婚約破棄してくれないので断罪寸前の令嬢をあてがってみました
学園内の舞踏場で開かれている、卒業パーティー。
ここにいる全ての人がきらびやかな正装姿で、それぞれパートナーと手を取り踊っていたり、談笑している。
そんな中、終始私のことをほったらかしにしていた婚約者のランス様は、人目を盗んで会場を抜け出した。
そしてその後をこっそりつける。
ランス様が向かったのは、学園の中庭にあるガゼボ。
待っていたのは予想通り、公爵令嬢のナタリーさんだった。
婚約者の逢引きに、思わず口元が緩む。
アーチ状の屋根の下、二人の影はゆっくりと重なった。
何度も角度を変えて、熱い口付けを交わしている。
ふふ。これでやっと――
その時、後ろで足音がした。
振り返ると、先ほどまで会場で大勢に囲まれていた人物がいる。
「リューレント王子……」
「覗き見とはいい趣味をしているね、エレノアさん」
そんなこと言って、王子だって覗きに来たんだろうに。と思いながらも口には出さない。
「その節はどうもありがとうございました。おかげで自由の身になれそうです」
「僕にとっても好都合だったからね」
にこりと微笑む王子は、その美しい見た目とは裏腹にかなりの策士だ。
おかげでかなり助かったのだけれど。
私は幼い頃から、今ちょうど目の前で浮気をしているランス様と婚約を結んでいる。
もちろん親同士が決めた婚約だ。
けれど三年前、十五歳になり学園に入学したころ彼に告げられた。
『お前のことは一生好きにならない』と。
愛のない結婚だということは理解していた。
まさか面と向かって言われるとは思っていなかったけれど。
でも、わざわざ言ってくるのなら結婚をする気がないのだと思い、それならば婚約を解消しましょうと言った私に、ランス様はどんでもないことを言い放った――
◇ ◇ ◇
「婚約は解消しない。クラウス家との関りがなくなるのは困るからな」
私の家は代々貿易商を営んでいて、子爵家ながら莫大な資産を持っている。
ランス様のオルマン家は侯爵家であるけれど、最近財政難に陥っていると父が言っていた。
「そうですか。わかりました」
まあ、よくある互いの身分とお金を補うための政略結婚ということだ。
「お前みたいな地味で愛嬌もない女をもらってやるだけありがたいと思え」
蔑まれていることはわかっていた。
でも面と向かって言われると、やっぱり腹が立つ。
わざわざ言わなくてもいいじゃない。
けれど、それから開き直ったかのように、私に対する扱いの酷さが増していった。
学園ではいつも他の令嬢をはべらせ、婚約者は? と聞かれると公認だからと笑っていた。
いったい誰がいつ公認したっていうのよ。
きっとこのために私にあんなことを言ったんだ。
好きなようにされるのは癪なので父に婚約を解消したいとお願いしても、子爵家であるうちからはできないと言われた。
ランス様のお父様に他にお相手がいるようですと伝えても、彼はそんな者はいない、友人が多いだけと突っぱねる。
たしかに大勢はべらせて遊んではいるけれど、決定的な浮気相手がいるというわけではない。
学園で周りからは不憫な目で見られ、それでいてランス様にはいいように使われて。
そんな日々が二年以上続いた。
このままだとあと半年で学園を卒業し、卒業したら結婚しなくてはいけない。
あんな人と結婚なんて絶対に嫌だ。
どうにかできないものかと思いながら学園の中庭を歩いている時、奥から何やら揉めるような声が聞こえてきた。
「どうして私が退学なのですか?! 私はあなたの婚約者なのに」
「婚約者候補だったというだけで、婚約者ではないだろう。そもそも、もう候補ですらないがな」
婚約だのなんだの、どこも大変なんだな。
そんな会話が聞こえてきたので興味本位で覗いてみると、そこにはこの国の王子であるリューレント様と、ベルモード公爵家のご令嬢のナタリーさんがいた。
まさかあの二人が揉めているなんて。
そこらのご令息とご令嬢とはわけが違う。
ナタリーさんは王子の前で苛立ちを隠すこともせず、声を荒げている。
