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二話 スレイブニル

「・・・ちょう、隊長起きてください。」

やけに事務的に話しかける声が俺の安眠を邪魔しようとしやがる。

「隊長そろそろ起きてください。」

「・・・寝ちゃいねーよ!」

やべっ、寝ぼけて変なこと言っちまったかもしれねぇな。こりゃ後がめんどくさそうな展開になっちまいそうだなぁ。アース神族の誇る最新航空戦艦であるスレイブニルの艦長兼隊長トールは、あろうことかブリッジの艦長席で居眠りをしていた。

トールを呼ぶ声は副長のシフ、お堅い感じの話し方をするのでトールとしてはちょっと苦手な存在だった。

「ミッドガルドに到着して三十分程経ちます、まもなく目的のエリアに到着となります。」

「なにー!俺が寝る前はまだ『虹の橋』すら渡ってなかったじゃねーか!なんでもっと早く起こさねぇんだよ!なんかほら、こう色々とどっかに報告入れたりしなきゃいけねぇじゃねーかよ!」

『虹の橋』とはアースガルドやヴァナヘイムのある第二層とミッドガルド等がある第三層を繋ぐ昇降装置で、『世界樹ユグドラシル』に沿っていくつか設置されている。これらは『神々の黄昏』の後にドワーフ達によって設置されたもので、航空戦艦のような大型のものを運ぶのに非常に役にたっていた。それはさておき、

「・・・やっぱり寝ていたんですね。」

こいつ策士か!隊長に対してこんな誘導尋問を仕掛けてくるなんてろくでもない副長だ!

「関係各所への連絡は終わっています。通行許可をもらうために『虹の橋』のドワーフの門番、航空許可を得るためにミッドガルドの城、ヴァルハラにいるオーディン様にはせっかくなので隊長がアホ面で寝ている横で映像による通信報告をしておきました。」

「なにやらかしてくれちゃってんだ!」

「隊長が寝言で任せる任せるやっちゃってーって寝言を言ってましたので。」

シフの淡々とした喋りにブリッジクルー一同うなずいてやがるからどうやら本当らしい。つーかこりゃヴァルハラに戻ったらさすがに怒られるんじゃねーか?オーディン兄貴の命令で兄貴の娘のフレイヤ嬢ちゃんも連れてきてるってのに何にも案内すらしてなかったしなぁ。つーかシフの野郎こっそりアホ面って言ってなかったか?まぁいつものことか。

「多分ブリーフティングをするんじゃないかと思いましたのでメンバーを招集しておきました。まもなくここに集合すると思われます。」

こういう所は気が回っていいやつなんだが、こうなってくるとこいつに隊長を任せちまったほうが楽なんじゃないかと思っちまうな。いや、だめか。こいつが隊長になったら間違いなく俺のサボれる時間が減っちまいそうだ。むしろサボる時間なんか与えられずこき使われまくりの気がしてくる。嗚呼、なんでオーディンの兄貴はこんなやつを副長に選んじまいやがったんだろうなぁ。

「トールやっと起きたんだー。」

招集していたメンバーが集まってきたようだ。

「ウルズ様、トールではなくて隊長です。こんなんでも一応隊長ですから一応そう呼んであげてください。」

「うぇぇ、なんか堅っ苦しいな。トールでいいじゃんトールで!」

最初に入ってきたのはウルズってダークエルフの自称女王さんだ。銀髪縦ロールの髪とゴテゴテのドレスに身を包んだいかにもお嬢様っぽい衣装が自称女王ってのを後押ししてるような感じだ。本名はウルズ・ウェルダンディ・スクルドとかって長ったらしい名前で、巨人によって滅ぼされる前はスヴァルトヘイムの王の娘だったらしいが、今は訳あって俺らと行動を共にしている。つーかシフ一応って二回も言うなっての!正直そろそろへこむぞ!

