プロットは補助輪のようなモノ
鏡の中の悪魔から、次なる指令が入る。
「さて、前回100枚だったから、今度は200枚だな」
「よ~し!がんばるぞ!」と、さっそく僕は原稿に取りかかり始めようとする。
が、そこに悪魔から“待った”がかかる。
「待て待て、そうあわてるな。今度は1つ条件をつけよう」
「条件?」
「そうだ」
「で、その条件って?」
「今回は、プロットを作ってもらおう。それを元にして小説を書いていくのだ。その条件で、最低限200枚。原稿用紙で200枚以上だ」
「プロット?」と、僕は尋ねる。
「プロット?」と、オウムのピャーロットも復唱する。
「そうだ。あらかじめストーリーの大まか流れを考えておいて、ここでこの登場人物がこう行動し、次にこのような事件が起きて…最後に、このような結末を迎える。といった感じで、実際に小説の執筆にかかる前に、書き出しておくのだ。いわば、小説の設計図のようなモノだな」
「なるほどね。確かに、その方が楽かもしれない。前みたいに、途中でストーリーに詰まって頭を抱えることもなくなるだろうし」
「勘違いするなよ」と、鏡の中の悪魔が釘を刺してくる。
「え?」
「あくまで、これは訓練に過ぎない。いずれは、こんなモノなしでもスラスラと書けるようにならねばならん。ただ、“こういうコトもできておかなければならない”というだけのことだ。いつまでもこんなモノに頼っていてはいけない。プロットは、いわば補助輪だ。自転車についた補助輪。子供の内はいいが、大人になれば補助輪なしで走れるようにならなければならない」
「なるほど。ま、とにかくやってみるよ」
僕は安易にそう答えて、さっそくプロット作りに取りかかった。
ところが、これがなかなか骨の折れる作業だった。
登場人物やら大まかなストーリーやらを考えていると、ついついそれにのめり込んでしまって、綿密なプロットを作ってしまいがちになる。
しかも、実際に小説の執筆に取りかかると、今度はやる気が出てこない。プロット制作の時点でエネルギーを使い果たしてしまっていたのだ。
「全然進まないよ。これじゃあ、前作よりも酷いくらいだ…」
僕は、そう泣き言をもらした。
なにしろ、まだ最初の5枚だというのに、もう原稿が進まなくなってしまっている。
この先、何を書けばいいのかはわかっている。だが、それを書く気が起きないのだ。いや、“だからこそ”と言うべきだろうか?この先、何が起きるのかわかってしまっている。だからこそ、書く気がわいてこないのだ。
「何が起こるのかわからない。だからこそ、小説はおもしろい!なのに、この後、誰が何をするかわかりきっているだなんて。そんなモノを書く必要が、ほんとうにあるのだろうか?」
そんな風に考えてしまうのだ。
どうやら、僕はこういった単純作業に向かない性格らしい。何が起こるかわからない世界で、荒れた大地を開墾したり、道なき道を切り開く。そういうのは得意中の得意!逆に、安定した生活は苦手。先のストーリーがわかっている物語を執筆するというのは、単なる単純作業に過ぎない。
「この後、どうなるかがわかっているならば、僕でなくても他の誰かが書けばいいじゃないか…」と、そう考えてしまうのだった。
これは、苦行だ。あり得ないほどの苦行。
苦しい。非常に苦しい…
高い!
高すぎる!!
あまりにも高すぎる壁が、僕の眼前に立ちふさがってしまっていた。
果して、この高すぎる壁を僕は乗り越えることができるのだろうか?