第26話 それを信じた者
それはもう、言葉ではない。
その感覚だけが、強く残っていた。
「……」
さっきの衝突。
言葉と、言葉がぶつかった。
そして――
結果は、変わった。
「……アオイ」
リナが隣で言う。
「大丈夫?」
「……はい」
少しだけ間を置いて答える。
「でも」
続ける。
「さっきの、あれ……」
うまく言葉にならない。
「……わかる」
リナが頷く。
「なんか、もう“会話”じゃなかったよね」
「……はい」
その通りだった。
「……」
レオンが、少しだけ振り返る。
「お前、さっきのは意図的か」
「……」
少し迷う。
でも――
「……たぶん」
正直に言う。
「止めるために、選びました」
「……そうか」
短く頷く。
「ならいい」
「……」
それ以上は言わない。
でも、その反応は少しだけ違った。
前よりも。
「……」
カイルが小さく言う。
「記録更新」
「競合状態での優位性確認」
「……」
ミラが楽しそうに笑う。
「完全に“使ってる”わね」
「……」
否定できない。
もう、無自覚じゃない。
「……」
そのときだった。
「……!」
足音。
急いでいる。
誰かがこちらに向かってくる。
「……誰だ」
レオンが低く言う。
全員の視線がそちらに向く。
林の向こう。
一人の少女が、息を切らして走ってきていた。
「……」
服は汚れている。
息は荒い。
でも――
目だけが、はっきりしている。
「……っ」
こちらを見る。
まっすぐに。
迷いなく。
「……あなた」
少女が言う。
その視線は――
僕に向いていた。
「……」
一歩、近づく。
「……」
そして。
「あなたですよね」
はっきり言う。
「“足元を見ろ”って言った人」
「……」
空気が止まる。
「……違います」
すぐに答える。
「僕じゃないです」
「……」
少女は、少しだけ首を振る。
「でも」
一歩近づく。
「同じ言葉を使ってた」
「……」
言葉が詰まる。
「……」
少女は、続ける。
「私、それで助かりました」
「……」
さっきの話。
集落の。
「……」
「落ちるところだったんです」
小さく言う。
「でも」
顔を上げる。
「声が聞こえた」
「……」
「“足元を見ろ”って」
「……」
同じだ。
あの男と。
「……」
「だから」
少しだけ、息を整える。
「止まれた」
「……」
助かった。
その事実。
「……」
少女は、もう一歩近づく。
「……ありがとう、ございます」
深く、頭を下げる。
「……」
何も言えない。
僕は、言っていない。
でも――
届いている。
「……」
リナが、少しだけ戸惑う。
「えっと……」
「……」
カイルは、すぐに記録を取り始めている。
「外部影響、直接確認」
「個体識別なし、内容一致」
「……」
ミラが、小さく笑う。
「来たわね」
「……」
レオンは、何も言わない。
ただ、見ている。
僕と。
少女を。
「……」
少女が、顔を上げる。
「……あの」
「……はい」
「もう一度、言ってもらえますか」
「……え?」
「同じ言葉」
真剣な目。
「……」
空気が変わる。
「……」
これは――
違う。
さっきまでと。
「……」
少女は続ける。
「あなたの言葉なら」
一歩、近づく。
「きっと、間違えないから」
「……」
その一言で。
全てが変わる。
「……」
背筋が冷たくなる。
信じている。
完全に。
「……」
これは――
危ない。
「……アオイ」
レオンが、低く言う。
「答えるな」
「……」
即座に。
「依存が強すぎる」
「……」
カイルも、小さく言う。
「再現要求、危険度高」
「……」
ミラは、何も言わない。
ただ、少しだけ楽しそうに見ている。
「……」
少女は、動かない。
ただ、待っている。
僕の言葉を。
「……」
言うべきか。
言わないべきか。
「……」
でも。
ひとつだけ、わかる。
これは――
ただの言葉じゃない。
「……」
もし、言えば。
この人は、それに従う。
疑わずに。
「……」
それは――
選ばせないことだ。
「……」
息を吸う。
そして。
「……言えません」
はっきり言う。
「……」
少女の目が、揺れる。
「……どうして」
「……」
少しだけ迷う。
でも――
「……自分で決めたほうがいいです」
言う。
「そのほうが、間違えないので」
「……」
一瞬、静かになる。
「……」
少女は、動かない。
ただ。
少しだけ、下を向いた。
「……」
そのとき。
「……いい判断だ」
レオンが言う。
「……」
カイルも、静かに頷く。
「依存の抑制、成功」
「……」
ミラは、少しだけ笑う。
「つまらないけど、正解ね」
「……」
でも。
少女は――
動かない。
「……」
顔を上げる。
その目は。
さっきとは、少しだけ違っていた。
「……わかりました」
小さく言う。
「……」
「じゃあ」
一歩、後ろに下がる。
「自分で、決めます」
「……」
その言葉で。
空気が、少しだけ戻る。
「……」
でも。
完全には戻らない。
「……」
ひとつだけ、はっきりしたことがある。
言葉は、通る。
そして――
人は、それを信じる。
「……」
そのとき。
背後で、小さな声が聞こえた。
「……やっぱり」
振り向く。
“使っている”男だ。
「……面白いな」
小さく笑う。
「……」
その目は――
さっきよりも、はっきりしていた。
「……」
完全に。
敵を見る目だった。
ついに「信じる側」が登場しました。
助けるはずの言葉が、依存を生む。
その選択をどうするかで、物語の方向が大きく変わります。
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次話、この“信じる力”がさらに暴走します。




