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006

「あのロボット……アンダーギアとかいったか? やっぱりマスターギアとよく似ているな。一体どこが違うんだ?」


 ゴーレムを全滅させたハジメはサイクロプスのコックピットで母艦を守るアンダーギア部隊を見て首を傾げる。


「まあ、いいか。ゴーレムも全滅させたし、後はルナール少尉達を母艦に返せば終わりなんだけど……思いっきり警戒してるよね、アレ?」


 モニターに映るアンダーギア部隊は全機サイクロプスを見ていて中には銃をこちらに向けて構えた機体もおり、警戒しているのが容易に見てとれた。確かに自分達が苦戦していたゴーレムを突然現れた正体不明の機体が一機だけで全滅させたら警戒はするだろう。


「困ったな。なんとかあの母艦と連絡を取りたいんだけど……え?」


『……大佐! ブリッジに通信がきています。発信源はあのアンダーギアからです』


『何だと?』


 コックピットの中に聞き覚えのない男の声と女の声が聞こえてくる。どうやらこの単眼の巨人はハジメの呟きを聞いて母艦との通信を繋いでくれたようだ。


「リンドブルムもそうだけど、この機体も何でもアリだよな……。もしもし? そこの戦艦のブリッジ、聞こえてますか?」


『……ああ、聞こえている。私はこの艦の艦長を任されているコロネル・ルー大佐だ。まずは貴官の援軍に感謝する』


 ハジメが母艦を見ながら話すとその声は向こうに届いたらしく、女性の固い口調の声が返ってきた。


「いえ、気にしないでください。それよりも少し前に貴方達の艦から脱出してきた軍人さんと士官学校の生徒達を保護したのですけど、そちらに送り届けてもいいですか?」


『何? ああ、分かった。貴官の着艦を許可する。艦のクルーと生徒達を保護してもらい重ねて感謝する』


「大したことはしていませんよ。それじゃあ」


 ハジメはそう言うと母艦との通信を閉ざし、後方で待機させていたリンドブルムを呼び出して、今度はリンドブルムのブリッジとの通信を繋ぐ。


「みんな、聞こえる? 戦闘が終わったので今から貴女達を母艦に送り返す。だから最初に乗っていた救助挺に乗って待っていて」


『はーい、分かりました。ハジメさん、私達の艦を守ってくれてありがとうございました。……カッコ良かったですよ♪』


 ブリッジに通信を送るとファムの明るい口調の声が返ってきて、それに続いて生徒達の感謝の声が聞こえてくる。


『私からもお礼を言わせてください。ハジメさん、本当にありがとうございます。……ほら、ソルダも』


『お、押すなラパン少尉。……ニノマエハジメ殿、私達だけでなく母艦も救助していただき心から感謝します。それと貴官の機体を侮辱したこと、本当に申し訳ありませんでした」


 フィーユの声の後にソルダの謝罪の声がサイクロプスのコックピットに響く。画像はなくて姿は見えないが、その声からソルダが敬礼をしながら話しているのがハジメには分かった。


「あっ、いえ、もういいですよ。あれは僕の方も大人気なかったですし。……それより早く全員救助挺に乗ってください」


『はっ!』


『分かりました』


『はーい。了解です』


 ソルダとフィーユ、ファムの言葉を聞いたハジメは通信を終えると、リンドブルムに母艦の近くに行くようにと指示を送った。


 その後、サイクロプスが万が一のための護衛としてファム達が乗った救助挺と共に母艦の格納庫の中に入ると、格納庫の中には二十人以上の艦のクルー達と二体のアンダーギアがサイクロプスと救助挺を待ち構えていた。


「うわっ。やっぱり警戒されているな」


 格納庫にいるアンダーギアを見てハジメは思わずぼやくと、救助挺からファム達が全員出たのを見届けてからサイクロプスのコックピットから出て、艦のクルー達の前に降り立った。


「貴官があのアンダーギアのパイロットか?」


 ハジメに最初に話しかけたのは二十代後半くらいの女性だった。女性は全身から厳格な気配を発しており、身に纏っている軍服がよく似合うまさしく「軍人」といった雰囲気であったが……その分頭に生えている狼の耳に違和感が感じられる。


「はい、そうです。僕の名前は一一。一応、サイクロプス……あの機体のパイロットです。あれ? その声って……」


 狼の耳に気をとられないように話していたハジメは、目の前の女性の声が先程サイクロプスのコックピットで話していた人と同じ声であることに気づく。


「そうだ。私がこの艦の艦長、コロネル・ルー大佐だ。……我が艦と艦のクルーの命を守ってくれたこと、艦を代表して改めて感謝する」


 ザッ!


