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逆転バッドエンド  作者: 那奈
前奏曲(プレリュード)
3/20

絡み合う運命 Ⅱ

 



「ただいまー」




 学校から帰ってきたあたしは、いつも通り玄関のドアを閉めて靴を脱いだ。不意に見覚えのない黒いブーツが目に留まる。



 あれ?こんな靴家にあったっけ…ってあぁ!今日はお客さんが来るから早く帰って来てって言われてたんだった!すっかり忘れてた‥



 母に何か言われそうだとがっくりしながら家に上がると、スリッパの軽快な音と共に母が顔を出した。




「お帰り美玲。ほら、早くリビング行きなさい」




「お客様、お待たせしているのよ?」と小声で言いながら早く入りなさいと背中を押される。




「美玲、お帰り」




 リビングに入ると二人掛けソファに座っていた父が振り返った。




「あれ、お父さん…?仕事は?」




 まだ夕方だ。こんな時間に帰ってくることなんて滅多にないのに。




「うん。大事な話があるからね。早めに切り上げてきたんだ。それにお客さんだよ。挨拶して」




 そう言った父の目線の先ーーテーブルをコの字に囲むようにおいてあるソファ。父の正面にある二人掛けソファには確かに、見覚えのない金髪の青年が座っていた。此方を見ようともせずにじっと俯いている。

 母に促されて誕生日席の一人がけソファに腰を下ろす。



 トップを立てたウルフカットの金髪。袖が無い襟が立った白いコートは膝下までありそうなほど長く、裾には朱色のライン。ダブルジッパーなのか首より下から上半身は前が閉まっているが、腰から下は裂けたように左右に広がっており白い袴が覗いている。



 ぼんやりと青年を観察していると、その顔がゆっくりとあげられた。




「……え…」




 すっごい美形…




 明らかに日本人のそれでは無い整った顔のつくりは〝かっこいい〟とかいうよりは〝美形〟。それでもつり上がった目のせいかどこか威圧感もあった。




「お前が篠崎美玲だな?」

「へ…あ、はい」




 見た目とは裏腹に流暢な日本語で話しかけられて思わず怯む。

 青年は感情無いのかってくらいの無表情で、顔が整ってる分ちょっと怖い。つり目だし。

 いやでもかっこいい。その辺のモデルとか俳優より全然。

 頭だけがフルで回転しそのまま硬直していると青年が片眉を吊り上げた。


 ソファに座ってからずっと青年を見つめ続けていたことに気づいて慌てて目を逸らすと、動揺する自分をさも可笑しそうに笑う母と目が合った。

 父が一つ咳払いする。




「さっきも言ったけど、美玲に大事な話があるんだ」

「…何でしょう」




 両親と青年を交互に見る。まるで接点が見えない。




「まぁ、とりあえず自己紹介してもらおうかな」




 父が青年に軽く微笑むと青年が口を開く。




「ガーディアン、フェニックス3星、レオ・スタッカートだ。お前の〝月の子〟の能力が安定するまで俺がお前を守護する」







 ……はい?






 文字通りあたしの目は点になった…と思う。

 てか何?ガーディアン?フェニックス?能力が、何だって…?


 いきなり並べたてられた謎の単語が頭の中でぐるぐると回っている。

 もしかして前半はものすごく長いミドルネームなのかな…フェニックス3世とか…と半ば納得しかけていると横から思考を遮られる。




「俺は異世界から来た」

「はっ!?」




 もう何が何だか分からない。イセカイって異世界?異世界なんかあるわけない。外国ってこと?日本語間違えてるだけだよね?



 涙目で両親を見ると父が困ったように笑った。

「此方から説明させていただいても?」と声を掛けると、青年は何も言わずに頷いた。




「改めて紹介すると、こちらレオ・スタッカートさん」



 あ、意外と名前短かった…



 呑気なことを思っていると父が続ける。




「まず端的に言うと、普通の人間では無いんだ。レオさんも、美玲もね」

「…‥‥や、あたし人間だよ?」




 喉に張り付いて上手く出ない声を押し出してみる。が




「違う」




 青年ーレオに速攻否定された。




「お前は人間じゃない。当然俺もだが」

「‥‥え、‥だって‥‥‥‥は‥‥‥?」




 〝呆れて物も言えない〟とはよく言ったもので。今のあたしはまさしくその状況。



 いやいやいやいやいや、だっておかしいでしょ。人間じゃないって何?意味わかんないし。

 ていうか、人間じゃなかったらあたしは何なんですか?人語を話す新種の人型動物ですか?

