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僕の言葉がなぜか正解になる世界で ―無自覚の一言が、人も世界も動かしてしまう  作者: 三浦レン


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第9話 それは本当に正しいのか

 「助けてくれ!」


 その声が、全部を変えた。


 さっきまでの空気が、一瞬で消える。

 余裕も、分析も、全部なくなる。


 走ってきた男は、その場に崩れるように膝をついた。


「森の奥で……襲われてる……仲間が……!」


 息が荒い。

 本気で焦っているのがわかる。


「何にだ」

 カイルがすぐに聞く。


「わからない……獣か、人か……でも、数が多い……!」


 情報は曖昧だ。

 でも、それが余計に不安を煽る。


「……どうする」


 村長が周囲を見回す。


 誰もすぐに動けない。


 さっきまで“作られた状況”だった。

 今は違う。


 本当に、何が起きているかわからない。


「……アオイ」


 誰かが僕の名前を呼んだ。


 気づけば、全員がこっちを見ている。


 嫌な予感が、確信に変わる。


「……なんで僕を見るんですか」


「さっき言ってたじゃん」


 リナが小さく言う。


「迷ってるときに、言葉が通るって」


「それは、そうですけど」


 だからって、僕がどうにかできるわけじゃない。


 レオンが一歩前に出る。


「まず情報だ」


 落ち着いた声。


「距離は」

「ここから走って十分くらいだ……!」


「人数は」

「三人……いや、四人だったはずだ……!」


 レオンはすぐに判断していく。


「追うか、迎え撃つか」


 周囲を見る。


 でも――


「……」


 誰も即答できない。


 情報が足りない。

 リスクが見えない。


 決めきれない。


 さっきと同じだ。


 “迷い”がある。


「……」


 レオンが一瞬だけ、僕を見た。


 その視線の意味は、はっきりしている。


 “使えるかどうか”


 試されている。


「……」


 考える。


 でも、考えてもわからない。


 何が正しいのか。


 どうすればいいのか。


 わからない。


 でも――


「……近づきすぎないほうがいいと思います」


 気づけば、口にしていた。


「え?」


 リナがこっちを見る。


 周囲も、同じだ。


「……続けろ」


 カイルが言う。


 僕は、言葉を探す。


「状況がわからないまま近づくと、巻き込まれるかもしれないので」


 森の奥。

 視界が悪い。

 数も不明。


「でも、放置もできないので」


 助けを求めている。


「距離を保ったまま、様子を見たほうがいいかなって」


 言い終わる。


 さっきと同じだ。


 曖昧だ。


 “かもしれない”。


 だから――


「……」


 空気が、止まる。


 誰も動かない。


 まただ。


 通じない。


「……」


 胸の奥が、少しだけ重くなる。


 やっぱり、ダメだ。


 僕の言葉は――


「いや」


 レオンが言う。


 全員がそちらを見る。


「悪くない」


 そう言って、一歩前に出る。


「近づきすぎない」


 はっきり言う。


「距離を保つ」


 短く区切る。


「様子を見る」


 三つに分ける。


 それだけで――


「……ああ」

「そうか……!」


 空気が動く。


「近づきすぎなければいいんだな」

「様子見ながらなら、いけるかもしれん」


 同じ内容なのに、違う。


 さっきと同じだ。


 僕の言葉は通らない。

 レオンの言葉は通る。


「……」


 悔しい、とは少し違う。


 でも、何かが引っかかる。


「隊を分ける」


 レオンが続ける。


「前に出るのは最小限」


 周囲を見る。


「無理に助けに行かない。まず確認だ」


 決断が早い。


「行くぞ」


 その一言で、数人が動いた。


 さっきまで迷っていたのが嘘みたいに。


「……アオイ」


 リナが小さく言う。


「やっぱり、あの人すごいね」


「うん」


 素直に頷く。


 否定できない。


「でもさ」


 リナが少しだけ首を傾げる。


「今のって、アオイが言ったことだよね?」


「……そうだけど」


「じゃあ、なんで?」


 その疑問は、僕も思っていた。


 同じことを言っている。


 なのに、結果が違う。


「……言い方、ですかね」


 なんとなくの答え。


 でも、レオンが首を振った。


「違う」


 振り向かずに言う。


「え?」


「言い方じゃない」


 そのまま歩きながら続ける。


「“誰が言うか”だ」


 その一言が、少しだけ重かった。


「……どういう意味ですか」


 思わず聞く。


 レオンは少しだけ立ち止まった。


 振り返る。


「お前は、まだ“任せられていない”」


「……」


「だから、通らない」


 シンプルな答えだった。


「任せられてる人間の言葉は、通る」


 それが、自分だと言わんばかりの言い方だった。


「……」


 言い返せない。


 確かに、そうだ。


 さっきも今も、最終的に動いたのはレオンの言葉だった。


「じゃあ……」


 リナが聞く。


「どうすればいいの?」


 レオンは少しだけ考えた。


 そして、僕を見る。


「積み上げろ」


「……何をですか」


「信用だ」


 短く言う。


「それがなければ、どんな言葉もただの音だ」


 その言葉は、やけに現実的だった。


 そして――


 妙に納得してしまった。


「……なるほど」


 小さく呟く。


 そのときだった。


「待て」


 カイルの声が入る。


 全員が止まる。


「どうした」

 レオンが振り向く。


「今の発言」


 カイルは僕を見る。


「“近づきすぎない”」


「はい」


「それを、もう一度」


 またそれだ。


 でも今は、さっきと違う。


 全員が動こうとしている。


 つまり――


 “状況がある”。


「……近づきすぎないほうがいいと思います」


 言う。


 同じ言葉。


 でも――


「……ああ」

「距離を取るぞ!」


 通った。


 今度は、ちゃんと通った。


「……え」


 思わず声が出る。


 さっきと同じなのに。


 違う。


 明らかに違う。


「……」


 カイルが小さく呟く。


「条件が揃った」


 ミラが、少しだけ笑った。


「ほらね」


 レオンは何も言わない。

 ただ、前を見ている。


 僕だけが、少し遅れて理解する。


 言葉が通る条件。


 それは――


 “状況”と、“信用”。


 両方が揃ったとき。


 初めて、意味が動く。


「……」


 背筋が少しだけ寒くなる。


 もしこれが本当なら。


 僕の言葉は――


 ただの言葉じゃない。


 そう思った瞬間だった。

“通らない言葉”が、“通る瞬間”が見えました。


でも、それがどういう意味なのかは、まだはっきりしていません。

ここから一気に核心に近づいていきます。


少しでも続きが気になったら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

次話で、この流れがさらに大きく動きます。

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