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八話 敵

ちくしょう、俺がいながらにしてなんてざまだ。

坑道の入口に向かって走りながらトールは考えていた。その後ろにウルズ、シグルズと続いている。

やっぱりシグルズに後ろを任せたのは失敗だったのかもしれない。いや違うな。シグルズは大声ではないにしても「いない」とは言っていた。それがフレイヤのことだって気づかなかったのは俺のミスになるんだろうな。一応シグルズどの辺からいないのか聞いてはみたが、

「・・・最初から」

方向音痴にも限度ってもんがあるだろう。そんなフレイヤ嬢ちゃんを探すために入口まで走って戻っちゃいるんだが、問題は戻ったところで嬢ちゃんがどこの横穴に入っていったのか分かるかどうかってところだな。

「ちっ」

一応通信機で嬢ちゃんに呼びかけてはみるが見事に反応はない。どうやら通信機の電源を切っているようだ。おい、嬢ちゃんよ、いくら通信機を持ってても電源入れてなきゃそいつはまったく役にたたねえんだぞ。

フレイヤへの通信は諦め、スレイプニルに通信を試みる。

「スレイプニル艦長代理にシフです。はて、どちらの野盗の方でしょうか?」

「ばかやろう!俺だ!今はふざけてる場合じゃねえ!」

こんな時にふざけやがって。シフにフレイヤがはぐれたことを矢継ぎ早に説明しようとしたのだが、

「フレイヤ様がはぐれてしまったとかでしょうか?一応フレイヤ様に発信器を取り付けておきましたので、どこの道を通ったかはこちらでモニターできるようになっておりますが。」

「でかしたぞシフ!」

さっすが俺のとこの副長だ、やることが違うな。嬢ちゃんがはぐれた時の事を考えて行動していてくれたことに少しばかり感謝する。

「ええ、多分きっと絶対、隊長はフレイヤ様とはぐれてしまうと思ってましたから。」

感謝はするが礼を言う気はなくなった。こいつさらっと絶対って言ってたぞ。どんだけ俺の事を信用しちゃいねえんだよ。

そんな時だ、

―――ズシン

突然地面が揺れた。地面というよりは坑道全体が揺れたような感じだ。

「きゃっ」

後ろに続いていたウルズがその震動でよろけかけるが、シグルズがそれを優しく受け止める。

「ふんっ、離してよ!このくらい平気よ!」

やれやれ、一旦転びかけて何言ってんのかねこの女王様は。

「隊長。」

通信機越しに見るシフの表情が強張っている。こりゃ何かあったな。

「・・・ヴァン神族です。」

シフは短くそう告げた。

はぁ・・・こんな時にヴァン神族かよ。ロキの野郎は何してやがんだよ。

―――ズシン―――ズシン―――ズシン

震動が徐々に近づいてくるようだ。

「やぁトール、シフ。こちらロキ。聞こえるかい?」

「ロキ!てめぇ何してやがった!」

精一杯怒鳴りつけてやるが、ロキはなんとも涼しい顔を崩しやしねぇ。

「僕がサボっていたとでも?冗談!どうやらこいつらはたった今ここに転移してきたみたいだね。」

「・・・転移か。」

ヴァン神族の魔法には様々な種類のものがあるが、その中で一際厄介な魔法がこの転移の魔法だ。次元の壁を超えるように一瞬のうちに遠く離れた場所に移動できる魔法である。ただ、この魔法を使えるのはヴァン神族でも限られた者しか使えないはずではあるが・・・。

「視認できる限りじゃこっちのほうに巨人が三体、鉱山のほうに巨人が一体、ヴァン神族の姿が確認できないね。」

「こちらでもヴァン神族の姿は確認できません。反応は出ているのですが、どこからの反応なのか確認ができません。」

巨人が四体にヴァン神族か・・・。こんな場所に来るってことは狙いは『ワルキューレ』に間違いないだろう。しっかし、何もわざわざこんな状況下に現れることもないだろうに。

―――ズシン―――ズシン―――ズシン

かなり近づいてきやがったな。揺れも相当なもんだが、やばいぞ。このままじゃいつこの坑道が崩れるか分かったもんじゃない。俺らはそろそろ入口が見えるってとこまでは戻って来ちゃいるが、こんな状況じゃ嬢ちゃんを探すどころじゃないぞ。

「・・・はろー、はろー、隊長さん聞こえてますか?」

「嬢ちゃんかっ!」

通信に割り込んできたのは間違いなく嬢ちゃんだ。通信機の故障なのか映像のほうが乱れちゃいるが、間違いねえ。

「おいっ、今どこにいる!無事なのか?」

「今『ワルキューレ』の中にいます!、無事ですけど、でも、でも無事じゃないんです!」

どういうことだ?無事だけど無事じゃない?というかいつものほほんとしている嬢ちゃんの声がいつもとは違う焦ったような声に聞こえるんだが。まぁこんな揺れじゃそうなる気持ちも分からんでもないが。

「『ワルキューレ』を見つけたのか?」

『ワルキューレ』という言葉に反応して、ウルズが通信機に割り込んでくる。

「見つけたの?!見つけたのね!私のワルキューレ!どこにあるのよ!」

「見つけて今は中に乗り込んでます!でも崩れてきた岩から私を庇って守ってくださった方が気絶してしまったんです!隊長さん、なんとか助けてください!」

「そんなのはどうだっていいのよ!私の『ワルキューレ』は無事なのね!うぐぅ」

ここいらでウルズから通信機は取り上げてしまおう。でも庇ってくれた人って何者だ?やっぱりこの鉱山跡地を根城にしてる野盗でもいやがったのか?

「中にいるのなら無事なんだな?待ってろすぐに助けに行く!」

「分かりました隊長さん!よろしくお願いしますっ!」

通信機を切り、そのまま走って坑道から飛び出した。しばらく暗い中にいたせいか、外の光がやたらとまぶしく感じた。横を見やるとたしかに巨人が一体こちらへ歩を進めていた。だがまだ距離はある。

三人はそのまま来た時に乗ってきた車両に乗り込む。

「待ってろよ嬢ちゃん!すぐ戻ってくるからな!」

トールの叫びはフレイヤまで届いているはずもないが、そう叫び声をあげ、その場を後にした。


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