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001

《パイロット「■レブ■・■■ッ■」の生体反応を確認》


《マスターギア、パイロットからのサイコウェーブの受信に成功。同時にマスターギア、待機モードの状態でサイコウェーブのエネルギー転換作業を開始》


《サーヴァントシップ、マスターギアからのエネルギーの供給を確認。スリープモードから巡航モードへ移行》






「……ん? 何だ?」


 どこからか聞こえてくる声に目を覚ましたハジメが最初に見たのは白い光を放つ照明だった。


「僕は……生きているのか?」


 車に轢かれた激痛は嘘のように消えていて、指一本動かせなかった体は今は自由に動かせるようになっている。


「ここは病院……じゃないよな?」


 誰かが自分を病院に連れてきてくれたのかと思ったハジメは体をゆっくりと起こして回りを見回すが、そこで彼は自分がベッドではなく冷たい床の上で横になっていたことに気づく。そこは何も置かれていない殺風景な部屋で、ただ夜空を映す窓があるだけだった。


 どう見ても病院の病室とは思えないが、ハジメはこの部屋にどこか見覚えがある気がした。


「この部屋は一体……え?」


 ハジメはあることに気づいて窓に近づいていき、夜空を透かしながら窓に写って見える人の姿を確認する。


「だ、誰だ? この人……?」


 窓に写っているのは自分の姿のはずなのに、そこにあったのは全く別人の姿だった。


 外見年齢は十代後半くらい。銀色の髪に青の瞳。体にぴったりとフィットしているダークグリーンのライダースーツのような服を着こなす若い男。


 まるでどこかのSFに登場していそうな青年が、驚いた表情で窓の中からハジメを見ていた。


「……」


『……』


 ハジメが右手をあげると窓に写る青年が左手をあげる。


「……」


『……』


 次にハジメが左手をあげると窓に写る青年が右手をあげる。


「もしかしなくても……これが僕なのか?」


 ハジメは信じられないように首を小さくふりながら呟く。


 自分の身に何が起こったのか全く分からない。


 車に轢き逃げされて死んだかと思ったら生きていて、でも目が覚めた場所は何処だか分からない場所で、しかも自分の姿が別人に変わっている。


 ハジメは一瞬、自分が死の間際に夢を見ているのかとおもったが、指先で窓に触れてみると固い感触が指先から伝わってきて、これが夢ではなくて現実だと理解した。


 まだ納得はできていないが、今自分に起きていることが現実であると少しずつ認めようとしたハジメだったが、そこで彼は更なる異常に気づく。


「……………………嘘だろ?」


 呆然と呟くハジメの視線の先、窓の向こうに広がっている夜空。そこには闇と星の光以外何もなかった。


 雲も、海も、大地、人の街も、なかった。


 時折、視界の端で宙に浮かぶ岩がどこかに飛んでいくのが映り、それを見てハジメはある結論を出す。


「……………………………………………………僕、宇宙にいるの?」


 信じられないといった表情で見ても、それで外の景色が変わるはずもない。しばらくの間呆然と星空を見つめていたハジメは、やがて恐ろしいものを見たような表情で後退り窓から距離をとると、気持ちを落ち着かせるために大きく息を吸って吐いた。


「お、落ち着くんだ、僕。落ち着くんだ、ハジメ。落ち着いて今自分に出来ることを考えるんだ……」


 ハジメは自分に言い聞かせるように呟いた後、もう一度周囲を見回す。


「とりあえずこの部屋から出てみようかな。外に出たら人に出会えるかもしれないし。とにかく、ここが何処なのか調べないと……うわっ!?」


 ポン☆


 自分が何処にいるのか調べようと決めたハジメの目の前に突然一枚の光の板みたいなものが現れ、それに驚いた一は思わず悲鳴をあげて尻餅をついてしまう。


「いたた……。な、なんだよコレ? ……何かの画面みたいだけど宙に浮いている? 糸で吊っている訳じゃないよね?」


 ハジメは突然現れたモニターと思われる光の板を注意しながら見ると、モニターには機械で作られたドラゴンの画面が映っていた。機械で作られたドラゴンは翼を広げているようなデザインで、よく見るとドラゴンの胴体に何やら点滅している一点の赤い光があった。


