三話 出発
「隊長、まもなく到着します。」
「よし、総員着陸態勢に入れ!付近にヴァン神族の反応はどうだ?」
「ヴァン神族の反応はありません。『ワルキューレ』の位置判明しました!着陸ポイントより南の鉱山跡地付近と思われます。」
鉱山跡地ねぇ。大方千年前の『神々の黄昏』の時にミッドガルドに墜落したアースガルドかヴァナヘイムの大陸の一部なんだろうな。
「着陸前に念のためロキを付近の警戒にあたらせろ!」
「了解!こちらブリッジ。ロキ様の発進準備お願いします。」
和平期間の千年が終わったばかりではあるが、いつヴァン神族が襲ってくるかは分からない。
というか本当に小さな衝突なら最後の数年で数度は起きていたのは事実だ。
やつらヴァン神族は俺たちアース神族が『ワルキューレ』を見つけ出すのを妨害している節がある。何度かこういう探索先にヴァン神族が先回りして先に向こうさんに回収されちまったこともあるくらいだ。
多分やつらもやつらで警戒しているんであろう。この『ワルキューレ』の力ってのはそういうもんだ。
「高度二千、着陸姿勢に入ります。」
・・・ヒュー・・・ズズゥン
重苦しい音と共にブリッジに僅かな振動が走った。いくら最新型の艦だっていっても着陸時のこの振動は直りやしねぇな。俺個人としちゃ地に足がつくような感じで好きではあるのだが、真面目に着陸時まで俺の横で突っ立ってるシフはまた転びそうになってるぞ。
「着陸完了!各部異常なしです!」
「いよーし、みんなお疲れさん!これより我々四名は『ワルキューレ』回収任務に入る!各自警戒態勢を維持!シフ後は任せるぞ。」
「了解しました。くれぐれもお気を付けください。」
「へぇへぇ、まぁぼちぼちやってくるさ。いくぞ野郎ども!」
「野郎なんかじゃないっての!」
「野郎じゃないの二号ですっ♪でもがんばります!」
「・・・了解」
言われてみりゃ今回の任務で一緒に行くのはシグルズ以外女だったが、こうブリッジを見回してみると何も言わずついてくるシグルズが一番かわいく見えてくるな。いや、あれだぞ、俺は決してそっちの気があるとかじゃないからな。
まぁあれだな女三人寄れば姦しいってやつだな。ここの女連中は三人寄らずとも姦しいというか、俺をへこますのには十分すぎるっつーか。
ブリッジから出るとそのまま四人は格納庫へ向かった。
鉱山跡地からそれほど離れてるわけではないのだが、かといって歩くとそれなりの距離がある。
こういう時活躍するのが整備班の誇る買い出し用車両だ。
整備班の手によって丁寧に手入れされているそれは、時に積載可能重量以上の荷物を積まされれる事もある。
まぁ、そんくらいのことが出来なきゃここの整備班じゃ生き残れないしなぁ。あそこの班長のお怒りを受ける前に、多少の無茶はやってのけるってのが我が戦艦スレイブニルの誇る整備班諸君だ。
「よぉ隊長さん!準備ならもうできてるぜ!」
そう声をかけてきたのは、タンクトップとツナギ姿が堂に入った先ほどからちょいちょい話に出てくる班長さんアウラだった。歳は俺より若いらしいが、その歳でここの班長を任されてるっていうんだからたいしたもんだよな。誰もこの人に口出しできないってのもあるだろうが、なんにせよこの整備班で一番出来る人ってのに間違いはない。
「助かるぜアウラ!」
「別にいいさ。それよりボロボロにして帰ってくんじゃねーぞ!それと、ほら、ん」
どうやら機嫌はすこぶるいいようだが・・・はて、その伸ばした手はいったいなんなんだ?
お手々繋いで仲良く踊りましょってか?
「ばっかじゃねーの!誰がてめえなんかと踊るかよ!おみやげだよ、お・み・や・げ。」
「あー、しかしだな、別に街に行くってわけじゃないんだが」
「分かってる分かってる。別にキラキラした宝石とかヒラヒラしたお洋服が欲しいってわけじゃねーよ。でも鉱山跡地なら鉱石の一つや二つ落ちててもおかしくはないだろ?私にゃどうもそういったもんのほうが魅力的なんだがね。」
非常に安上がりで助かる提案ではあるのだが、こりゃ見つけてこれなかった時の方がおっかないな。つーか一応任務で行ってくるんだがなぁ。「見つけられたらな」とだけ返事を返し車両に乗り込んだ。
―――ブロロロロ
整備班の連中が見送りに並んでくれる。まぁ今回の任務じゃ目的の『ワルキューレ』かロキの『ワルキューレ』かこの車両が帰ってこないと整備班のやることねぇしな。みんな一様に手を振ってくれている。なかなか整備班の連中もいいやつらじゃないかと思い俺も手を振り返そうとしたんだが、数人の整備班の声がそれを戸惑わせた。
「せーの、フレイヤ様!お気をつけてーーーーー!」
小さく「うわぁ」ってうめき声あげちゃったぞ俺。なんで横断幕まで準備されちゃってんだよ。
お嬢ちゃんは嬢ちゃんで、
「はいっ♪精一杯気をつけてきます!皆さんもお気をつけて~♪」
って手も振り返して車の上に立ってやがる。もうすでに全然気をつけてねぇじゃねーかって全力でつっこんでやりたい
「大人気ね、お姫様。」
刺々しい言い方のウルズはちょっとつまらなそうだ。こいつももうちょっとばかし性格がよけりゃ十分に顔立ちとか容姿は悪くないんだがな。
「皆さんの応援でやる気満タンです!私がんばっちゃいますよ♪」
「あんたががんばったってしょうがないのよ!今回は私が・・・」
そこまで言ってウルズはハッとして口を閉じた。そうだよな、今回の任務は半分以上はこいつにかかってるようなもんだ。契約して動かせりゃ何にも苦をするところがない。
四人を乗せた車両は一路鉱山跡地へと向かっていった。