ファンタジー探偵先生
――魔法というものは、間違いなく才能と呼べるものだ。
だけど他の才能と一緒で、自分の欲しい才能が得られるなんて事はない。
例えば炎を使いたくたって、与えられるのは水を操る魔法かもしれない。
例えば水を使いたくたって、与えられるのは風を操る魔法かもしれない。
だから僕が世界を救う光の魔法を欲しくたって、得られたものはもっと別の才能で。
才能を選べなかった僕は、才能を活かせる仕事についた。
「それで先生、犯人の目星は付きましたか?」
先生、と衛兵は言う。僕の事だ。
だけどどこかで教鞭を執っているとか、医者をしているという訳ではない。長いコートを着込んで、厚ぼったい帽子を被って。もったいぶった態度であれこれ説明するのが僕の仕事。
探偵。僕の才能が活かせる、唯一の仕事。
「まあまあ……そう焦らないで。とりあえず死体の状況から確認しましょう」
死体……といってもほとんど跡形はない。消し炭になったそれは建物や家具に燃え移らないよう丁寧に焼かれており、むしろよく死体とわかったなと言いたくなるような出来栄え。魔法を使えない人の仕業なら、家ごと焼かれている筈。だから犯人は魔法使いとみて、間違いはない。
「焼かれてますね」
「そうですね。でも先生どうしましょう……自分は今日の晩御飯は鳥の丸焼きにしようと考えていたんです」
どうでもいい質問は無視して、部屋の中を一通り漁る。本棚は魔導書で埋め尽くされ、台所は洗っていない食器で溢れ、クローゼットには洗濯物の山が。忙しいのか物臭なのか、僕には良くわからなかった。
「それで衛兵くん、被害者はどんな人だったのかね?」
「えーっとですねえ、被害者はモールさんという女性ですね。年齢は29歳、職業は……魔法塾の講師みたいですね。炎の魔法が得意だったみたいですよ?」
「炎の魔法が得意だったなら、自殺の可能性は?」
「やだなあ、それを調べてもらうために先生を呼んだんですよ」
まあ、そうなんだけど。
衛兵くんは人が死んでるというのに、緊張感の欠片のない顔でへらへらしている。ついでに早くしろとでも言いたげな、そんなムカつく顔。
「さあ、先生いつものアレ……お願いします」
「しょうがないなあ」
仕方のない事だった。僕が才能を活かして生活していくには、この方法しか無かった。
――例えば炎を使えれば兵士とか、水が使えたら農業とか。
コートから羊皮紙を取り出し、羽ペンを走らせて魔法陣を描く。消し炭の上にそれを乗せれば、紫の怪しい炎がゆらゆらと燃え始める。
そして、彼女がそこにいる。正確には彼女の霊が。
――だからネクロマンサーの僕は、手っ取り早く探偵になった。
「誰に殺されました? 理由は?」
『隣の部屋のライトに……。夜中叫んでたら五月蠅いって……』
「そう、じゃあお疲れさん」
紙を剥がして、丸めて捨てる。僕の仕事はこれで終了。
「じゃあ先生、僕ちょっと隣の部屋行ってきます。お金のほう、いつものように届けさせますから」
「はいはい」
部屋を後にしようとする衛兵くんが、思い出したように振り返る。それから僕の顔を見て、少し悩んでどうでもいいことを言い出した。
「先生、今日は一緒に食事でも行きませんか? 美味しい鳥の丸焼きが出すお店を知っているんです。閉まるのが少し早いけれど、評判なんですよ」
「なんで?」
「なんでって、そりゃあ」
それから彼は満面の笑みで、やっぱりどうでもいいことを言う。
「たまには、女の子とご飯に行きたいじゃないですか」




