smorker and rainygirl
その日は雨が降っていて、僕たちは傘を持っていなかった。
だからなんとなくホテルに行ってなんとなくセックスをした。
ただそれだけのことだったから僕は彼女からの「昨日の夜電話でなかったけど何してたの?」という質問に正直に答えたえら、頬をひっぱたかれてふられた。
別に悲しくもなんともなかったけど、「嘘は絶対につかないでね」と言われたから他の女とセックスしたと正直に答えたら別れようと言ってはたくのは少々自己中心的なのではないか。そもそも付き合ってくれと言ったのは君じゃないか。
という不満を心に抱きつつ、タバコに火をつけた。まだ頬が少し熱い。
「もしかして、ふられた?」
隣からのいきなりの声に驚き横を向くと女が立っていた。昨日寝た女だ。
「ねぇふられたんでしょ?」
期待のいりまじった少し甘い女の声。ああ、すごく嫌な予感がする。
「いつからそこにいたんだよ。お前ストーカー?」
「そんな言い方ってないじゃない。ねぇ、あたし悠のこと好きなの」
ため息交じりにタバコの煙を吐き出す。
「悠にね、彼女いるのは知ってたの。でも、彼女いても昨日あたしとホテルでしたじゃない? 最初はきっと今夜だけの関係だと思ったんだけど気持ちが止まらなくなっちゃって・・・・・・。好きって伝えようと思って会いにきたの。そしたら彼女にあたしと寝たって言っててビックリしちゃった」
一人で頬を赤らめて一人で盛り上がってなんなんだ一体。
「悠もあたしのこと好きなんでしょ? だからわざわざ彼女にふられるようなこと言ったんでしょ? あたしも悠が好き! だから付き合おうよ!」
「・・・・・・は?」
途中まで話半分に聞いていた俺は、最後の一言を聞いて危うくタバコを取り落とすところだった。
「よろしくねっ」
「は!? ちょっ・・・・・・やめろよ!」
なぜか笑顔で腕を絡ませようとしてくるのを全力で阻止する。
「悪いけど、言ってる意味わかんないんだけど・・・・・・」
「え?」
「どこで何勘違いしたかわかんないけど、俺あやのこと好きじゃないし」
わけがわからないというふうに見つめる彼女。
「・・・・・・はぁ。あのさ、誤解させたなら悪いけど、昨日君と寝たのは雨降ってたからホテル行っての成り行きだし。別に彼女のこと好きじゃなかったけどあやのことも好きじゃないから」
タバコを吸って、地面に落とす。彼女はなにも言わずに黙っているが、その表情からは怒りの色が感じられる。
「・・・・・・なにそれ。さいってい!」
「人の男だってわかって寝たお前に最低とか言われたくないんだけど」
さすがの俺もイラっときて言い返したら、言葉につまったのか踵を返して帰っていった。
まったく。本当に女ってめんどくせぇ。
いらいらしながら足で火を踏み消し、携帯灰皿にタバコをいれると、後ろで小さく笑い声がした。
「ギャップ」
振り返ると女が立っていた。長い髪に奥二重の目。少し低い鼻。小さい背をヒールでカバーしている。見たことない女だ。
「・・・・・・何?」
「いや、ギャップがおもしろいなと思って」
そしてまたさっきと同じように小さく笑う。長い髪が少し揺れた。
「なんの?」
「タバコ。女の子に結構キツイこというのに、そういうとこちゃんとしてるんだね」
「え・・・・・? あぁ。これのこと?」
持っていた携帯灰皿を掲げると女は肯いた。
「あたしも持ってるからさ。でもなかなかいないよね、使う人」
そう言って女はタバコをとりだした。
「タバコ吸う人の最低限のマナーなのにね。一本どう?」
さしだされたタバコはマルボロのブラックメンソールだった。なかなか好きな銘柄なので、お言葉に甘えていただくことにした。にしても、この女誰だ?
