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003

「もう駄目かもしれませんね。……てゆーかぶっちゃけ年貢の納め時の秒読みですよね? コレ?」


 ゴーレムに追われている宇宙船、正確には救助挺の中でルナール・ファム少尉は、モニター越しから五体のゴーレムを見ながら他人事のように呟いた。


「ルナール少尉! この非常時に涼しい顔で何を縁起でもないことを!」


「だって事実じゃないですか? それに私、好きで涼しい顔をしているんじゃないですよ? 逆に恐ろしすぎるから恐怖が一周して平常らしく見えるだけですから。その証拠に……ホラ?」


 ファムの呟きを聞いて隣にいた女性が怒鳴るが、彼女は何でもないように答えた後で恐怖で震える手を見せた。


「それにしても退屈だと思っていた士官学校の演習がこんなことになるなんて人生って分からないですよね?」


 ファムは惑星国家「ベット・オレイユ」の宇宙軍の軍人で、数日前から士官学校の演習に軍医として参加していた。士官候補生である学生達が戦闘用ロボット「アンダーギア」の操縦訓練をするのを後方からサポートする簡単な任務だと思っていたのだが、まさか演習の最終日に五十体を越えるゴーレムに襲われるとは思っても見なかった。


 演習に参加していた軍隊のほとんどは母艦に留まってゴーレムの迎撃にあたり、一部の士官は学生達を連れて数隻の救助挺で脱出。しかしファムが乗るこの救助挺は、運悪く五体のゴーレムに見つかって今も攻撃を受けていた。


「物語だったらここで正義のヒーローさんが現れて敵をぱぱっとやっつけるシーンだけど、現実はそううまくいかないよね」


『キャアアッ!?』


 モニターで外の様子を見ていた学生達と数人の士官が一斉に悲鳴をあげる。


 モニターにはいつの間にか追いついた一体のゴーレムがこちらに向かって剣を降り下ろそうとしている姿が映っていて、それを見たファムは精一杯の強がりなのかひきつった笑みを浮かべながら軽口を叩く。


「私の人生、これでおしまいかぁ……。死ぬ前にせめて素敵な彼氏が欲しかった…………えっ!?」


 バシュン!


 ファムが死を覚悟したその時、剣を降り下ろそうとしたゴーレムが閃光に飲み込まれ、次の瞬間にはゴーレムは影も形も残さずに消滅していた。


「え? え? 一体何が……?」


 バシュン! バシュン!


 ファムが突然の出来事に戸惑っている間に、更に二本の光の矢が何処からか飛んできて二体のゴーレムを消滅させる。


 残り二体となったゴーレム達は救助挺から離れ、光の矢が飛んできたと思われる方に向かおうとするが……、


 バシュン! バシュン!


 救助挺を離れてすぐに二体のゴーレムは光の矢に飲み込まれて消滅。これで救助挺を襲っていたゴーレムは全滅した。


「………………………………………………はい?」


 わずか五秒程で自分達を殺そうとしていた五体のゴーレムが呆気なく全滅した光景に、ファムは思わず信じられないといった表情で間の抜けた声をもらす。救助挺にいた全員がファムと同じ表情をしていた。


「…………………………もしかして、私達助かったの?」


 救助挺にいる学生の誰かが呟く。助かったという事実をようやく気づいた学生達が歓声をあげ、それと同時に士官の一人が遥か遠方にビームライフルを構えたロボットの姿を確認した。


「……本当に正義のヒーローさんが現れてくれたのですか?」


 モニターに映し出されたロボットの姿を見ながらファムは一人呟くが、その声は学生達の歓声に打ち消され、誰の耳にも届かなかった。




 ファムがモニターを見つめながら呆然と呟いていたその頃。五体のゴーレムを撃破したハジメは、その光景を見てたっぷり三秒くらい呆けた顔をしてから首を傾げた。


「………………アレ? なんか……今のビーム、威力が強すぎなかった? チャージショットじゃなくてノーマルショットを撃ったはずだよね、僕?」


 一定時間エネルギーを溜めてから放つチャージショットではない、ただのノーマルショットにしては今の攻撃は威力が強すぎるようにハジメは感じられた。少なくともゲームのマスターギアではあれほどの威力はなかったはずだ。


「やっぱりゲームとは違うってことかな? ……まあ、いいか。それよりも宇宙船の方は?」


 ゲームとの差異を調べるのは後にすることに決めたハジメはゴーレムに追われていた宇宙船を見る。宇宙船は今の射撃でサイクロプスの存在に気づいたらしく、こちらに向かって飛んできていた。


「よかった。どうやら無事みたいだ。リンドブルム、ついてきて」


 助けた宇宙船と接触することを決めたハジメは、自分もまたリンドブルムを引き連れて宇宙船に向かって飛んでいく。そして画面を拡大しなくても宇宙船の姿が見えるくらい近づくと、宇宙船が船体のライトを点滅させてきた。


「あの宇宙船、一体何をしているんだ? ……え?」


 ハジメが首を傾げているとモニターに文章が浮かび上がる。


「光信号? ええっと、内容は……『貴官ノ援護二感謝スル。貴官ラノ艦二着艦スル許可ヲモライタイ』だって? ……う~ん」


 モニターに浮かび上がった文章にハジメは腕を組んで考える。正直、正体の分からない宇宙船をリンドブルムに入れるのは気が引けるが、それでも宇宙船の乗組員からここが何処なのかを聞けるかも知れない。


「……考えないようにしていたけど僕って漂流しているようなものなんだよね。それにリンドブルムに食糧があるかどうかも分からないし……受け入れるしかないか」


 宇宙船を受け入れることを決めたが発光信号を知らないハジメは、とりあえずリンドブルムの右舷にある第二格納庫を開放すると、そこを右手に持つヘラクレスで差し、左手で「あそこに入れ」とジェスチャーを送る。するとハジメのジェスチャーが通じたのか、宇宙船は第二格納庫に入っていき、それを見届けたハジメもサイクロプスを第一格納庫にと格納した。


「宇宙船の中には三十人近い船員が乗っているのか。リンドブルム、とりあえず船員達を近くの部屋に誘導して。あと、その部屋へのナビもお願……いっ!?」


 ひゅうう……。


 サイクロプスから降りてリンドブルムの艦内に戻ったハジメが、空中に浮かぶモニターに指示を送って宇宙船の船員達が集まっている部屋へと向かおうとすると、不思議なことに何処からか緩やかな風が吹いてきて無重力に浮かんだ彼の体を目的の部屋へとかなりのスピードで運んでいく。


「なんかもう、本当に何でもアリだなこの艦。……って、もうついたか」


 一分もしないうちに船員達が集まっている部屋にたどり着くと、風が止んでハジメの体が部屋のドアの前で開放される。


「ここにあの宇宙船に乗っていた人達がいるのか……」


 この世界に転生して初めての人類との出会いである。ハジメは失礼がないようにと一回深呼吸をしてからドアを開けて……、


「………………ハイ?」


 部屋の中にいた、動物の耳と尻尾を生やした三十人近い若い男女を見て間の抜けた表情となった。

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