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一話 ジャンク屋

「おーい、何か見えるかー?」

「まだ先があるようだ!テオ、お前もさっさと降りてこいよー」

「ちょっとまって・・・・まってくれよ!ロープが短くて・・・」

俺の身長が低いことをいいことに、マルスはロープで降りるのに手こずっている俺のことをいつものことながら急かしてくる。

ここはかつて俺たちが住んでいるミッドガルズ大陸で一番の鉱石の都とまで言われ、栄えていた頃は鉱夫達がひっきりなしに鉱石を運びだしていた場所。いわゆる鉱山だった場所だ。

廃鉱になった今となっては、その見る影もない。

そんな廃鉱の中をミッドガルドの片田舎で、細々とジャンク屋稼業で生計を立てているテオとマルスは奥へ奥へと進んでいた。

入口から直線状に伸びるレールの周りに、まるでアリの巣のように各所に横穴が広がっている。暗闇はずっと奥まで続き、松明の明かり程度ではどこまで続いているのか見当もつかないほどだ。

そこら中に当時使われていたと思われる鉱夫達の道具、つるはしやらスコップやらが置かれているのだが、どれもこれもすっかり錆びてしまっていて、ひとつ手に取ってみると見事に柄と鉄だったものの二つに分かれてしまった。

「こんなんじゃあ金にはならないよなぁ・・・」

俺とマルスはこんな場所に無残にも放置された道具を拾いに来たわけではない。

俺たちはジャンク屋ではあるが、こんなとびっきりのジャンクなんかを持ち帰ったところで誰が喜んで買いたがるだろうか。

この場所には何度も足を運んではいるのだが、最初のうちは割といいものが落ちていることもあった。油に浸かった道具は錆びもせずに残っていたりすることもある。鉱夫が置き忘れたであろうくたびれた銅貨が数枚だけ入った皮袋、これを見るだけでこの場所で働いていた鉱夫の稼ぎが窺えるというものだ。一番の大収穫だったのは、運び出す直前だったのかトロッコに鉱石が半分ほど入っていた。運び出す途中にマルスの背負った袋に穴さえ開いていなければ、一週間は食うに困ることはなかったと思う。

ジャンク屋なんてせいぜいその程度の稼ぎだ。まともにジャンク品を集めたところでその日の糧を得るので精一杯。コソ泥より一つ上、街で屋台をやっているような商売人より一つ下のランクってところだ。

身寄りのない俺たち二人にとって、そうやってその日を生きていく位しか生きる術を知らなかった。 

随分昔に食うに困って一度だけ盗みもやった。店の店主が街の顔利きだったこともあり、すぐに俺たちの住処がばれて、その街から追い出されることとなった。

一度だけ二人で鍛冶屋の見習いとして働いたこともあった。溶鉱炉の温度を上げすぎて、炉を壊してしまい、すぐにその街を飛び出した。

それ以来盗みもやらず、まともに働きもせずに二人でこうやってジャンク品漁りをして生計を立てている。

俺より年上のマルスならば今住んでいる街で何かしらの職につくこともできるとは思うのだが、マルスはそれを頑なに拒んでいた。曰くお前がもうちょっと大人になったら、だそうだ。いつまでも俺を子ども扱いするのはちょっと頭にくることもある。そのことで喧嘩になったこともあった。それでもお互い離れることだけはなかった。

俺にとってマルスは唯一の親友であり、なんでも小器用にこなす兄貴であり、血の繋がりのない家族だった。

「結構奥まで来たなー。テオ、何か見つかったか?」

「さっぱり何も見つからないな。マルスのほうこそ何か見つかった?」

「うんにゃ、見つかってたらもっと大騒ぎしてるもんさ」

もうこの廃鉱も終わりなのかもしれない。こういうことは初めてではない。他にもいくつかの廃鉱を漁ってはいたのだが、ここ数か月で拾えるジャンク品の数はみるみる減っていっている。

