ep3 悪夢
ボクが予定合流地にたどり着く頃には、もう時間は12の針を回っていた。
予定合流地……、下鴨公園には既に組織の者が数人、彼女等の背後には大きなヘリが用意されている。
どうやら、ボクが来るのを待っていたようだ。
ボクはケースを手に、組織の者達へと近づく。
そして、依頼の度によく顔を合わせる馴染んだ金髪の女性へと話しかけた。
「……ケースはこの通り、無事だ。一応、中身も確認してくれれば助かるんだが――」
「わかりました」
「……どうだ? ちゃんとそれがアンタ達の物かどうか確かめてくれよ」
「これで間違いないです。では、契約金を―――」
そう言って、ヘリから別のケースを持ってきた男が女性へと渡した。
「どうぞ、フェルナさん」
「…ありがとう」
フェルナと呼ばれた女性はボクへとケースごと渡した。
ボクはそのケースに入っている金額を確認する。
この人はフェルナ・シュタルッド
まだ、年も若いのに組織の幹部の彼女は、こういった汚れ仕事を組織に任されている。
彼女の経歴は不明だが、彼女も異端能力者の中の一人だ。
能力は不明だが、数ある危険な任務を任されて、そして100%の確立で成功させると言われている。
組織にとっては、差し詰め“戦場の女神”的な存在だろう。
そして、毎回厄介な事をボクに依頼してくるというボクにとっては迷惑だけの女性だ。(ただし、彼女の方は何故かわからないが、僕の事を気にいっているらしい……)
ボクとしては、あまり関わりたくないのだが、こっちは雇われの身なのでどうしようもない。
「よく依頼した通りの活躍をしてくれます。……流石ですね」
「それはボクに対する褒め言葉……と素直に受け止めていいのかな?」
「ええ、私はそっちの意味で言いました」
本当に何かと固い人だ…。
さっき、人を殺したばかりなのに、この女性といると昼間の自分を思い出して他ならない。
「それでは、私達はこれで失礼します」
「…ああ」
「では、また何かあったら、お呼びします」
そう言って、彼女とその部下達はヘリへと乗った。
ボクはヘリが離陸するのをじっと見つめていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ボクと組織……“ベラロッテ”(これが組織の正式な名前だ)との関係は傭兵とその依頼主。
ただ、そこらの雇われた兵とは違い、ボクは組織専属の雇われた兵だ。
だが、専属の雇われた兵というのは結構不便なモノで、好きに雇い主を選べないのが最大のネックだ。
そこに組織が「高額な報酬」と「ブラッドロードの最新情報」をボクに提供するという提案を出したのだ。
ブラッドロードの情報に関しては、ボクにとっては思っていた以上に貴重な事だった。
そのデータを解析し、失ったモノを取り返すために…。
ボクは何の迷いもなく、この組織の専属兵となった。
だって誓ったから。
あの日の自分に……。
絶対に彼女を取り戻すと。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
懐かしい花畑に壮大な星空。
まさしくあの時の光景だった
だけど、ボクはあの時よりも随分と成長している。
「――久しぶりだね」
ボクへ声を掛ける彼女を見つめ、傍に駆け寄った。
彼女の姿は、まったくあの時と変わっていない
ただ、表情はとても寂しそうな顔をしていて……。
だから、ボクはそんな彼女に何かできないかと、彼女の腕を引っ張って、花畑を走りまわった。
息が切れる程に……、そう、笑いながら彼女と―――
僕達は疲れきったので、花畑へと寝転んだ。
その花畑は夏にぴったりな向日葵で満たされていた。
彼女が傍にいるだけでボクにとっては幸せだ。
でも……彼女は?
嫌な衝動に駆られて、ボクは彼女へと質問をする。
「ねぇ、キミは楽しい?」
彼女はボクの問いに頭を縦に振った。
でも……。
その顔にはまだ寂しさが抜けきっていなくて、何か……何かが足らないとそう感じた。
その時、地面から紅い線が僕達の間を遮る様に浮き出てきた。
あれ……?
確か…前にもこんな光景をどこかで…。
そもそも、なんでボクは“この光景を知っていたんだろう?”
だいたい、“あの時の光景”ってなんだ?
全て、初めて……なはずだ。
なのに、どうして?
