五話 鉱山
「ふぅむ。」
トール達四人が乗った車両は鉱山跡地周辺まで到着していた。しかし
「すごいですね♪穴ぼこばっかりです!ね、ね、どの穴に『ワルキューレ』がいるんですか?」
非常に難しい問題だな。つーか俺が問い正したいくらいなんだが。
鉱山跡地って言葉を聞いた時に多少は予想ができていた問題ではあるのだが、中に入るより前にかなりの数の入口があった。きっと中に入ればさらに横穴なんかもあるはずなので、これを一個一個探していくとなると相当な時間がかかってしまうだろう。つーかそんなに面倒なのやりたくねぇ。地図でもありゃ最高なんだがなぁ。
トールは腰の皮袋の中に手を入れ、そこに収められた通信機を取り出した。
「あー、こちらトールだ。シフ聞こえるか?」
やや間があって応答が返ってくる。
「こちらスレイブニル隊長代理中のシフです。どちら様でしょうか、その品のない声は。」
「俺だよ俺!つーか名乗ってるだろ!それにモニターを見ろモニターを!」
あのちょっと嫌味ったらしい話し方は間違いなくシフだ。もっとも、こちらはちゃんとモニターにその姿がちゃんと映ってるわけなのだが、ブリッジのメインモニターにその映像は出ちゃいないのかねぇ?
「あー隊長でしたか。その品のない声からどこぞの山賊か何かかと勘違いしました。あとついでにそちらの映像なんですが・・・これは隊長の髪の生え際でしょうか?私の私見ですが、まだギリギリセーフだと思われます。希望は捨てないで。」
そうそう、最近ちょっと後退してきてる気がしなくもないんだよなぁ。それもこれもこんな素敵な仲間たちに囲まれているせいに違いない。嗚呼、俺はとても素敵な仲間を持ってとても幸せ者だなぁ―――アハハハハ。
「ところで隊長どうされたんでしょうか?」
軽くトリップしかけた俺をシフの声が呼び戻した。
「あーとだな、『ワルキューレ』の位置をこっちのモニターに表示してくれ。ついでにこの周辺の地図とかないか?入口が多すぎてどこから入ったらいいのかさっぱり分からないんだが。」
「地図はありませんが『ワルキューレ』の位置は隊長達のいる位置よりもまだ離れているような感じが見受けられます。こういう場合一番大きな入口から探索するほうがよろしいかと思われますが?一応先に『ワルキューレ』の位置データ転送します。」
一番大きな入口ねぇ・・・ここから見渡す限り一番大きな穴って言うと・・・
「・・・あれ」
シグルズが指をさした方向を見上げた。
たしかに見た感じ大きな入口で、他の入口よりもトロッコが多く転がっている転送されてきたデータを見る限りでもどうやら方向だけは同じようだ。
坑道の中に入ってしまえば横穴ばかりで最初に入った方向なんか関係なくなってしまうかもしれないけどな。
まぁこの入口がハズレならば一度戻って作戦を立て直すしかないか。一応道中他の作戦も考えてはみたんだがな。
作戦その壱、俺の『ワルキューレ』を持ってきて鉱山ごと吹っ飛ばしてしまう作戦。
いろんなところからお叱りを受けちまいそうだ。却下。
作戦その弐、スレイブニルのクルー全員集めて探索する作戦。
スレイブニルが完全に無防備になっちまう。シフにものすごくお叱りを受けそうだ。却下。
作戦その参、アウラ班長から整備班一同を借りてきて探索する。
この作戦ならば俺がアウラに叱られる位で案外イケるんじゃね?俺らが見つけるまではどうせあそこの連中暇してるんだろうしな。もし見つけれなかったら一応提案してみるか。
そんなことを考えているうちに、先ほどシグルズの指差した入口の前まで到着した。
「隊長、こっから入るの?って、うぇぇ、足元泥だらけじゃない!最悪!この靴気に入ってたのに~!」
そうやってギャーギャー喚いてろ。だから俺は動きやすい格好してこいって言ったってのによ。
こいつの動きやすい格好ってあれだぜ、ブリッジの中で着ていたドレスよりもボリュームが一回り小さくなって裾の丈が気持ち短くなった程度なんだぜ。もっと動きやすい格好ってものがあるだろうによぉ。シグルズはシグルズでそんなウルズの靴を拭いてやっちゃあいるが、こっから中に入れば同じことだろう。
「ここから入るんですね♪なんかとっても楽しみです~☆クンクン、この中から冒険の匂いがします♪」
お嬢ちゃん、冒険の匂いってのは実際に匂いがするわけじゃないんだ。そうやって擬音までつけて匂いを嗅いでくれたのはありがたいが、多分この中でずっとそんなことやってると帰るまでに鼻の中真っ黒だぜ?
「まぁ入ってみるとするかねぇ。えーっと、誰か先頭歩きたいやついるか?」
「そんなの隊長でいいじゃーん。私はその後ろでいいし。」
こういう狭い通路を直列の隊列で歩く場合、一番危険なのは先頭だ。こんな鉱山跡地のような場所にはないだろうが、罠なんかが仕掛けられている場合、真っ先に引っかかるのは先頭だからである。
「・・・最後尾」
「それじゃ私は三番目を歩きます♪」
まぁたしかに一番後ろにも危険がないわけじゃないからな。それにまょぃごスキルを常時発揮しているお嬢ちゃんの後ろに誰かつけておかないと不安でしょうがない。
「そんじゃ後ろは任せるぞシグルズ!何かあったらすぐに大きな声出すんだぞ!」
「・・・了解。」
まぁこいつの大声ってのも想像がつかないもんだが。
中に入る前に乗ってきた車から松明を取り出して全員に持たせることも忘れない。ヴァン神族のように気軽に魔法ってもんを使えりゃ世話ないのだが、アース神族ってのはそういった魔法を得意としない。火打石で一つの松明に火をつけ、それぞれの松明にもそこから火を灯した。
「中でなんか見つけたらすぐ報告だ!そんじゃ前進するぞ!」
「了解、了解、さっさと見つけて帰るわよ!」「了解です隊長さん♪」「・・・了解。」
中に入ると先が見えない闇だけが続いていた。松明の灯りだけが頼りだった。
入口から直線状に伸びるレールの周りに、まるでアリの巣のように各所に横穴が広がっていやがる。予想していたよりも複雑になっているようで、これを一個一個全部確認していくってのは骨が折れそうだ。
そこいら中に当時使われていたんじゃないかと思われる鉱夫達の道具、つるはしやらスコップやらが放置されているのだが、どれもこれもすっかり錆びついちまっていやがる。そういやアウラにお土産とか言われていたが・・・何も見当たらないな。
こういう場所ならかけらの一つくらい落ちててもよさそうなもんだが、それすら見つからない。盗賊とかそういったもんでも出入りしてやがるのか?
こういう場所なら盗賊なんかの隠れ家なんかにはもってこいかもしれないしな。
「うー、暗い、ジメジメしてる、息苦しい、靴が泥祭り、見つからない」
ウルズが愚図りだした。たしかに暗いし、ジメジメしてるし、息苦しいのは分かるが、もうちょっと我慢できんもんかねぇ。ああ、靴が泥祭りなのはお前さんの服のチョイスが悪かっただけだから聞き流しておくとしようか。
「・・・いない」
「たしかに『ワルキューレ』いないなぁ、位置データ的にはまだもうちょっと奥・・・になるのか?とりあえずもうちょっと進んでみるか。」