 コロネル・ルーと名乗った軍人がハジメに向かって敬礼をすると、彼女の後ろに控えていた他の軍人達も一斉に敬礼をし、その光景にハジメは思わず後ずさった。


「いや、だから気にしないでください。お礼をしてほしくて助けたわけじゃないんですから」


「そうか……。それではこの話はこれで終わりとして本題に入ろう。……ニノマエハジメ。貴官は一体何者だ?」


 敬礼をといたコロネル大佐は目を刃のように鋭くしてハジメに問いかける。


「え? 何者って?」


「貴官の戦いは見させてもらった。あの時、戦場に確認された計五十六体のゴーレムを一分足らずで全滅させた高出力ビームライフルによる精密な連続射撃……あのような芸当ができる機体とパイロットなど私は知らない。例え貴官が軍に所属していない傭兵だとしても、あれだけのことができるのなら少なからず噂を聞くはずだ。

 ……もう一度聞くぞ。ニノマエハジメ、貴官は何者だ? そしてあの機体と戦艦は何処で手に入れた?」


「ええっと、その……わ、分からないんです」


「分からない……だと?」


 狼の耳を生やした艦長の冷たい視線に気圧されながらハジメが答えると、コロネル大佐の目がさらに鋭くなる。


「いや、本当に分からないんですよ。僕、気がついたらリンドブルム……外にある戦艦のブリッジで倒れていて、格納庫で見つけたサイクロプスに乗って外を出たらルナール少尉達が乗っていた救助挺を見つけて……。自分でも何でリンドブルムに乗ってあの宙域にいたのかさっぱりで……」


 嘘は言ってはいない。ハジメは自分が一度死んでこのゲームの世界に転生したことは理解しているが、何故転生できたのか、何故転生先が自分がゲームで作り出した戦艦の中なのか、こちらが教えてほしいくらいだった。


「気がついたら戦艦のブリッジで倒れていた? ……記憶障害だとでも言うのか?」


「さ、さあ、どうなんでしょう?」


「………」


「………」


 嘘は見逃さないという目で見つめるコロネル大佐と冷や汗を流しながら見つめ返す一。しばらくの間見つめあう二人だったが、先にコロネル大佐の方が諦めたのかため息をついて目を閉じる。


「いいだろう。まだ全てを信用したわけではないが、ここはそういうことにしておこう」


「は、はい……」


「ただし、貴官にはしばらくの間、私達と行動を共にしてもらう」


 当然のように言うコロネル大佐のハジメは目を見開いて驚く。


「ええっ!? 何故ですか?」


「決まっている。貴官のような強大な力を持った正体不明の人間をこのまま野放しにはできんからだ。……だが安心しろ。貴官は我が艦の恩人だからな、悪いようにはしない。大人しくついてきてくれるのなら、傭兵扱いとしてゴーレムと戦った報酬を出すように上層部に申請しても……」


「あ、それだったら一つお願いがあるんですけど」


 コロネル大佐の言葉を遮ってハジメは右手を小さく挙げて発言する。


「……何だ?」


「この艦と一緒に行動してもいいんですけど……その間食糧を分けてもらえませんか? 実は今まで何も食べていなくて……」


『………』


 左手を腹に当てて恥ずかしそうに言うハジメを、格納庫にいた全員が何とも言えない微妙な表情で見た後、コロネル大佐がため息混じりに口を開いた。


「……誰か、彼を食堂に連れて行ってやれ」




「急にワガママを言ってすみません」


「いえいえ、ハジメさんは私達の命の恩人ですからね。これくらいは何でもないですよ」


 食堂に案内されたハジメが謝ると、厨房で彼のために料理を作っているファムが手を休めずに明るい口調で答えてくれる。


 今この食堂はハジメとファムの二人しかおらず、ファムが料理を作る音だけが食堂を支配していた。


「それにしても何でルナール少尉が? コックの人とかはどうしたんですか?」


「コックの人達はあのゴーレムの襲撃の時に私達とは別の救助挺で脱出しているんですよ。だから私が代わりに。ああ、それと私のことはファムでいいですよ」


「え?」


 こちらを振り向きもせずに言うファムの言葉にハジメは思わず動揺してしまう。


 ハジメは前世では男子校に通っていて、今まで女性と話をしたのは皆無だった。そんな彼が年上とはいえ年が近い女性のファムに名前で呼んでほしいと言われて動揺してしまうのは仕方がないことだろう。


「どうしました?」


「い、いえ、何でもないです………………ファムさん」


「はい♪ もうできますから待っていてくださいね」


「分かりました。……ん?」


 ファムに返事をした一はその直後にある疑問に気がついた。


(アレ? そういえばこの世界の料理って一体どんなものなんだ? ……食べれるのか?)


