まされる日々
半年が過ぎても、相変わらず小説は書けないままだった。
頭の中がカラッポの状態が続き、斬新なアイデアなど何1つ思いつかない。
「どうしたことだろう?前は、あんなに調子がよかったというのに。1日50枚とは言わないけれども、1日に10枚とか、せめて5枚でもコンスタントに毎日書き続けることができればいいのに。そうすれば、1年に何作も長編小説を完成させ、きっと、いずれは立派な小説家にだってなれるだろうに…」
そんな風に思いはするのだが、いかんせん執筆は進まない。ほとんど1行も、まともな文章が書けやしないのだ。
書けるとしても、小説ではなくて日記や雑文ばかり。それも、「どうして、僕はこんなにも小説が書けないのだろうか?」といったグチのような内容の文章だけ。そんな愚にもつかないゴミクズのような山だけが、どんどん溜まっていくのだった。
*
その後も、全く小説が書けない日々が続いた。
まともな小説の1つすら書けないまま、ただ時間ばかりが過ぎ去っていく。
あの頃は、あんなにも充実していたというのに。今は、ただ不毛な時間が流れていくばかり。同じ1ヶ月が、まるで1日くらいの価値しかない。気がつくと、何もできないまま、数ヶ月が過ぎていたりする。
前の作品を完成させて以来、悪魔とも顔を合わせていなかった。
僕は、悪魔の住んでいる鏡をパタンと机の上に伏せると、そのまま鏡面が見えないように放ったらかしにしていた。
「顔を合わせれば、何を言われるかわかったもんじゃない。アレだけ厳しい悪魔のことだ。きっと、またグダグダとグチや文句を垂れるに決まっている」
僕は、それが嫌だったのだ。
だが、同時にそれは寂しいコトでもあった。文句の1つも言ってくれる人がいれば、僕もまた前みたいにバリバリと小説が書けるようになるかもしれない。
“バリバリと”とまではいかないまでも、少なくとも今よりはマシな状態に戻れるだろう。それに期待し、もう1度悪魔と話をする誘惑に駆られたが、思いとどまった。それ以上に、ガミガミ言われるのを嫌ったからだ。
僕の“世界最高の小説家になる”という夢は失われかけ、情熱の炎は消えかけていた。
それでも、まだ完全に消えたわけではない。表面上はやる気を失ったが、心の底ではブスブスと音を立てながら、残り火がくすぶっていた。
そして、ある事件が起こる。