『甘いものと速記に目がない嫁』
ある家に嫁が来た。甘いものが大層好きで、目がないほうであった。婚礼のとき、まんじゅうが出されたが、花嫁は何も食べないのがしきたりなので、ぐっと我慢していた。婚礼の式が終わり、花嫁衣装から着がえた嫁は、居間に来て、自分と花婿用の御膳がそのまま置いてあるのを見て、まんじゅうだけ食べようと手を伸ばしたところ、足音が聞こえてきたので、慌てて一口で食べ、のどに詰まらせてしまった。ただし、鼻から呼吸はできる、危険じゃないけど抜き差しならない状態である。
足音は、姑であった。息子である花婿の御膳を、息子の元へ運んでやろうと、居間に来たところ、既に嫁がいた、という状況であった。きょうは御苦労だった、どうしてこんなところにいるのか、と尋ねられた嫁は、まんじゅうがのどに詰まっているので、何も答えられなかった。しかも、身振り手振りが何か変な動きをしているのを見て、姑は、嫁がおかしくなった、もっと言えば、狐でも憑いたのかと思ったのである。
姑は、婚礼の宴に来て、酔いつぶれていた祈祷師をたたき起こして、嫁を見てもらうと、祈祷師は、狐つきではないことを一瞬で見破り、屏風を立てさせて嫁の口の中いっぱいに入っているまんじゅうを取り出し、ゆっくり食べ直させて、食べ終わると、屏風を片づけさせ、自分は座敷に戻って、酒を所望し、改めて酔いつぶれた。
嫁は、姑に、ふつつか者ですが云々という形式どおりの挨拶をし、甘いものと速記には目がないことを伝えた。
教訓:事情を説明されなかった姑は、嫁が狐つきになったとずっと思い続けたという。




