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004

(え? な、何コレ? 何で皆、獣の耳と尻尾をつけているの? こ、コスプレってヤツ?)


 予想もしなかった光景にハジメは混乱して固まってしまう。そんな彼の前に三人の女性が進み出て話しかける。


「あの、もしかして貴方がこの艦のクルーさんですか?」


 最初に話しかけてきたのは、地球ではまず見られないピンク色の髪とエメラルドグリーンの瞳が特徴的な女性だった。そしてよく見ると頭にはキツネの耳が、腰の下辺りにはキツネの尻尾が生えていた。


「え、あ、はい。そうです」


「あら、そうなんですか? 中々のイケメンさんじゃないですか? フィーユちゃんとソルダもそう思いますよね?」


「うん。そうだね」


 ハジメがキツネの耳の女性に答えると、キツネの耳を生やした女性は興味深そうに彼を見て、頭にウサギの耳を生やした女性と虎の耳を生やした女性に話しかける。


「二人とも何を言っている。……失礼をした。私は惑星国家ベット・オレイユ宇宙軍所属、ティーグル・ソルダ少尉だ」


 虎の耳の女性、ソルダが敬礼をして自己紹介をするとキツネの耳の女性とウサギの耳の女性も同じく敬礼をして自己紹介をする。


「同じく宇宙軍所属のルナール・ファム少尉です」


「ラパン・フィーユ少尉です。よろしくお願いしますね」


「僕は一一です。……というかベット・オレイユって言いました?」


 ベット・オレイユ。


 ハジメはその名前をよく知っていた。


(それってゲームのマスターギアのストーリーモードで僕が所属国家に選んだ国じゃないか)


 マスターギアのストーリーモードでは、スタート時に五つの惑星国家から自分が所属する国家を選ぶことができて、その中の一つがベット・オレイユである。


 ベット・オレイユは人口の八割が「シメール」と呼ばれる獣人で、ハジメは前世の世界の友人である弾の強いすすめでこのベット・オレイユを選んだのだった。


「ニノマエハジメさんですか、少し変わったお名前ですね? それで先程のアンダーギアで私達を助けてくれたのって貴方なんですか?」


「アンダーギア? 確かに助けたのは僕だけど、サイクロプスはアンダーギアじゃなくてマスターギアですよ?」


「………………はい?」


 ファムの質問にハジメが答えると、彼女は目を見開いて固まった。いや、彼女だけではない。ソルダは明らかに不機嫌そうな顔に、フィーユは困ったような顔になり、他のケモノ耳男女も笑いながらハジメを見ていた。


(ん? 一体どうしたんだ?)


「サイクロプス……それにマスターギア、だと? ……まあ、いい。それでハジメさん、と言ったな? この艦の艦長と話をしたいのだが、会わせてもらえないだろうか?」


「この艦の艦長? この艦、リンドブルムを操っているのは僕ですけど?」


「貴官がこの艦の艦長でもあるだと? そしてリンドブルム? ……ふざけるのもいい加減しろ!」


 不機嫌そうな顔をしたソルダはハジメに話しかけるが、彼の返答についに我慢できなくなって怒鳴った。


「……え? な、何を怒っているんですか?」


 困惑するハジメにソルダは掴みかからんばかりの勢いで更に怒鳴る。


「これが怒らずにいられるか! マスターギアだと!? サイクロプスとリンドブルム両方の操縦士だと!? そんなことが出来るのは我が国の英雄『イレブン・ブレット少将』だけだ!」


「い、イレブン・ブレット!?」


 ソルダが叫んだ一人の男の名前。それを聞いたハジメは思わず目を見開いて驚く。


(イレブン・ブレットって……、それって……ゲームでの僕のプレイヤーネームじゃないか?)


 今聞こえたのは間違いなくゲームのマスターギアでハジメが設定したこの体の名前だった。思わぬタイミングで聞かされた自分のもう一つの名前に驚くハジメだったが、次にソルダが言うセリフに彼は更に驚くこととなる。


「イレブン・ブレット少将が生きておられたのは今から二百年も前のことだ! 我が国が誇る英雄の機体の名前を軽々しく騙るなど、我が国に対する最大の侮辱だ!」


(二百年前!? ちょっと待って、この世界ってストーリーモードの二百年後の世界ってこと?)


「ま、まーまー、ソルダも落ち着いて。ハジメさんは男の子なんですから、自分の機体と戦艦の名前を英雄のものと同じにしても仕方がないですって」


「そうですよ。……それでハジメさん。この艦が本物のリンドブルムかどうかはとにかく、貴方が操縦しているのは本当なんですよね?」


 火を吹かんばかりに怒り狂うソルダをファムが抑え、フィーユがマイペースにハジメに質問する。


「はい。そうですけど?」


「それでしたら貴方にお願いがあります。どうか私達を助けてもらえませんか?」


 フィーユはそう言うとハジメに自分達が何故ここに来たのかを説明した。


 まず自分達は士官学校の演習のサポートとしてこの近くの宙域に来ていたこと。


 今から数時間前、演習の最終日に五十体を越えるゴーレムに襲われ、自分達は学生達を連れて救助挺で脱出したこと。


 多くの仲間達が母艦に残って今もゴーレムと戦っていることを説明してフィーユはハジメに頭を下げた。


「助けてもらった上で厚かましいと思いますけど、お願いします。今も母艦を襲っているゴーレムは私達を負っていたゴーレムと同じです。貴方のあのサイクロプスの力だったらきっと……」


「何を言っているフィーユ! 五十体以上のブロンズクラスのゴーレムだぞ! あの『偽物』のサイクロプスがいくら強くても勝てるはずが……」


「………………いいですよ」


 フィーユの言葉を遮って叫ぶソルダだったが、彼女の言葉もまたハジメによって遮られた。


「ゴーレムに襲われている貴女達の母艦を助けたらいいんですよね? 構いませんよ」


「お前! 自分が何を言っているのか分かって……」


「だったら見捨てた方がいいですか?」


「………!」


 叫ぶソルダを無表情となったハジメの一言が黙らせた。


 ハジメは元々おとなしい性格で滅多に怒ることはないのだが、今の彼はこれ以上ないほどに腹をたてていた。せっかく命を助けた相手にいきなり怒鳴られて、自分の愛機を偽物扱いされて、自分ではブロンズクラスのゴーレムに勝てないと決めつけられて、……いくら何でも限界だった。


 ハジメはゲームとはいえマスターギアのトッププレイヤーで、彼から見たらブロンズクラスのゴーレムなんて雑魚でしかなかった。数が多いとはいえ自分ではブロンズクラスのゴーレムに勝てないと言われるのは、彼のトッププレイヤーとしてのプライドが許さない。


「……いいですよ。ブロンズクラス『ごとき』に手こずる貴女達に、僕と、サイクロプスの実力を見せてあげますよ」

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