そんな彼女をリューレント王子は冷たい目で見下ろしている。
「私は絶対に認めないんだから!」
強く言い残し、その場を去っていった。
はあ、と王子は呆れたように大きなため息を吐く。
リューレント王子にはまだ正式な婚約者はいない。
数人の候補のご令嬢がいて、ナタリーさんもそのうちの一人だった。
彼女はだれよりも野心が強く、自分が王子と結婚するのだといつも息巻いているのをよく見かけていた。
それにしても退学ってなんのことだろう。
私には関係ないか……。
その場をあとにしようと踵を返した時――
「覗き見とはいい趣味をしているね」
真後ろから声がした。声の主はもちろんリューレント王子。
いったい、いつの間にこんな近くに。
「たまたま通りかかっただけで、覗いてなんていませんわ」
「それは、覗くような何かがあったことを知っている、と言っているのと同じだね」
揚げ足をとるのが上手いな。
見た目は美しいけれど、内心では何を考えているかわからない人。
まあ立場上、そうせざるを得ないのだろうけど。
にこやかに微笑む王子は私の返答を待っている。
これ以上誤魔化しても意味がないし、誤魔化す必要もないか。
「王子も大変ですね。お気持ちお察しします。そうだ、毒にはお気を付けて。失礼いたします」
軽く頭を下げて行こうとするけれど、腕を掴まれてかなわなかった。
「今、なんて?」
「失礼いたします?」
「毒って、言ったよね」
「ああ。ナタリーさんと揉めているようでしたので。彼女のお家、薬草を栽培してらっしゃるじゃないですか」
領地で薬草農園を営んでいる彼女の家はきっと毒を作ることも容易い。
「どうして、毒だと?」
「彼女、気に入らないご令嬢がいるとお茶会で毒の入ったお茶を出すので」
先日のお茶会も、リューレント王子の婚約者の一番の候補であるご令嬢だけ狙ったように調子が悪くなっていた。
もちろんそんな強い毒ではない。
少々お腹を壊す程度だけれど、何人も彼女のお茶で苦しんでいるご令嬢を見てきた。
「詳しい話を聞きたいんだけど」
腕を掴まれる力が強くなった。
なんか、面倒事に巻き込まれそうな予感がする。
毒といってもお腹を壊す程度だったし、言及してナタリーさんに目を付けられたくなかったから今まで何も言わなかったのに。
失言だった。
「詳しい話なんてこれ以上なにもありませんよ?」
「さっき、王子“も”大変ですねって言ったよね? 君の大変なことに関わる良いこと教えてあげようか」
それって、ランス様のことだろうか。彼の女性遊びは学園のなかではもう誰しも知っていること。
良いことってなんだろう。気になる。気になるけれど、この話に乗ってもいいのだろうか。
「良いことって、私にとって有意的なことですか?」
「有意になるかどうかは、君がこの情報を聞いた上でどう動くかじゃない?」
結局は私の判断に委ねるということか。
でも、今の状況を変えられるのなら聞いておいて損はないかもしれない。
「ナタリーさんの件は、私から情報を得たことは内密にしていたけますか?」
「もちろん。交渉成立ということだね――」
リューレント王子の話によると、ランス様のオルマン家はもう随分と前から財政が厳しく、貢納金が国に支払われていなのだという。
このままでは爵位の大幅な降格は免れないだろうとのことだ。
「そんなはずはないでしょう。爵位を維持するためにうちが献金しているのですから」
「お金が何に使われているのかは知らないけど、滞納していることは事実だよ」
こんなこと父が聞いたらなんと言うだろう。私たちの婚約をやめると言ってくれるだろうか。
いや、父のことだからオルマン家の爵位を守るために献金を増やすと言い出しかねない。
「詳しく調べる必要がありますね……」
「で、僕の聞きたいことにも答えてくれるかな?」
「ナタリーさんのことですね――」
私が彼女が毒を盛っていると気づいたのは、その時のお茶会だけ準備をする侍女が違っていたことがきっかけだった。
