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002

「凄い……。実物のサイクロプスを見れるだなんて夢のようだ」


 サイクロプスを見上げるハジメの声が興奮で震える。


 ハジメにとってこのサイクロプスは特別な機体だった。期間限定のイベントに何度も挑戦して作製に必要なレアパーツを苦労して集め、造り出した後は何度もゲームをプレイしてサイクロプスでの戦い方を研究して、これまでに多くの戦いを共に勝ち抜いてきた。そんな大切な相棒が現実のものとなって目の前に現れたのを見て興奮するなというのが無理な話である。


 そしてマスターギアのプレイヤーにはロボットに強い憧れを持つ者が多く、ハジメもまたロボットに強い憧れを持っていた。だから彼がサイクロプスに乗ってみたいと思うのもある意味当然の流れと言えた。


「サイクロプス……乗ってもいいかな? 僕の機体だから乗ってもいいよね? でもどうやってコックピットに登ったら……え?」


 ウィィン。


 ハジメが辺りを見回しているとサイクロプスが片膝をついてその巨大な左手を一に近づけてきた。


「この手に乗れっていうの?」


 恐る恐るハジメが左手に乗ると、サイクロプスはゆっくりと立ち上がってハジメが乗っている左手をコックピットがある自分の胸部に持っていき、胸部の装甲を展開してコックピットを解放する。


「これがサイクロプスのコックピット……?」


 コックピットの中はパイロットシートがあるだけの小さな空間で、漫画やアニメのロボットのコックピットに見られるレバーや計器類は影も形も見られなかった。ハジメはやや拍子抜けした表情でとりあえずパイロットシートに座ってみる。すると……。


 ガシャン! ブゥン……。


「えっ!?」


 ハジメがパイロットシートに座った途端、コックピットのハッチが閉まり、前後左右の壁に天井と床が格納庫の風景を映し出した。ハジメがまるでパイロットシートごと宙に浮いている感覚に戸惑いながら辺りを見回していると、彼はサイクロプスが自分の動きを真似てわずかに機体を動かしているのに気づく。


「サイクロプス? もしかして僕が考えている通りに動くの?」


 それからハジメはサイクロプスのコックピットの中で色々と実験をしてみた。


 コックピットを開けろと口で言ったら言われた通りにコックピットを解放する。機体を動かしてみようと考えたら、イメージした通りに機体が動く。そこまでやってハジメは、どうやらこのサイクロプスが文字通り「自分の体のように動く」のだと理解した。


「サイクロプスが僕の思い通りに動くのだったら、このリンドブルムも?」


 そこまで言うとハジメはサイクロプスの視線を通じて天井にある第一格納庫のハッチを見る。


「……リンドブルム。第一格納庫のハッチを開けて」


 ガコン……。ウィィン……。


 サイクロプスのコックピットの中でハジメが呟くようにリンドブルムに呼びかけると、鈍い音をたてて天井にある格納庫のハッチが開き、次に床がせりあがっていく。


「凄い……。これがサイクロプスから見た宇宙……あっ」


 ブゥン。


 解放されたハッチから宇宙に出たハジメが周りを見ていると、サイクロプスの前にいくつもの光の輪、機体を加速させて発進させるカタパルト・リングが一列に並んで現れる。カタパルト・リングを前にしたハジメは、その胸に興奮と不安を渦巻かせながら静かに、だがはっきりと自分の願いを口にした。


「……サイクロプス。発進するよ」


『………!』


 パイロットからの命令を受けてサイクロプスのカメラアイに光が宿り、背中と両足にあるバーニアが火を噴き、鋼鉄の巨人は宇宙へと飛び出した。


 ゴオオッ!


「うっ! ぐぅ……!」


 発進したサイクロプスがカタパルト・リングの加速を受けて緑の弾丸となって宇宙空間を飛ぶ。そのコックピットでハジメは加速による重圧に必死になって耐えていた。


「これが加速による重圧……! ゲームでは絶対に感じられない感覚……!」


 体を押し潰すような重圧にハジメは辛そうに、しかしどこか楽しそうに呟く。重圧は確かに辛いがそれでも耐えられないほどじゃない。


「もしかしたらこの転生した体、以前の体とは比べ物にならないくらい頑丈なのかもしれないな……」


 その証拠にハジメの体は徐々に重圧に慣れてきて、飛びながら周りを見る余裕も出てきた。そして余裕が出てくるとハジメは自分がマスターギアに乗っているという実感を感じるようになった。


