悪魔のコイン
父が亡くなった。突然の知らせを受け僕は会社を休み葬儀のために実家へと帰省した。
葬式を終え、遺品の整理をしているとき金貨を見つけた。
父はよく海外旅行をしていたのでどこか外国の金貨だと最初は思ったが、数字も文字もなく貨幣のようには見えなかった。
金貨には禍々しい羊の頭部が掘られているだけである。その様にはどこか不気味で怪しい魅力が漂っている。
他に欲しい物も無かったし、僕は形見に丁度いいかもしれないと思い金貨ポケットに入れた。
父の葬儀からしばらくった。
僕は実家を後にし住んでいるマンションに戻っていた。
時間は深夜12時。僕は一人で晩酌をしながらリビングで寛いでいた。その時、突然誰かが入り口のドアをノックした。
こんな時間に誰だろうか・・・少し不振に思ったが僕は反射的に返事をしていた。
「返事があったから入らせてもらったぞ」
目の前に突如、黒いフードを被った男が現れた。思わず悲鳴を上げそうになる。
「騒ぐなよ・・・・ちょっとした用事があるだけだ。なに、簡単な用事だ。お前最近、金貨を一枚手に入れたろう。羊が彫られた金貨だ」
「ああ、持ってる。父の遺品だったんだ」僕は震えた声で答える。
「そうか、では私にそのコイン譲ってくれないか?」
「え・・・」
「そのコインは人間界では特に価値はない。まぁ、普通の金くらいの価値はあるがそれは大した価値じゃない。本当の価値は悪魔の世界でこそ意味がある。それは悪魔の世界では大変貴重な物だ。お前には解らないだろうが」
「じゃ、お前は悪魔だっていうのか?」
「その通りだ」
何を言ってるんだ。悪魔とか作り話に決まっている・・・・しかし、突然に姿を現した事と男の身に纏うな異質な雰囲気は僕の考えを払拭には十分な迫力があった。
僕は恐る恐る尋ねる。
「お前が本当に悪魔なら何故僕から力ずくで奪わない、僕はただの人間だ。わざわざ目の前に現れなくても勝手に入って盗んでいくこともできるんじゃないか?」
「本来ならそうする所なんだがな・・・・悪魔にも掟はある。特にこのコインに関する掟は厳しい。他者から力ずくで奪おうものなら、コインは灰となりこの世から消滅してしまう。そういう仕掛け多く施されてる・・・。だからお前から力ずくでは奪わない、むしろ何か欲しい物をやろう。何がいいんだ?大抵のことは叶えてやれるぞ?但し一つに限るがね」
なんでも・・・・・僕は心が欲に支配されるのを感じた。金でもいい・・・・女でもいい・・・・誰も知りえない秘密でもいいかもしれない・・・・。悪魔が叶えてくれそうな歪んだ望みはいくらでも思いつく。
その中から何か一つ叶う・・・僕の心臓は高鳴っている。
望みはいくらでもあるが・・・・・戸惑いと恐怖も僕の中にはあった。
願いを叶えてくれるとは言ったが、その後命が無事である保障はない。
高すぎる望みは悪魔の怒りを買い、命を奪われるかもしれない。コインを力ずくでは奪えないとは言ったがその後までは保障の限りではないと思う。
願いを叶えてもい金貨を渡した後、やはりこれだけでは代償がたりないと命を奪われたらたまらない。
「どうしたなんでもいいんだぞ?」
恐ろしくて欲望に忠実には成れなかった。しかし、もう二度とないチャンスを捨てたくないという諦めの悪い欲望が僕に何かお願いしろと言っている。
「話を聞きたい」
「なに?」
「そのコインに纏わる話だ。悪魔の世界の話でもいい。その話を聞かせてくれたらこのコインを渡そう。ちょうどここに酒もある。酒の肴に悪魔の話を聞かせてくれ」
結局僕はいい願いが思いつかなかった。かといって欲が邪魔してコインを譲渡することができなかった。それで思いついたのが話しを聞かせろというつまらあに願いだった。
と言っても悪魔の話なんてもう二度と聞くことはできないだろう。
誰かに話すことなんてないかもしれないが、作り話としてなら面白い話になるだろう。酒の席で話せばそこそこ面白いかもしれない。
「いいだろう、夜はまだまだこれからだ。たっぷり話てやるさ・・・・忘れたくても忘れられないような話をな・・・」
そう言うと悪魔は腰を下ろし、話を始めた。
そして朝まで悪魔の世界の話とコインに纏わる話を聞かされた。恐怖の話は朝まで続いた。
僕は話を聞いているうちに顔が恐怖で引きつっていくのを感じていた。悪魔の話で僕の精神にはひびが入り、消える事のない恐怖を脳に刷り込まれていく。僕は途中から早く終わってくれと、そればかり願っていた。
やがて朝になり、悪魔は話を終えた。
「ではコインは貰っていくぞ」
そういうと悪魔はテーブルの上に置かれていたコインを広い上げると再び突然姿を消したのだった。
悪魔が居なくなり、朝を迎えても僕の中の恐怖が消えることはなかった。むしろ増徴し続け蝕んでいった。
僕は何もできずただ震えていた。忘れられない悪魔の話に恐怖していた。
そのうち僕は耐え切れなくなり部屋を飛び出し、マンションの屋上に向かって全力で翔けていた。そして屋上からから飛び降りた。
10階建てのマンションの屋上から飛び降り僕は即死だった。
アスファルトに叩きつけられた衝撃で僕の体は無惨なものだった・・・・そして死後も恐怖に歪んだ顔は元に戻ることはなかった。
僕が死んでからしばらくして、両隣の人間も自殺した。直接は聞いていなくても悪魔の恐怖の話は伝染し人間の精神を蝕み・・・・死に追いやったのだった。
やはりその顔も同じように恐怖に歪んでいたという。