頭の中で幾つもの思考が交錯する。
だが、そんな時間の余裕を与えてはくれなかった。
誰が? 何が?
『そう、この忌まわしい線が…。』
……線?
そういえば、ボクと彼女を分け隔てるかのように線は引かれている。
なんだ……、この異様な不吉な予感は…。
体中が…熱い。
(なんだ、これ?)
ダメだ。何かを思い出そうとしても頭がズキズキと痛み出し、もうそれどころではない。
そういえば……彼女は?
彼女がさっきいた方向へと目を向けた。
そこには、息苦しそうに花畑へと倒れていた彼女が……。
彼女の名前を言おうとしても、この頭痛と体の熱さで阻まれて、口にする事ができない。
くそ……、くそぉっ……
気づくと、よろよろとした動きでボクは彼女の方へと向かっていた。
夢中だった。彼女が心配で……、ボクがしっかりしなきゃ…と。
もうすぐだ。
後一歩……たったそれだけの距離で彼女を抱きかかえる事ができる。
ボクは最後の力を振り絞って、彼女の倒れた距離へとたどり着いた。
そして、傍へと一気に座り込む。
「おい、おい! 目をあけてくれ!!」
声を出せるくらいには頭痛も回復していて、はっきりと映った視界で彼女を見る。
だけど、ボクの声はまったく聞こえていないのか、彼女は一行に目を開けてくれない。
それどころか…。
「―――体が透き通っている!?」
彼女の体はだんだんと薄明へと変わっていく。
そんな……。
なんなんだ、これは……。
彼女が……、一体何をしたって言うんだ?
ボクだって何もしていないのに―――
『本当にそうか?』
ボクに疑問の槍が突き刺さる。
だって、ボクはただ彼女の傍にいただけで――
『なら、どうして彼女を守れなかった?』
それはボクの弱さを証明するに等しかった。
抱きかかえた彼女の姿は、もう形を整えるのが精一杯な様子だ。
「い…や……だ……。頼む……、消えないでくれ!!」
ボクの叫びもまったくの無意味で、彼女が消えていくのはまったく止まらない。
悲観に暮れていた時…。
彼女が力を振り絞って、何かをボクに伝えようとしている事に気づいた。
口をパクパクと動かして、擦れた声でボクへと…。
一文字動かす度に、消えていく彼女をボクは必死で見守る。
そして、最後の文字を言い終えたと共に、抱えていた体がボクの体ごと透き通った。
もう、触れる事すらできない…。
ボクは悔しい思いでいっぱいになり、目線を逸らして、ひたすら涙を流した。
その一瞬だった。
目を戻すと……彼女はもうそこにはいなかった。
周りを見渡すも……、誰もいない。
嘘だ……。
こんなのは……夢に決まっている!
『本当にそうか?』
黙れ! ボクにとって彼女はたった一人の大切な人だったんだ!
それなのに……。
なんで…、どうして?
誰にもわからない疑問を自分自身にぶつけながら、彼女が最後にボクに伝えたメッセージを思い出す。
―――― 大 好 き だ よ ――――
「く…、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
泣き叫びと同時にボクは夢から一気に覚めた。
顔は涙で濡れていて、夢だと言うのにさっきまでの感覚が、今でもリアルに感じれた…。
「……夢…か? なんで……なんでまたあの夢を…」
ここ最近、同じ夢ばかりを見る。
あの3年前の夢を…。
どうしてなんだ。
どうして、また……。
眩しい光に照らされて、ボクは布団から出た。
そして、嫌にべた付いた汗を洗い流して、部屋の窓を全開にした。
さて、今さっき3話を書き終えました。
今回の見所は彼方がリフレインしている所です。
まぁ簡単に言うと最悪の出来事を再現してしまった…。みたいな感じですね。
でも、あくまで彼の夢の中の出来事だったのでそこは少し内容を変えてみました。
ボク個人では彼方に想われている少女が「― 大好き ―」と言うシーンが自分の中で、書いていて一番心に応えました…。
ええ、なんか悲しい物語を書いてしまっています、桃月です。(汗)
てか、なんか今回真面目に答えすぎましたねwwww(気づくの遅いw
(´・ω・`)
では、4話のあとがきで、また!
ヾ(*゜∇^*)ノ~ see you next time !!