ウルズの背後に影を潜めるように入ってきたのはシグルズだ。自称女王さんの付き人のようなものであまり声を出すことを得意としない。何か話すときも妙な間があったり、単語で答えが返ってくることもある為なかなかに話が噛み合わない。褐色肌に金髪というダークエルフらしからぬ髪色なのだが、その辺の事情は深くは知らない。ダークエルフよりはハーフエルフかなんかなのであろうが、詳しく聞こうとしてもこの話し方だと全部聞くまでに何年かかるか分かったものではない。

「・・・ブリーフティング」

「まだ全員揃っちゃいないな、あとはフレイヤ嬢ちゃんとロキの野郎か?」

「僕はもう来てるよ。」

いつからそこにいたのか、小柄な少年のような体躯のロキが背後に立っていた。いつもそうなのだが、お前はもうちょっと存在感を出せよ!あと俺の背後に突然現れるってのは癖かなんかなのか?

「まぁ癖っていうより趣味かな?ていうか僕はあくまで客人なんだからこのブリーフティング自体参加する必要はないような気がするんだけどねぇ。」

「そう言うな、この艦は人手不足なんだよ。まぁ乗車代の代わりだと思ってちょっとくらい働いてけ。」

「やれやれ、『雷神』さんは人使い荒いなぁ。まぁ甘んじて受け入れますけどね。」

こいつはいつも一言余計なんだよな。

『雷神』ってのは俺のあだ名みたいなもんだ。戦ってる時の俺の姿を見て誰かが言い出したらしいが、案外これを言い出したのはロキなんじゃないかと俺は睨んでる。

「わ、わ、わ、遅くなりましたぁ~」

最後にブリッジに到着したのはフレイヤ嬢ちゃん、何度も言うようだがオーディン兄貴の娘さんだ。俺がヴァルハラに帰る度に色々な世界の話をしているうちに外の世界ってのに興味を持ってしまったらしく、今回オーディン兄貴に特別に許可をもらって搭乗することとなった。

幼少よりヴァルハラの宮殿で甘やかされて育ったせいか世間というものをあまり知らないお嬢さんだ。つーかその高そうなドレスのあちこちが汚れてるのはどういうことだ?

「えへへ、まょぃごになっちゃいました♪スレイブニルの中ってとっても広いんですね!格納庫ってとこで『ワルキューレ』を見させてもらって、ぶりーふてぃんぐに呼ばれたのですがなかなかここまでたどり着けなくて・・・」

「・・・はぁ。まぁいいさ。とりあえず全員揃ったところでブリーフティングを始める!シフ今回の任務の説明を頼―――」

「それは艦長の仕事です。」

ありえないくらいの高速の返答だ。そうくるもんだと予測してやがったなこんちくしょーめが。しかも目で「やりませんよ?」って訴えかけてくるおまけつきときたもんだ。さーてどうすっかね。

「あー、今回の任務は皆も知ってるとおりだ。行きたいやつだけ残れ!以上、解散!」

「全く説明にも確認にもなっていません。」

自分で言うのもなんだが、全くもって最もだ。つーか俺にこういうのをやらせるってのがそもそもの間違いなんだよなぁ。一番前で暴れるほうが俺の性に合ってるってなもんだ。

「・・・はぁ、では不肖ながら私が。」

うん、最初っからそうしてくれりゃいいんだよ。見ろ、皆の視線がちょっと痛いじゃねーか。こいつこれを狙ってやがったな!つーかサボってたの根に持ちすぎだろおい。

「皆さんご存知でしょうが、今回の任務は千年前の争いの時にミッドガルドに落ちた『ワルキューレ』の回収の任務となります。オリハルコンで出来ていますので、動かすにあたって支障はないと思われます。『エインフェリア』であり、まだ『ワルキューレ』との契約を行っていないウルズさんが契約し、その場で起動、回収に当たるという内容になっております。」

「やっと私専用の『ワルキューレ』とのご対面ってわけね!」

「『ワルキューレ』が選べば、ですが。」

オリハルコンで作られた『ワルキューレ』は意識を持っている。それを動かせるのは『ワルキューレ』と契約を交わした勇者としての魂の資質を持ったもの『エインフェリア』だけである。『ワルキューレ』にはそれぞれ違った性格であるので、いくら資質を持った『エインフェリア』だとしても『ワルキューレ』と契約できないことだってあるのだ。

「選ぶに決まってるじゃない!むしろ私を選ばない今までの『ワルキューレ』達がおかしいのよ!」

俺はワルキューレじゃないが、きっとこりゃ無理だろうな。俺とシグルズとロキは『エインフェリア』であり、それぞれに『ワルキューレ』と契約をしているのだが、多分どれもこれもこう言うだろうな「我は汝と契約するつもりはない」と。

