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007

「僕、いつまで待たされるんだろ?」


 食事を終えたハジメは食堂で一人椅子に座っていた。


 ハジメが料理を食べ終わるとファムは「ハジメさんはここで待っていてくださいね♪」と言って彼が食事に使っていた皿とフォークを持って食堂から出ていき、それからすでに三十分が経つ。いい加減待つことにも飽きたハジメが視線を天井にさ迷わせていると、食堂の扉が開いてソルダとフィーユの二人が入ってくる。


「ティーグル少尉。ラパン少尉」


 ザッ!


『ニノマエハジメ殿、私達と同行をお願いします』


「……え? あ、はい。……分かりました」


 食堂に入るなり敬礼をしてハジメに同行を願い出るソルダとフィーユ。やはり二人ともまだ若いとはいえ軍人というべきか、リンドブルムで話していた時と顔つきも雰囲気も違っており、ハジメはそんな二人の変化に戸惑いながらも頷く。


「ありがとうございます。ではこちらへ」


 ハジメが先を歩くソルダとフィーユの後ろについて通路をしばらく歩くと艦のブリッジにと案内された。ブリッジにはコロネル大佐を初めとする艦の士官達が集まってハジメがやって来るのを待っていて、その片隅にはファムの姿もあった。


「敬礼っ!」


 ハジメがブリッジに入ってきたのを確認したコロネル大佐が号令を出し、ブリッジに集まっていた全士官が一に向かって敬礼をする。


「…………………………あ、あのコロネル大佐? そういうことは別にいいってさっき……」


「いえ、そういうわけにはいきません。『イレブン・ブレット少将』」


「………………はい?」


 敬礼を止めるように言おうとしたハジメの言葉を遮って、コロネル大佐は彼のもう一つの名前、ゲームでのプレイヤーネームを口にする。


(確かにイレブン・ブレットって名前は僕のプレイヤーネーム……この体の名前だけど、何でそれをコロネル大佐が知っているの?)


「突然のことで驚いたかもしれませんが、私達が貴方をイレブン・ブレット少将と認識したのには三つの理由があります」


 困惑した表情のハジメを見てコロネル大佐は、自分達が彼をイレブン・ブレットだと認識した理由を説明する。


「三つの理由?」


「はい。まず一つ目、貴方の機体サイクロプスが現れたとき、私達はベット・オレイユ軍の認識コードを感知しました。これは二百年前の古いもので登録されていた機体は『サイクロプス』、搭乗者は『イレブン・ブレット』とありました。

 次に二つ目、勝手ながらサイクロプスを調べさせてもらったところ、あの機体はマスターギアであることが判明しました。そしてそれを貴方が乗りこなせたのをここにいる艦のクルー全員が確認しております。

 最後に三つ目ですが……ルナール少尉」


「はい」


 コロネル大佐に呼ばれてその場に並ぶ士官達の中からファムが前に出てきた。その手にはハジメが食堂で使用していた皿とフォークが持たれている。


「その皿とフォークって……」


「はい。先程貴方が使用していた食器です。ごめんなさいハジ……いえ、イレブン少将。これも任務ですから」


 ファムはそう言ってハジメに謝るとコロネル大佐に報告をする。


「食器に付着していた唾液を調べた結果、彼とデータベースにあるイレブン・ブレット少将の遺伝子情報は百パーセントの確率で一致。つまりは同一人物であることが分かりました」


 どうやらファムがハジメに料理を作ったのは、彼の要望を叶えるためだけでなく、コロネル大佐からの指示もあったようだ。報告を受けたコロネル大佐はファムに一つ頷くと再びハジメの方を見る。


「報告、ご苦労だったルナール少尉。……以上の理由から私達は貴方をイレブン・ブレット少将であると認識したのです。分かっていただけたでしょうか?」


「ええっと……。待ってください。何でマスターギアに乗れるから僕がイレブン・ブレットになるんですか? コロネル大佐達はマスターギアに乗れないんですか?」


 認識コードと遺伝子情報は納得したが、マスターギアに乗れるから自分がイレブン・ブレットだという理由はいまいち納得できなかった。思い返してみればファム達に初めて会った時も、サイクロプスをマスターギアと言うと変な顔をされた気がする。


 ハジメが聞くとコロネル大佐は頷き答える。


「はい。マスターギアの操縦ができる操縦士はこの二百年の間、イレブン・ブレット少将以外確認されておりません」


「何故ですか?」


「……イレブン少将は『ミスリル』のことはご存じですか?」


 ミスリル。


 それはゴーレムを倒すことで入手できる素材アイテムの名称だった。


 倒したゴーレムによって手に入るミスリルの純度が異なり、ゲームのマスターギアでは決められた純度のミスリルと機械パーツを集めることで機体を作るシステムとなっている。


「はい。ゴーレムを倒して手に入れる鉱物でしたっけ?」


「そうです。そしてミスリルには人の思念波、サイコウェーブを感知するとエネルギーを発すると共に思念を周囲に伝えるという特性を持っています。そのためミスリルはマスターギアのエネルギー源兼コントロールシステムに使用されています」


 そこまでの説明を聞いてハジメは、地球で見たロボットアニメにあったサイコなフレームを思い出した。色々と違う点はあるだろうけど基本的には同じものだろうと納得するハジメだった。


「しかしミスリルは使用する量が増えればそれに応じて強いサイコウェーブを必要とする特性もあり、サイコウェーブの強さが必要最低限な強さにとどいていなければミスリルは特性を発揮しないのです。そして機体のほとんどがミスリル製のマスターギアが反応する強力なサイコウェーブを放つ人間は貴方、イレブン・ブレット少将だけなのです」