「今あたしのこと誰だこいつって思ったでしょ」
「ゴホッゴホ」
ちょうど火をつけて吸った煙をおもわず吐き出してしまった。
「図星だ」
女はくすくす笑った。
「超能力者なのか・・・・・・?」
「なわけないじゃん。顔にでてたから君」
あまりおかしそうに笑われるので、なんだか少し恥ずかしい気持ちになり、煙をおもいっきり肺にいれて吐き出す。すると、すこし気持ちが落ち着いた。女も笑うのをやめ、うまそうに煙を吐き出している。
「あんた、いつからここいたの?」
沈黙を破ったのは俺だった。
「君の質問の意味で考えるなら、最初からかな」
「ふーん」
先端の短くなったタバコを見つめる。火がジリジリ迫ってくる。
「ひいたっしょ。女の扱い酷くて」
「ん?」
「よく言われんだ。冷めてるってさ。でも別に、女だって俺の顔がいいから寄ってきてるだけだし。正直好きとかよくわかんねぇ」
女はなんにも言わない。けど、なんとなく「そのままどうぞ続けて」と沈黙が語っている気がした。なんとなくだけど。
「付き合ってくれって言われて、まぁそれなりに好みの顔だったしおっけーしたけど、だからって縛られたくなんかないし。自由でいたいじゃん。・・・・・・けど」
先端がほとんど燃え尽きたタバコを最後に思いっきり吸い、地面に落とし足で踏み消す。
「人のこと本当に好きになったら、他の女となんとなくホテル行くなんてことしなくなんのかね。俺にはよくわかんねぇや」
タバコは火花を飛ばしながらあっけなく燃え尽きた。雨が降ってきたのか、ポツポツと音がする。
「・・・・・・あのあやって子あたし嫌い」
「・・・・・・え?」
横を向くとちょうど女もタバコの火を消していた。
「人の男と一晩過ごして、それを悪びれもせず告って玉砕して逆ギレなんて女の恥でしょ」
「だから君が言ってくれてスッキリした。」
そう言ってニヤっと女は笑った。
「ははっ。なんだそれ」
思わず笑うと女も微笑んだ。
「君がなんも言わなかったらあたし、でしゃばってあの女殴ってたよきっと」
「あぶねーなおい」
「それにね、あたし呪われてんの。あやに」
「なにそれ?」
「昔から付き合ってきた男ともめた女の名前全部あやがつくの。あやかとかあやみとかあやとかね。だから最近じゃあやって名前のつく女だけで警戒する」
「そりゃぁ・・・・・・お気の毒に」
「まったくね」
そう言ってはぁっとため息を出してタバコを拾い携帯灰皿にしまう。この女もなんだか大変なんだな。
「今かわいそうだなって思った?」
じろっと睨まれ思わず焦る。
「思ってねーよ!・・・・・・大変だなとは思ったけど」
「思ったんじゃん!」
「かわいそうかわいそうかわいそうとは意味が違うだろ!」
沈黙になるも、くだらない言い合いに思わず吹き出す。と、女も吹き出した。なんだかこいつといるとよく笑う。
「雨、降ってきたね」
「だな」
「よかったね室内で」
「あぁ」
「にしても、女が二人もマンションまで来るなんて、相当モテるんだね君。まさか郵便物取るついでにタバコ吸いに来て修羅場見るなんて思わなかったよ」
「・・・・・・まぁ、モテないとは言わない」
「確かに君、顔かっこいいしね。鼻とか高くて羨ましー」
「そらどうも」
雨はいつのまにか豪雨に変わっていた。ザアザアと激しい音をたてながらエントランスの窓を叩いてる。
「さて・・・・・・そろそろ行こうかな」
そう言って女は後ろの、少し離れたところにあるベンチに向かい郵便物を拾った。
「まさか、ずっとそこに?」
「そうだよー。ずっと座って見てた。君からは後ろになってて見えなかったんだろうけど、女の子たちからは見えてたんじゃない?」
口角をあげておかしそうに笑う。今気付いたけど、笑うと垂れ目になるんだなこいつは。
「ねぇ、さっき言ったことだけど」
「ん?」
「しなくなると思うよ。浮気」
「・・・・・・え?」
「君はさ、本気で一人の子好きになったらその子にしか興味なくなっちゃうタイプだと思う。タバコもポイ捨てしないしね」
長い髪を揺らしながら見せた笑顔はなんだか自信に満ちていた。
「だから大丈夫だよ。きっとそのうち愛しくてたまらない、すごく大切な人ができるよ」
じゃあね
と言ってエントランスの扉に手をかけたあの女をなぜか引き止めていた。自分でも気付かない間に。
「ん? なんか言った?」
振り向いた彼女は不思議そうな顔をしている。
「あ、いや。ちょっと待って。あんた、名前は?」
なぜか少し動揺している自分に気付いて少し焦る。
「あー・・・・・・。んー、内緒!」
「へ・・・・・・?」
予想外の答えに思わず気の抜けた声がでる。
「次会えたら教えるよ!同じマンションだしね。」
そういってドアを開け、彼女はエントランスから出て行った。
「またね、ゆうくん」
その言葉と悪戯っぽい笑顔を残して。
僕は彼女を追うこともせず、根っこが生えたようにその場に突っ立ていた。雨は相変わらず降り続いている。彼女の笑顔が、なぜか頭から離れなかった。
久しぶりの投稿でした。書き溜めた連載もあるので評判がよかったら続かこうと思ってます(・ω・)ノ よかったらそっちもよんでくださーい^^