まぁこの自称女王様も一応は『エインフェリア』なんだ。そのうちこんなのでも契約してくれるやつだって見つかるだろ。

「んで、まぁ説明はそんな感じだ。とりあえず俺とウルズは『ワルキューレ』の探索に行くとしてだ。あとは・・・」

「・・・行く」

あーやっぱそうなるよな。えーとなんだっけ口癖は・・・

「・・・王女を守るのは俺の役目だ。」

シグルズが単語じゃない言葉を話すのは大体この自称王女さんの時ばっかだもんな。そのうちにもうちょっとその辺の詳しい話も聞いてみたいもんだが。

「あの・・・私も・・・その、外の世界が見てみたいです!」

まぁなんとなく予想できたことだが。

「あー、やっぱりそうなるのか。しっかしフレイヤ嬢ちゃん、外の世界は危険も多いんだが、その辺は分かって言ってるのか?」

「分かってます!つーしんきとかいうものもちゃんと持ってますし、お父様が隊長さんが守ってくれるから大丈夫って仰ってましたから♪えっへん!」

そこ胸を張るとこじゃないだろ!つーか張るほどない薄っぺらな胸のお嬢さんよ、全て俺が守るの前提で話しちゃいるが、その常時まょぃご機能をどうにか取り外しちゃくれないか?

「そんじゃとりあえず四人で行ってみるか?」

「ちょっと待ってください隊長」

うん、まぁシフは必ず文句言うと思ってたよ。

「たしかに仕方ないかとは思いますが『ワルキューレ』のパイロット二人も行ってしまうとこの艦の護衛はいかがするおつもりでしょう?ヴァン神族といつ遭遇するかも分からないのですよ?」

至極最もだ。

「ロキ、大丈夫だよな?」

「『雷神』さんの頼みじゃ断れませんからね。『雷神』さん程の腕はありませんが、任されたからにはぼちぼちやっておきますよ。」

ったく食えない野郎だ。あいつが本気出しゃ俺とタイマンはれるだろうに。お互い本気出すってことが滅多にないわけだが。

「つーことだ。艦の方はシフに任せる!これで文句はないよな?」

「文句はありませんが、上官に対しての愚痴なら山ほどあります。」

愚痴・・・ねぇ・・・俺も山ほどあるなぁ。最近部下たちからすっごい苛められるんですよーとか誰か酒でも煽りながら小一時間位話を聞いちゃもらえんもんかね。もちろんこのブリーフティングに集まったメンバー以外でな!整備班辺りの若い奴らとなら意気投合できそうな気がしなくもないな。あそこの整備班の班長さんも大概だからなぁ。

「んじゃブリーフティングは以上だ!フレイヤ嬢ちゃんはその汚れた服変えるついでに動きやすい格好に着替えてくるんだな。ウルズもそのヒラヒラの服じゃ汚れちまうぞ?」

「フン、そのくらい分かってるわよ!」

そう言ってブリッジを後にした。たしかにこんなヒラヒラした格好では歩きづらくてしょうがないであろう。そういえばまだミッドガルドのどんな場所に行くのかを聞いてなかったが―――『ワルキューレ』があるところなんてどうせ廃墟とか山の奥とかそんな場所に違いない。

せめて廃墟とかのほうが汚れは少なそうではあるが、淡い期待を抱くのはやめておこう。

そもそも今回はそれどころではない。この艦の『エインフェリア』の中で『ワルキューレ』と契約していないのは私だけなのだから。

―――なんで今まで『ワルキューレ』は私を選んではくれなかったのだろうか。

―――なんで今まで『ワルキューレ』に私は認められなかったのだろうか。

―――どうして―――なんで―――分からない―――ワカラナイワカラナイ

あの話もまともにできないシグルズでさえ契約してるってのに、あのちゃらんぽらんな隊長トールだって契約してるっていうのに、ロキは・・・ちょっと別格な気がするけど。

だから今回はきっと契約してみせる。しなきゃおかしい。いや、しなきゃダメなのだ。

そうじゃなきゃ・・・自分の手で何も守れないじゃないか。


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