 ゲームのマスターギアではストーリーモードでたまに登場人物が地球のと似ている料理を食べているシーンがあったが、この世界でも地球のと似ている料理が出てくるとは限らない。もし出てきたとしても、その味が元地球人のハジメが食べられるものだという保障はどこにもないのだ。


「できましたよ。はい、どうぞ」


 コトッ。


「は、はい。………………これは」


 ハジメがファムがテーブルに置いた皿を恐る恐る見てみると、皿の上にあったのはスパゲティによく似たパスタ料理だった。


(見た目は普通のスパゲティだよね? それじゃあ味の方は……?)


 外形はマトモ、匂いも普通、残る問題は味だけ。


 フォークを手に取ったハジメはとりあえずスパゲティを一口、慎重に口に運ぶとゆっくりと祈るような気持ちで咀嚼する。すると素材の味を十分に活かした家庭的な味が口の中に広がる。


「……美味しい」


「ふふん。そうでしょう? 料理はいい男をゲットするための手段……じゃなくて花嫁修行の代表格ですからね。習得には力を入れているんですよ、女として」


「そうなんですか、凄いですね」


 胸を張ったファムが何か変なことを言った気がしたが、幸か不幸か空腹だった一は料理を食べるのに夢中で彼女の言葉をまったく聞いていなかった。




 そしてハジメが食堂でファムの料理を食べていた頃、格納庫ではコロネル大佐を初めとした数人のクルーがサイクロプスの周りに集まっていた。


「それでは解析結果を教えてくれ」


「は、はい……」


 コロネル大佐が艦のアンダーギアの整備をしている整備班の班長に言うと、整備班の班長は緊張した表情でサイクロプスの解析結果を口にする。


「こ、この機体……あの少年、ニノマエハジメがサイクロプスと呼ぶ機体ですが、調べてみたところ機体のフレームから装甲、果てには武装まで全て材質に『ミスリル』を使用していることが分かりました。……ミスリル製パーツの使用率は全体の八割を超えています」


 整備班の班長の報告にその場にいた全員が絶句し、コロネル大佐が表情を固くしながら口を開く。


「それではつまり……この機体は……」


「……はい。このサイクロプスと呼ばれる機体はアンダーギアではなくマスターギアです。それと外のリンドブルムと呼ばれる戦艦も……装甲の全てがミスリル製らしく『サーヴァントシップ』である可能性が高いと思われます」


 サーヴァントシップ。


 それはマスターギアと呼ばれるロボットを中枢ユニットとし、マスターギアのパイロットの意のままに動く戦艦の名称だ。


 パイロットという主に絶対服従な戦艦の従者。故に「サーヴァント」シップ。


 だが「サーヴァントシップ」と呼ばれる艦はコロネル大佐の知る限り、ただ一隻しか存在しない。


「…………………………そうか。それでそちらはあの時と識別コードを特定できたのか?」


 コロネル大佐は大きく息を吸って気持ちを落ち着かせると、ゴーレムとの戦闘時にブリッジにいたオペレーターに話しかける。


「は……はっ! 例の識別コードは二百年前のベット・オレイユ軍のもので、識別コードに登録されていた機体は『サイクロプス』。そしてと、搭乗者は……『イレブン・ブレット』とありました!」


 オペレーターは顔を蒼くしながら報告すると、それを聞いたコロネル大佐はとても信じられないとい表情で首を小さく振った。


「イレブン・ブレット……少将……だと? ありえない……」


 今コロネル大佐が呟いた言葉は報告を聞いた者全ての正直な気持ちだった。


「……だが、マスターギアとサーヴァントシップを操ることができるのは……」


 そこまで言ったところでコロネル大佐は、ほとんど無意識に懐から懐中時計を取り出して呟く。


「あの少年が……かつて“ワンマンアーミー”(ただ一人の軍勢)と呼ばれた二百年前の英雄、イレブン・ブレットだと言うのか……?」

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