ナタリーさんは自分の権威を示すためにしばしばお茶を開いているけれど、いつも一緒にいる侍女とは違う人を連れていることがあった。
その侍女はどこか挙動不審で、ナタリーさんの顔色をよく伺っていた。そして決まって、そのお茶会の時だけ目を付けられているご令嬢が体調を崩すのだ。
ついでに、階段でこっそりご令嬢を突き落として骨折させたことも、新しいドレスを破ったことも、ブローチを井戸に落としたことも報告しておいた。
「よく観察しているんだね」
「人間観察は好きなんです。ところで、どうしてナタリーさんは退学になるのですか?」
「やっぱり覗いてたんだね」
「今さら誤魔化す必要ないので」
「彼女は王妃のティアラを壊したんだよ」
「え? あの国宝を?!」
王族の結婚式の時だけに使用される特別なティアラ。選ばれた者しか付けることのできないそれは、無理やり付けようとすると魔力が反応し、壊れてしまうのだそう。
今は王宮の魔術師が修復作業を行っているらしい。
「彼女の言い分ではティアラはもともと壊れていたと。それに直るのならば罪にはならないだろう、だってさ。そもそも国宝を盗もうとした時点で大罪だよ」
「なんてバカげたことを……」
ナタリーさんのことだ。ティアラを付けることができれば婚約者として認められるとでも思ったのだろう。
王子はこれ以上彼女の悪行を見逃すことはできないと、学園を退学させ、王都から追放したいと考えているそうだ。そのために今、これまでの余罪も全て調べるために動いている。
「まあ国宝が壊されたなんて王族の管理体制の脆弱性も問われるから公にはできないんだけどね」
「なのにどうして私に?」
「エレノアさんとならいろいろと協力し合えるかと思って」
にこりと笑うリューレント王子。
はじめからそのつもりだったのだろう。でも、私にとっても使える話だ。
それから私はある作戦に出ることにした。
学園の中庭で、ナタリーさんがいつも通る時間に、ベンチに座って通りかかるのを待つ。
そして彼女の姿が見えた時、大きなひとり言を呟く。
「フフフ。ああ、なんて喜ばしいことなの」
自分でも胡散臭いなと思いながらも、にやついた表情を作り演技をする。
「あら、エレノアさんそんな嬉しそうな顔をしてどうされたの?」
すると思った通り、食いついてくれた。
彼女は人の利福に敏感なのだ。
「ナタリーさんこんにちは。実は婚約者の爵位が変わることになりまして」
「ランス様の? ということは公爵になられるの?」
「この話はまだ内密なの。誰にも言わないでくださいね。ランス様、最近オモテになるみたいだし、他のご令嬢に騒がれても大変なので」
「ええ、もちろんよ。でも、同じ公爵家の子として仲良くしなければいけないわね」
だれも爵位が上がる、なんて言っていないのに面白いくらいに勘違いしてくれた。
ナタリーさんはそれからすぐにランス様に取り入るようになった。
昼食に誘ったり、腕を組んで歩いたり。
ランス様も鼻の下が伸びている。
公爵令嬢で、王子の婚約者候補だったナタリーさんに言い寄られてまんざらでもないのだろう。
それにまあ、お金をかけている分ちゃんと美しい見目をしている。
明らかに今まではべらせていた令嬢と扱いが違う。
彼女はもう少しで全ての罪状が揃って断罪されるというのに。
ナタリーさんはきっと公爵になると思っているランス様に取り入って、なんとか守ってもらおうと思っているのだろう。
彼女の退学の話は取り消されることになった。
私の計画を最大限活かすためにはその方が都合がいいからだ。
そして後日、思っていた通り私はナタリーさんにお茶会に呼ばれた。それも二人きりの。
ベルモード公爵家に招かれ、広い庭の真ん中に用意されたテーブルにつく。
「来ていただいてありがとうエレノアさん」
「こちらこそお招きいただきありがとう」
にこやかに挨拶を交わすけれど、警戒を怠ってはいない。だって、今お茶の準備をしているのは例の侍女なのだから。
きっと彼女は毒を盛っていることはわかっている。