「そ、そうなんですか? それじゃあ、あのアンダーギアは?」


「アンダーギアはコックピット周辺のフレームのみにミスリルを使用して一般の兵士にも操縦できるようにした兵器です。その代わりアンダーギアのミスリル使用率は全体の一割にも満たなくて、精々エネルギー源とコントロールシステムの補助位にしか使えず、各性能はマスターギアとは比べ物にならないくらい劣ります」


(あー、なるほど。だからか……)


 アンダーギアの説明を聞いてハジメは、ゲームのマスターギアでたまに登場していたノンプレイヤーキャラが操縦するマスターギアを思い出す。ゴーレムと戦う彼らはすぐには負けないけど中々勝つことができず、地球にいた頃のハジメはゲームのシステムだからこんなものだろうと思っていたのだが、もしかすると彼らが操縦していたのはマスターギアではなくてアンダーギアだったのかもしれない。


「……貴方達が僕をイレブン・ブレットだと認識した理由は分かりました。でも何で僕はあそこにいたんですか? 皆の話を聞くとイレブン・ブレット……僕って二百年も昔の人間なんですよね?」


 自分がイレブン・ブレットだとされた理由は納得できたが、まだハジメには最大の疑問が残されていた。ゲームの世界に転生するにしても何故ストーリーモードの時代ではなく、二百年後の今なのか全く分からなかった。


 だが分からないのはコロネル大佐も同じらしく、言葉を濁しながら話す。


「……そのことなのですが私達にも分かりません。ですが、推測でもよければ説明させていただきますが……」


「それでもいいです。お願いします」


「分かりました。……今から二百年前に『巨神の来襲』と呼ばれた史上かつてない大規模のゴーレムとの戦いがありました。全体の大きさが惑星と同等の巨大ゴーレムとそれに率いられた数百万のゴーレムの来襲。それにより当時の我がベット・オレイユだけでなく他の惑星国家も壊滅的な被害を受けたと聞きました。そしてイレブン少将は巨大ゴーレムを撃退すべく単独で出撃をしたという記録が残っています」


「巨神の来襲……。惑星と同じ大きさのゴーレム……」


 ハジメはコロネル大佐の言葉に一つ心当たりがあった。


(それって……二周目以降の「真エンディング」のラスボス戦闘のことか?)


 ゲームのマスターギアのストーリーモードには「ノーマルエンディング」と「真エンディング」と呼ばれる二つのエンディングがある。


 ノーマルエンディングはストーリーモードを最初にプレイしたプレイヤーが見るエンディングだ。内容は様々な事件やゴーレムの戦闘を解決した主人公が最終的に所属国家の大佐となって、その後も軍人として活躍していくものだったとハジメは記憶している。


 そしてもう一つの真エンディングは、ノーマルエンディングを見た二周目から追加されるシナリオをクリアすることで見られるエンディングである。


 追加されるシナリオは主人公が大佐となった後、コロネル大佐が言ったように惑星規模の巨大ゴーレムが現れて主人公がこれを撃退するために出撃するというものだ。追加シナリオの最後では、主人公が戦艦ごと巨大ゴーレムの内部に侵入してゴーレムのコアを破壊するが、コアを破壊されたゴーレムはその場で自爆して主人公と共に宇宙から消滅。主人公という一人の犠牲を出したが、そのお陰で宇宙に平和が訪れたというのが真エンディングの内容だ。


 どうやらこの世界は真エンディングの二百年後の世界らしい。


「二百年前の記録なので詳しいことは分かりませんが、どうやらそれによると巨神の来襲で現れた巨大ゴーレムと一部のゴーレムには、時空間に干渉できる特殊な能力があったそうです」


(そういえばそんなのもいたなぁ……)


 言われてみれば真エンディングのラスボスと中ボスのゴーレムは、そのような設定でワープ移動を繰り返す敵だったような気がする。


「そしてこれは完全な空論なのですが、二百年前の戦いでイレブン少将はそのゴーレムの時空間に干渉する能力の影響を受け、それでこの時代に現れたのではないかと……」


 そこまで聞いてハジメはコロネル大佐の言った話の内容を一度頭の中で整理してみる。


・二百年前に「巨神の来襲」と呼ばれる巨大ゴーレムと数百万のゴーレムの襲撃があって、ゲームの中の自分、イレブン・ブレットは巨大ゴーレムを撃退すべく単独で出撃。


・巨大ゴーレムの内部に侵入したイレブン・ブレットは巨大ゴーレムのコア破壊に成功するが、それによって巨大ゴーレムはイレブン・ブレットもろとも自爆をする。


・巨大ゴーレムには時空間に干渉できる特殊能力があって、自爆したときにこの特殊能力が暴走。影響を受けたイレブン・ブレットは二百年後のこの世界に飛ばされる。


(……話をまとめるとこんなところかな? かなり滅茶苦茶な話に聞こえるけど、SF系の物語だったら「アリ」な展開なのかな……?)


「ですがその代償は決して小さくはなかった……」


「え?」


 頭の中で話を整理していたハジメに向かってコロネル大佐が口を開く。


「二百年後の世界とはいえ、巨大ゴーレムの自爆から奇跡的に生還した貴方だったが、その時の影響で貴方は記憶を失ってしまわれた……」


 気がつけばコロネル大佐だけでなくこの場にいる士官達全員が哀れむような、悔やむような目でハジメを見ていた。


(あ、アレ? もしかしてここにいる全員、今の話に納得して完全に信じちゃっているの!?)

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