 ‥って、それやっぱ人間じゃん。


 この人顔はいいけど頭がだめだ。

 何かもう思考回路がファンタジーしてるもん。異世界から来たとか人間じゃないとか、月の子?とか守護だのフェニックスだの諸々‥


 ‥分かった。この人ゲームと現実の世界の区別がつかなくなるっていう現代病?的なものに犯されてるんだきっと。嗚呼楽しそうですねそのゲームあたしも是非やってみた




「いい加減にしろ。お前が何を考えているのか手に取るように伝わってくる。気分が悪い。言いたい事があるなら直接言え」




 終わりの見えないあたしの脳内一人演説(現実逃避)は超不機嫌な青年の言葉によって途中でぶった切られた。

 つい三秒前まで蝋人形のごとく無表情だった彼の眉間と鼻の頭には深々と皺が刻まれ、元々つり上がり気味だった目尻はさらにつり上がり金色の瞳が冷たい光を放っている。



 こ、怖‥‥



 怖い。超怖い。

 そりゃ確かに失礼な事考えてたけども!そんな顔されたら言いたいことあっても言えません!「家から右に進んで二回左に曲がったところに病院ありますよ」なんて口が裂けても言えません!




「すみませんレオさん。娘も突然の事で混乱しているんです。詳しく説明を‥」

「お、お父さん‥?」




 そのまま皺取れなくなっちゃうんじゃないのって感じの表情のまま未だこちらを睨むレオに向かって申し訳なさそうに言う父。


 待って待って待って。そういえば何でお父さん達はこの人連れてきたんだっけ。そんでもって何でこの電波男の話信じてる感じなわけ。何であたしだけが理解してないっていう雰囲気なわけ。

 しかも詳しく説明って何。まだなんかあるのもうやめてよ

 全 力 で ノー セン キュー です!




「説明するよりも直接見た方が早いだろう」




 レオがため息をつきながら立ち上がる。




 そして一言。




「今から異世界に行く。ついてこい」


「‥‥は、いやいやいやいやいやいや!異世界とかあるわけないから!!‥って離してよ!このゲーム脳男!」

「煩い喚くな。その"げぇむのう男"とやらも罵倒のつもりか?口の減らない女だな」




 全力で逃げようとするあたしの腕を掴んで逃すまいとしてくる。全体重をかけて逃げようとしてるっていうのにレオは片手であたしの腕を引っ張ってるだけ。しかもあたしの体はジリジリとレオの方へと引き寄せられていく。

 何こいつ何でこんなに力あんのよ。なんかもう自分の非力さが虚しい。


 涙目でレオを振り返ると

 レオの隣にはぽっかりと黒い円が浮かんでいた。

 そう、まるで空中に穴が空いたような。その空間だけを切り取ったような。

 これが何なのかよくわからなかったけど、少なくとも今のあたしにとってはあまり喜ばしくないものだということはわかる。し、何となーくファンタジーの匂いがする。




「何‥これ」




 思わず呟けば




「〝時空ホール〟だ。此処をくぐれば、魔術除けがかかっている場所以外は自由に行き来できる。異世界へと繋いでおいたからさっさと入れ」




 聞 か な き ゃ 良 か っ た



 何なのよもぉおおお!物凄くファンタジーな説明が飛んできた!何処でも自由に行き来できるっていうドアはまぁそりゃあ憧れたもんだけど!でもでもでもでもそれが現実にあるなんて




「おい、さっさと入れと言っただろ。これすげぇキツイんだよ‥!」




 ズル、と一瞬腕を掴んでいた手が緩み、少しだけあたしの体が前に傾いて再度手首当たりで掴み直された。

 レオの額には薄っすらと汗が滲んで、ちょっと辛そうな顔してる。

 それに、さっきまでと微妙に口調が‥


 レオの様子の変化に驚いて無意識に抵抗を緩めてしまったその瞬間、



 ぐいっ と物凄い力で引っ張られ、あたしの体が宙に浮いた。

 自分の両膝が目の前に現れ、呆気に取られたような表情の両親が視界に入った。

 スローモーションの様に景色が動いていく。

 重力に逆らわず、これまたスローモーションの様にゆっくりと落ち始めたあたしの体。地面に墜落した衝撃を思いギュッと目をつぶったと同時にお腹に鈍い衝撃が。

 驚いて目を開くとそこにはレオの腕が埋まってて。更に吹っ飛ばされたあたしの体は吸い込まれるように円の中へ呑み込まれた。




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