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奇跡の代償

 奇跡的な追い上げにより、僕は原稿用紙200枚の小説を完成させた。“30日以内”という条件もクリアーしつつ。

 しかも、内容的にもなかなかいい。相変わらずストーリーはハチャメチャだったが、キャラクターは生き生きとし、文章にも躍動感があった。信じられないことに、残り5日間で書いた文章には、誤字脱字もほとんどなかった。相変わらず日本語としておかしい表現もあったが、それがいい味を出し、勢いを感じさせてもいた。

 ギリギリの極限状態に追い込まれたことで、逆によい結果を生み出せたらしい。

「小説は、締め切りギリギリの状態で書くのが、一番おもしろい作品になりやすい!」という教訓を得た。


 さらに、悪魔もほめてくれた。普段あんなに厳しいあの鏡の中の悪魔が、だ。

「やればできるじゃないか」

「へへへ~、だろう~?」と、僕は答える。

 僕はヘトヘトに疲れながらも、も言われぬ充足感を感じ、ほこらしげな気持ちになった。

「な~んだ。最初遊んでいても、後から巻き返せばいいのか。小説なんて、ちょろいちょろい!」

 そんな風に、また油断し始めてもいた。


 けれども、その後、大変な事態におちいってしまう…


         *


「さあて!じゃあ、そろそろ次の作品に取りかかりますか!」と、しばらくの休息の後、再び机に向う僕。

 が、そう上手うまくはいかなかった。

「小説が…全く書けない」

 小説を書こうとペンを取ろうとしても、ポロリと手からそのペンが落ちてしまう。原稿用紙に向うと、頭がガンガン痛くなって拒否反応を示してしまう。新しいアイデアは、1つも思い浮かんでは来ない。頭の中の“アイデア倉庫”は、完全にカラッポになってしまったようだった。

 何も考えられなくなり、ボ~ッとして過ごしたり、何もせずにただ寝ている時間が長くなっていった。


 そうして、僕は現実逃避をし、ニンフたちの泉へと逃げ込んだ。

 そこで、毎日ニンフたちと抱きれ合い、一緒にダンスを踊り、おもしろおかしく暮らした。


 そうやって、ニンフたちと楽しく遊んだり、ゆっくりと温泉につかったり、森を散歩したりして過ごした。こうすれば、少しは心をいやせると思ったからだ。

 無理をして短期間に大量の文章を書いたツケは確実に回ってきていた。心は疲弊ひへいし、全身を毒が浸食し、小説を書く気なんて、これっぽちも起こらなくなってしまっていた。


 悪魔との約束も破って、広場にも行った。そこで、小説仲間たちと大いに語り合い、「いい小説を書くには、こうすればいい、ああすればいい」などと偉そうに教授した。

 ゆっくりとだが確実に一生懸命に小説を書き続けている、やせっぽちのエルサーンをバカにしたりもした。

 まったくもって不毛な日々だ。その間、肝心かんじんの小説の方は、ただの1枚も書けていなかったというのに。1枚どころか1行も!1文字だって書けちゃいなかった!


 そんな風にして、またたく間に半年が過ぎていく…

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