ナタリーさんに弱みを握られているのだろうか。
「エレノアさん、ランス様とは仲良くしていらして?」
「私たちは親の決めた婚約なので、それなりにといったところね」
あれだけ見せつけるようにいつも一緒にいてよく言う。
ナタリーさんはどうぞ、とお茶を飲むように促してくる。
私は注がれたカップを持ち、一口飲んだ。
味は、まあ……悪くない。
「うちで茶葉から作ったお茶の味はどうかしら?」
「深みがあってとても美味しいわ」
「ゆっくり味わってちょうだいね」
お言葉通り、ゆっくり時間をかけて味わせてもらおう。
口の中に仕込んでいる薬で毒が中和されるくらいに。
「そういえば、王妃のティアラが破損したと噂になっていたわね。ナタリーさんご存知?」
「え? そう、なの? 知らなかったわ」
驚きながらも、白々しく知らないふりをする。
ティアラの件は公にならないと思っていたのだろうな。
「チラッと耳にはさんだの。修復作業は無事終わったみたいだから心配はいらないようだわ」
「それは良かったわ」
あからさまにホッとしている。
これで無罪放免になったとでも勘違いしているのだろうか。
「でも、今回の件はリューレント王子もとても遺憾に思っているらしいわ。ナタリーさん、最近王子とはどうなの?」
「私、もう王子との結婚は諦めようと思っているの、どうせ選ばれないだろうから。それに今、とても良い感じの方がいるのよ」
急に勝ち誇ったような表情を向けてくる。
ランス様が自分に執心中だと言いたいのだろう。
こちらとしても願ったり叶ったりだ。
それからお互い探り合うような、表面上の会話をしてお茶会は終わった。
薬のおかげか今のところお腹の調子は大丈夫だ。
そしてお茶会のあと、帰るふりをしてこっそり侍女に声をかけた。
「そのポットに残ったお茶、持って帰りたいのだけどいいかしら?」
「これは……お渡しすることはできません」
「これが何かわかっているわ。あなたを助けたいのよ」
侍女は驚いた顔をした後、泣きそうになりながらポットを渡してくれた。
私は受け取ったお茶を持って、リューレント王子のところへと行った。
調べてみるとやはり毒が含まれていた。
少量だとお腹を壊す程度のものだけれど、大量に摂取すると命の危険もある精製することも禁止されているもの。
これで、証拠が出揃った。
あとは、王子に任せてその時を待つだけ――
◇ ◇ ◇
ガゼボ密会から帰ってきた二人は気が高まっているのか手を繋いでいる。
そして、揃って私の前まで来ると、ランス様は蔑むような目を向けてくる。
「エレノア、お前との婚約は解消する! 俺はこの愛するナタリーと結婚するんだ」
はい。ありがとうございます。その言葉を待っていました。
にやついてしまいそうになるのを我慢して、真剣な顔で答えた。
「承知いたしました」
けれど素直に受け入れた私が気に入らないのか、チッと舌打ちをする。
「泣いて懇願すれば側女くらいにはしてやってもいいぞ」
はあ?! バカじゃないの。
と言いたくなるのを押さえ、黙って睨み付ける。
本当は一発くらい殴りたいけれど、騒ぎを起こして計画が狂ってしまってはいけない。
これからが本番なのだから。
周りが何事かとざわつきはじめた時、彼がやってきた。
「――泣くのは君たちのほうじゃないか?」
その人物の登場に、周りはさらにざわつきはじめた。
もう会場にいた全員が私たちに注目している。
「リューレント王子、いったい何のことですか? ナタリーはもうあなたの婚約者候補を辞退したのでしょう」
「ランスくん、何か勘違いしているようだね。もちろん、彼女は婚約者候補でもなんでもないよ。間違いなく君の婚約者だ」
王子は一枚の婚姻誓約書を広げた。
そこには、ランス様とナタリーさんが婚約者であることの証明が記されている。
「私が、ランス様のお父様に書いていただいていたの。公爵令嬢のナタリーさんとの婚約、とても喜んでらっしゃいましたよ? ベルモード公爵の署名は今朝パーティーの前にいただいてそのまま王宮に提出しましたの」
