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小説を書くのは楽しいばかりじゃない

 毎日毎日、僕は必死になって小説に向かい合った。

 自分の作ったプロットに従って、小説を書き進めていく。けれども、これがどうにも退屈な作業でたまらない。書いては止まり、書いては止まりを繰り返し、ついに僕は手にしたペンをポ~ンと放り投げてしまった。


「オイオイ、そんなことじゃあ、いつまでたっても完成しはしないぞ」と、鏡の中の悪魔が話しかけてくる。

「そんなこと言ったって、これはあまりにも退屈すぎる。まさか、小説を書くのが、こんなにもつらい作業だったとは…」

 フ~ッと、ひと息、大きなため息をつくと、悪魔は説教を始めた。

「あのな、お前。小説を書くってのは、楽しいばかりじゃねえんだよ。楽しく進める時もあれば、辛く厳しい時もある。むしろ、辛い時間の方が長いくらいかもしれん。旅をするのと同じだ。1歩1歩確実に進んでいくしかない。ほんとに楽しいのは、最初と最後くらいのものだろうよ」

「だけど…」

「“だけど”は、なしだ。いつも平坦で歩きやすい道ばかりと思うなよ。時には、狭く暗い夜道を歩かねばならん時もあるだろう。土砂降どしゃぶりの大雨の中、ぬかるんだ泥道を進まねばならん時もある。いつもいつも、大通りの明るい道を大勢の観客に応援されながら進めると思うな」

 その言葉を聞いて、僕はしゅんとしてしまった。

 悪魔は、さらに続ける。

「なぁに。我慢して続けていれば、しだいに何も感じなくなる。それどころか、逆に楽しくなってくる。むしろ、辛く厳しい道の方が“これはやりがいがあるぞ!”とワクワクしてくるというものだ。これは試練なのだ。そこまで到達するための」

「試練…か。そこまでいけば、ほんとうに楽しくなってくるんだな?」

「ああ、確約しよう。もっとも、お前に真の小説家としての資質があれば、だがな」


 “資質”か…

 真の小説家としての資質。そんなモノが、ほんとうに僕にそなわっているのかどうかは、わからなかった。だが、とにかく情熱だけはある。「史上最高の小説家になってみせるぞ!」という熱意だけは。それだけは、誰にも負けない!負ける気がしない!

「そうだな。こんなところで止まっているわけにはいかないな」

 そうつぶやくと、僕は再び原稿用紙へと向ったのだった。


         *


 それから、また3ヶ月が過ぎた。

 どうにかこうにか原稿の方は完成させた。前の作品が100枚で、今回が200枚だから、スピード自体は倍に上がった計算になる。ただ、内容の方はというと…

「酷いもんだ。まったくもって酷いもんだ」

 僕は、悪魔に言われて、自分の書いた原稿を読み直してからそうつぶやいた。

「まあ、そうだな」と鏡の中の悪魔も同意する。

 自分で読み直しても酷いデキだと思うのだから、他人から見ればよっぽどだろう。

「どこがどう酷いか言ってみな」と、悪魔にうながされて、僕は淡々(たんたん)と語り始める。

「どうもこうもないけど…まずは、前の作品で駄目だった点がさらに酷くなっている。最初の作品は、まだ熱意というかたましいというか、そういうものが感じられた。それが、プロットを元に書かれたせいか、全然なくなってしまっている。これじゃあ、“ただ書いた”というだけに過ぎない」

「フム。それから?」

「それから…そうだな。誤字脱字も以前よりも増えてしまっているし、文章として成立していない場所もアチコチにある。書いている時には気づかなかったけど、後から読み直してみるとよくわかる。これじゃあ、何を伝えたいのか全然わかったもんじゃない」

「なるほど」

「ストーリーはまだしも、キャラクターの方は完全に死んでしまっている。“生きている”という感じがしない。これも、プロットを元にして書いた弊害へいがいだろうか?登場する人物、登場する人物、片っ端から死んでいる。役者でいえば、棒演技。まるで、人形が動いているみたいだ」

「なかなか、いい評価だな。的を射ている。小説家よりも、評論家を目指した方がいいくらいだな」と、悪魔は皮肉を言ってくる。


「じゃあ、逆にいい点はどこだ?1人の読者として読んだ時に、その小説に1つでも魅力はあるか?長所はあるか?」と、悪魔が質問してくる。

「魅力、長所…か。そうだな。相変わらず密度は高いな。意味はわからなくとも、とにかくストーリーの展開は早い。次から次へと事件が起こり、解決していき、また次々と事件が起きていく。テンポだけはいいかも。その代わりに地の文がザ~ッと続くし、会話が極端に少ない。これは利点でもあるけど、欠点でもあるか」

「膨大な情報で、ガ~ッと一気に攻める。それが、お前の才能。そういうタイプの作家というわけか。確かに、それは欠点でもあるが、大きな武器ともなる。とてつもない武器とな。現時点では、まだ有効に使えていないかもしれんが、その能力を自由自在に扱える日がやってくれば、誰にも負けない武器…いや、兵器とすらなろう」

「武器…兵器か」

「そうだ。大切にしろ、その能力を。そうして、極限まで伸ばすのだ。時間はかかるかもしれん。何ヶ月、何年…もしかしたら何十年。そこまでしても伸ばすべき能力だ。欠点は克服しろ。だが、それ以上に長所を伸ばせ。お前なりの、お前だけの、誰にも負けない長所を!」

「わかった!」


 僕は、悪魔にはげまされ、再び推敲すいこう作業へと入った。

 今回も、大きなストーリーなどの変更は行わず、細かい誤字脱字や文章的におかしな部分の修正だけにとどめた。それだけでも、何百ヶ所という修正点があったのだけど。

 それだけで、また1ヶ月以上の期間を要してしまった。

 もっとも、それだけの価値はあった。修正すれば修正するほど、メキメキと実力は上がっていき、次から同じあやまちをおかさなくなってくる。1発で決められるようになってくる。


 こうして、2作目は完成し、次の修業へと入っていった。

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