同業者も数人顔見知りはいたが、最近じゃ街で見かけることもなくなった。

「そろそろ潮時なのかもしんないなぁ」

「大丈夫さマルス!明日はもっと街から離れたとこを探してみようよ!北のほうにももっと廃鉱があるって話じゃないか!」

「あっちはハーコンのおっさん達の縄張りだ。同業者として他の縄張りを荒らすのはよろしいもんじゃないなぁ」

廃鉱を勝手に漁ってるだけなので、実際にちゃんとした取り決めがあるわけではないのだが、同業者には同業者の暗黙のルールというものが存在する。

『他人の縄張りを荒らすべからず』誰が言ったのかは知らないが、これは廃鉱を漁るジャンク屋の暗黙のルールだった。実際俺たちの縄張りの廃鉱に入ってきた小汚いおっさん二人とこれで揉めたこともある。歳は俺たちのほうが断然若かったのだが、そのおっさんたちはまだこの家業を始めたばかりらしく、その暗黙のルールさえ知らなかった。

同情してほとんど未探索だった縄張りを一つマルスが譲らなければ、少しの間だけはまともな食事にありつけていたんじゃないかと思うと少しばかり腹がたった。そして腹も鳴った。

「マルス!そろそろ切り上げて街でなんか食べようよ!まだ三日分位の飯代ならあるんだしさ!これ以上探してると帰りが遅くなって店も全部閉まっちゃうぜ!」

「そうかもしれないねぇ、坑道も狭くなってきやがったし、この通路の先行き止まりで終わりっぽいしなぁ。」

ある程度廃鉱に慣れてくると感覚で分かってくるものなのだが、坑道の狭さでその先に道があるのかないのか判断できる。稀に例外なんかもあるのだが、狭くなってくると大抵行き止まり、いいとこトロッコ一台あって鉱石が入ってたりもするのだが、まぁ滅多にお目にかかれない。

坑道がさらに狭さを増してくる。いつものように、当然であるかのようにその先は行き止まりとなっていた。だが

「お、おいこれって・・・」

「う、うん。今回は当たりだったのかも」

いつものように、当然であったかのように行き当った行き止まりの壁に白い何かが埋まっていた。いや白い何かなどではなく、白い鉄の塊だった。

一部分しか見えてはいなかったのだが、その一部分だけで相当の大きさの塊だということが窺える。正直こんなものトロッコがあったとしても二人がかりじゃ運ぶこともできなそうな感じであった。

「ど、どうするんだよマルス!」

「こりゃとうとう俺たちにも追い風が吹いてきたんじゃねぇか?テオ、こいつを持ってって売っちまえば俺たちゃ億万長者!・・・とまではいかないが、そうさなぁ一年位は何もしなくても飯が食える位の金にはなりそうじゃねーか?」

「億万長者!・・・い、いやそうじゃなくてさ!どうやってこんな馬鹿でかいもん運ぶんだよ!」

「なーに、まずは掘り出してみなきゃまともな大きさもわかんねぇんだ。最悪壊して分割して運ぶか、金出して運び出すの手伝ってもらえばいいのさ!」

こんな大きさの鉄の塊を発見したのなんて俺も初めてだが、俺が初めてってことは当然マルスだって初めてだ。にも関わらず、ビビりまくりの俺に対してマルスは焦りの一つだって見せちゃくれない。

「まずはもうちょっと周りを掘ってどん位の大きさなのか調べないとなぁ、ちょいと帰るのは遅くなっちまうかもしれないが、大きさだけ調べちまおうぜ!それ次第じゃ次来る時に持ってくるもんや助っ人を呼ぶかどうかが変わっちまうからなぁ」

「うん!マルスがよく言う損は儲けの始めってやつだね!」

「この場合損するのは俺たちの腹ってことだけどな。まぁこいつさえ掘り出しちまえば損した分以上に腹はぼろ儲けなんだろうぜ。まぁさっさとやっちまおうぜ!」


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