ランス様のお父様は、ナタリーさんの話をするとすぐに婚約を解消してくれた。
貿易商の子爵家より、由緒正しい公爵家の方がいいと思ったのだろう。
ベルモード公爵も娘のことを押し付ける相手ができて喜んでいるようだった。
「エレノア、気が利くじゃないか」
フンッと鼻をならすランス様には失笑するしかない。
「もうひとつ、書状があるんだけど」
リューレント王子が取り出したのは、ナタリーさんの捕縛状だった。
「国宝損壊罪、毒物混入罪、傷害罪、脅迫罪で捕縛状が出ている。このまま王宮の留置場に行ってもらうよ」
「は?! ナタリー、どういうことだ!」
一番に声を上げたのはランス様だった。
何も知らなかったのだから驚いて当然だろう。でも、身分につられて安易に浮気なんてするからこういうことになるのよ。
「ティアラの件は放免されたのではないの?!」
「誰がいつ許すと言ったのさ。何も言われなくなったからといって君の罪がなくなるわけないじゃないか。それに君が何度も法外な毒を使っていることも証拠があがっている」
唇を噛みながら睨み付けるナタリーさんは、それでもランス様の腕を離さない。
助けてくれるとでも思っているのだろうか。
「そんなことは知らない! ナタリーなんで黙っていたんだ。婚約の話は白紙にさせてもらうぞ!」
戸惑うランス様に、王子はさらに続ける。
「それと、オルマン家は子爵家に降格が決まったよ」
降格という言葉に、今度は私に目を向けてくる。
「エレノア! いったいどういうことだ!」
「どういうことかはご自身が一番よくおわかりではないですか?」
貢納金を払っていなかったことはわかっているだろう。
どうせ、ナタリーさんの家から援助してもらうつもりだったのだろうけど。
「最後にもう一つ。ナタリーはベルモード公爵家から除籍すると当主から届出があったよ」
「除籍だと?! どうしてだ!」
どうしてって、そんなの犯罪者の娘なんていらないからに決まっているでしょう。
けれど二人はお互いに顔を見合わせ、罵声を浴びせている。
「私だって知らないわよ! それより爵位の降格ってどういうこと!? 私はあなたの婚約者なんだからどうにかしなさいよ!」
見苦しい。
ついさっきまで熱い口付けを交わしていたというのに。
自分の過ちはわかっていても、相手の過ちは知らなかったのだろう。
「エレノア! お前謀ったな!」
ランス様は拳を振り上げ私に殴りかかろうとする。
けれど、近くにいた騎士にすぐに取り押さえられた。
そしてナタリーさんも拘束された。
「ちょっと離しなさいよ!」
二人はわめいていたけれど、そのまま騎士たちに連れて行かれた。
ざわつきが収まらない会場だけれど、みんなの話題は連れていかれたランス様とナタリーさんのことばかりで誰も私には関心をもってはいない。
それがとてもありがたかった。
これで全て終わったんだ。
私は騒然とした中、ひっそりと会場を出る。
今日で学園は卒業。ランス様の婚約者も卒業。
晴れて自由の身だ。
でも、問題もある。
「新しい婚約者、探さないとなあ」
「じゃあ、僕がなってあげようか」
ぼそりと呟いたとき、後ろから声がした。
いったいいつの間についてきていたんだ。
それに、婚約者って。
「ご冗談を」
「本気なんだけどな」
「王子は引く手あまたではないですか」
「なのにどうして婚約者が決まらないんだろうね?」
「高望みし過ぎなのではないですか?」
あれだけ候補のご令嬢がいるのだからさっさと決めてしまえばいいのに。
「妃になるには見せかけの身分より、知性と信頼が重要だと思うんだよね」
「まあ、それは同感ですけどね」
リューレント王子の言いたいことはなんとなくわかった。
けれど今は気づかないふりをしておこう。
「ティアラ、似合うと思うよ」
「壊れても知りませんよ?」
私たちはフッと笑みを溢し、並んで歩き出した。
【 大事なお願い 】
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