第1話 天使のような****
【あらすじ:宮沢探偵の言葉より】
調査依頼者のエリックが語る。
『何も出てこなくても、経費プラス調査費を払う。もし、民事でもよい、保険金の回収ができれば、その五パーセントを貴社の功績として別途ボーナスとする』
それだけハードルの高い調査である。
調査内容から、どんな筋道になるのか
一緒に参加してほしい。
私はオブザーバー(傍聴者)の意見も尊重している。
受話器を取ると、内線のボタンを押した。
調査員の一人にファイルナンバーD021145データのプリントをお願いした。
私は、他のビジネスを含めて、電話を十数件かける。
ファイルナンバーD021145の主要データを印刷するだけでも、時間がかかる。調査を任すつもりで、大空調査員に印刷を頼む。重要なタスクを考えて、処理を指示。
印刷が終われば、調査員とミーティングだ。
私は、自分の電話と格闘する。
ビジネスにおいて、電話をかける時間がもっとも無駄が多いとは思う。
しかし、この無駄がもっとも重要だから困りモノだ。
電話の向こうに相槌、愛想、オベッカを並べる。
プリンターより早く追えないと……、ストレスと格闘だ。
だが、机の上におかれたノートには、電話の用事については数行書いたのみ。ファイルナンバーD021145の事件で余白を黒々つぶしていた。
-- レベルAダッシュ。まあ、保険会社として、当然 --
-- この手の事件が通るとなると、詐欺事件を誘発する。負の連鎖が始まる --
電話の向こう側で、ネクタイをなおすエリックの姿を思い浮かべながら、事件のあらましを思い出していた。
30分ほどで12件の電話を終えた。
窓の外には、もう新都心のネオンがまたたいて、月も大きく見下ろしている。
調査員の大空詩紋が入ってきた。
印刷を頼んだ調査員である。
ダークグリーンのスーツに、ピンクのチーフが鮮やかだ。
ヨーロッパの大学で、心理学と犯罪学を専攻。自分を鍛え直したいとして軍隊に志願、二年のトレーニングの後、NATOに所属していたことがあると経歴がある。二十五歳の女性で、メインのサイン・ふたご座を主星としている。会話は明朗にして鋭利、アップにした髪で仕事をこなす。そう書くと『男並の怖い』女性に見えるが、丸顔で、笑顔のやさしいお母さんのようなタイプである。主星に沿う、社交性の豊かさがある。
彼女が入ってくると、温かな空気が満ちてくる。
羽毛につつまれたような、こころもちになるのが不思議なのだ。
優華もそうだが、詩紋も独特な雰囲気がある女性だ。
独特な雰囲気を醸し出す女性が好きで社員にするという訳でもないが……。
「D021145の主なファイルを印刷いたしました」
大空が、ふくよかな微笑でファイルを持ってくる。
モナリザのような、微笑みとでもいうのであろうか?
タブレットを左脇にはさみ、両手でファイルケース2つを抱え、私の机の前に立つ。
私の前に、ひとつ。そしてもう一つを机の右奥に置いた。
ケースのひとつは概要と調査に重要な書類で、私の前にある。
関連書類は机の右奥だ。
ファイルを保管するために、印刷してファイルを整えておかなければならない。
これはルールだ。
データをモニターできれば調査の仕事に支障はない。しかし、データを見るのではなく触ることも必要だと思う。古いタイプといわれるが、手の感触を重視している。
表紙に「ナチュラル・ポイズンによる中毒死と、殺人教唆についての調査依頼」と書かれている。
さらに数人のスタッフが入ってきた。
調査では、客観的な視点も欠かせない。オブザーブの参加を私は奨励している。
私は、オブザーバの意見も尊重している。
大空調査官と、その左右に二人。私を加えて四人でファースト・ブリーフィングが始まった。
表紙を開ける。
「さて、この事件、簡単なあらましを、大空調査官話してみてほしい」
「はい」
大空調査官が笑顔で答えた。
事件担当となると緊張するベテランも多いが、彼女は変わらない。
丸顔にふくよかな笑顔、まるで修学旅行前日の少年少女のような面持だ。
タブレットにデータを開くと、一気に話し出した。
わたし、推理物を書くなんて、わたしもちょっと驚き。
書き始めて3か月目にトライです。
応援、ください。読んで、ご指摘いただければ嬉しいです。