 強大な力を持った巨人の体を意のままに操り、無限に広がる宇宙を加速しながら飛んでいる。まるで全能の存在になったかのような充実感がハジメの興奮とサイクロプスの速度を加速させる。


 興奮したハジメはそれからしばらくの間、サイクロプスで宇宙空間を縦横無尽に飛び回った。機体を加速させたり進路を変える度に重圧が容赦なく体に襲いかかってくるが、ハジメはそれを気にすることなく飛び続け、時間にして三十分くらいが経ってようやく飛び疲れた彼はリンドブルムに戻ることにした。


「ふぅ、そろそろ戻るか。いい加減リンドブルムの中も調べないといけないし……」


 ビー! ビー!


 リンドブルムに戻ろうとした時、突然コックピット内部に警報が鳴り響き、モニター化した右の壁に六つの光点と文章が映し出された。


「なんだコレ? 見たこともない文字だけど……あれ? 僕、分かる!?」


 モニターに映し出された文章は日本語でも英語でもない今まで見たこともない文字で書かれていたが、何故かハジメは文章を読むことができた。しかし今の彼はその事実よりも、文章の内容の方に驚いていた。


「……正体不明機一機と『敵』五体がこちらに向かって接近中だって!?」


 正体不明機というのは一体何なのか分からないが、「敵」という単語には一つだけ思い当たるものがあった。


「……敵って、もしかして『ゴーレム』のこと?」


 ゴーレム。


 それはゲームのマスターギアに登場する敵モンスターの総称だ。


 ゲームでは「突如現れて人類に対して無差別に襲いかかってくる宇宙生物」という設定で、鉱物や金属で作られた彫像のような外見をしていることからゴーレムと呼ばれている。


「そうだ……ここがマスターギアの世界でサイクロプスとリンドブルムがあるんだったら、敵であるゴーレムだっているはずだよな……」


 ハジメは今気づいたように呟くと、サイクロプスの機体を正体不明機とゴーレムが近づいてくる方に向けて前方の景色を拡大してみせる。


 正体不明機は一隻の小型の宇宙船で、いたるところに攻撃を受けた痕が見られた。そして五体の敵はメタリックブルーに輝く古代ヨーロッパの兵士のような外見をしていて、手に持っている武器を振り回しながら小型の宇宙船を追っていた。


「メタリックブルーの体のゴーレム。『ブロンズ』クラスか。だったら大したことはないか……?」


 ゴーレムはその体を作る材質によって力量が異なる。


 そして今モニターに映っている五体のゴーレム、体の材質が青銅でできているブロンズクラスのゴーレムの力量は全体から見て下の方だ。ゲームのマスターギアでは初心者の頃からそれこそ何百体のブロンズクラスのゴーレムを倒してきた。


「ゲームと同じとは限らないけど……でもあの宇宙船を見捨てるわけにはいかないよね。……サイクロプス!」


『………!』


 ハジメはモニターに映る宇宙船を見た後サイクロプスに命じ、主の命令に応えて鋼鉄の巨人が右手に持つ巨大なクロスボウの外見をした銃を構える。


「悪いけどこの距離はサイクロプスの独壇場だ」


 マスターギアは頭、胴体、右腕、左腕、下半身の五つのパーツで構成されていて、各パーツにはそれぞれ専用の武装か特殊機能が備わっている。


 今サイクロプスが持っているビームライフルは右腕専用の武装、長距離狙撃銃『ヘラクレス』。ギリシャ神話最高の英雄の名前を冠するその銃は、ゲームのマスターギアでトップクラスの射程距離と威力を誇るハジメの、サイクロプスの愛銃だった。


「何でこの機体がサイクロプス(単眼の巨人)という名前なのか教えてあげるよ。……サイクロプス、狙撃モード」


『………!』


 サイクロプスの頭部が百八十度回転して後頭部が前面となる。そしてそのまま後頭部が変形し、単眼の巨人の名前にふさわしい一つ目の超精密カメラアイを持ったサイクロプスのもう一つの顔となった。


 超精密カメラアイは即座に遥か遠方にいる五体のゴーレムを捉え、コックピットにいつでも攻撃できるという情報を現れる。


「ロックオンした。……攻撃する!」


 バシュン!


 ハジメが攻撃を念じたのと同時にビームの閃光が彼の目を焼いた。

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