「この赤い光……もしかして僕が今いる現在地ってことか? いや、それよりもコレって……」


 ハジメはある意味、先程窓から宇宙を見たときよりも驚いた顔でモニターに映っている機械のドラゴンを凝視する。


「このドラゴン……間違いない。これは僕が『マスターギア』で造った宇宙戦艦、『リンドブルム』だ……」


 何度もモニターを見て確認して、ついにハジメは震える声で呟いた。


 マスターギア。


 それは今から二年前に発売されたゲームの名前だった。


 プレイヤーは宇宙戦艦の中枢ユニットである巨大ロボット「マスターギア」のパイロットとなって自分だけの機体と戦艦を造って戦うという内容で、造れる機体と戦艦の多さに優秀なゲームバランス、ユーザーからの評価が高いストーリーモードのシナリオ、そしてインターネット対戦を初めとしたサービスの充実から発売されて二年経った今でも根強い人気を誇るゲームである。


 ハジメはこのマスターギアの熱烈なファンであり、インターネット対戦のランキングでは十位以内に名前を残しているトッププレイヤーだ。


 そしてマスターギアを開発した会社が開く期間限定の対戦イベントで優秀な成績を残したプレイヤーに与えられるレアパーツで造られたのが、モニターに映っているドラゴンの姿をした戦艦「リンドブルム」だった。


「……も、もしここがリンドブルムの中だとしたら、僕はマスターギアの世界に転生したのか?」


 ハジメも携帯やネットの小説で一度死んだ人間が異世界に転生して活躍するいわゆる「転生系」小説を読んだことはある。だがしかしそれが自分の身に起こるとは夢にも思わなかった。


「でも本当に転生系な展開だったら、今の状況も色々と説明がつくんだよな。……この部屋も、今の僕の姿も見覚えがあるはずだよ」


 最初にこの部屋を見て見覚えがあると思ったがそれは当然のことだ。何故ならこの部屋と今のハジメの姿は、彼が自分で設定した宇宙戦艦リンドブルムのブリッジとプレイヤーキャラクターの姿だったからだ。


「……………………待てよ!? この世界がマスターギアの世界で、ここがリンドブルムの中だったら、『アレ』もあるはずだよね?」


 考えている最中にあることに思い当たったハジメは辺りを見回して何かを探しだす。その顔は今までの困惑と不安で暗く沈んでいたものとは全く真逆の、期待と興奮で輝いていた。


 ハジメは先程まで見ていた窓の真正面の壁に「1」と数字が書かれた出入口を見つけると、ハジメはその出入口に向かって走り出す。


「多分あれが『第一格納庫』への入口!」


 カシュ。


 出入口の扉が軽い音をたてて開き、ハジメが扉をくぐって向こう側、第一格納庫に足を踏み入れると格納庫の中にあった「それ」は静かに主の来訪を歓迎した。


 ゲームのマスターギアではプレイヤーの乗機、戦艦のマスターユニットであるマスターギアは、第一格納庫と呼ばれるブリッジのすぐ近くにある専用の格納庫に格納されている設定だった。そしてリンドブルムの第一格納庫にはゲームの設定通り、リンドブルムのマスターユニットでありハジメの乗機であるマスターギアの姿があった。


「あった……。本当にあった」


 興奮で頬をわずかに赤くしながらハジメは、リンドブルム同様にゲームで造り出した自分だけのマスターギアを見上げる。


 ハジメの視線の先にあったのは深緑の装甲を全身に纏った全長二十メートルほどの鋼鉄の巨人。


 背中に翼を背負い、両手で自身の背丈ほどある巨大なライフルを抱えるように持ち、人間と同じ二つのカメラアイで虚空を見つめる巨人の名前をハジメはそっと呟いた。


「……『サイクロプス』」


 それがゲームの中でハジメと共に戦場を駆け、いくつもの死線を潜り抜けてきた巨大な戦友の名前だった。

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