もし、君の『異性分身』が現れたら
君は、『もし俺の分身が現れたら』なんて考えたことはあるだろうか。
独りで寂しい時。
仕事で疲れた時。
弱音を吐きたい時。
そんな時に『分身』がいたら、生活はよりよくなるだろう……。
ではそれが例えば、『異性の分身』だったら?
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俺は片鳥 観己。
都内の進学校、『鏡高校』に通う高校生だ。
そして、俺には『分身』がいる。
……え、なんで『分身』がいるか?
そんなの俺に聞かれても困る。
俺が一年生の夏休みのある日に拾った『翠緑の宝石』。
なぜかそれには、人間の分身を作れる強大な力が宿っていたらしく……
俺が翌朝目を覚ますと、なんと隣に俺の『分身』が寝ていたのだ。
クローン技術とかの科学的関与は一切のゼロ。
俺はかなりヤバめの超常現象に巻き込まれてしまったのだ。
そして、この『分身』には1つ大きな特徴がある。
それは、『なぜか女体化している』ということ。
おそらく君は、この『分身』は俺と同性の『男子』だと思っていただろう。
だが実際は、俺に限りなく似通った『女子』。
そのため、男子の俺は『本人』で、女子の俺は『分身』という、明確な立場の違いが生まれてしまったのだ。
これがかなり大変でな……。
『分身』であろうが、中身は『俺』なんだ。
彼女のこれからの人生どうするとか、そういった状況を飲み込むのにかなりの時間がかかったっけ。
女子のふりをするようにと、彼女の一人称や言葉遣いを変える練習もした。
それに、戸籍周りの偽装とかも色々と面倒だったな。
なんせ、『この女の子は俺の分身です』なんて言ったら、どんな科学会社や組織に狙われるか知れたもんじゃない。
彼女を俺と同じ高校に通わせるために、俺の両親がかなり手を焼いてくれたのだ。
お陰で今、彼女は「『宝生 映真』という『俺の親戚』」というていで通学できている。
俺が本音を吐ける唯一の相手として、共に高校生活を過ごしているのだ。
ま、何度も彼女の正体がバレかけて、その度に大変だったんだけど。
それも含めて、彼女は新たな彩りのある人生を歩めている。
ということで、『異性の分身』というイレギュラーな存在はこの通り大変なのだが……
同性の『分身』ならばよかったかと言われると、意外とそうでもない。
同性なら、そもそもどっちが本体かも分からない上に、2人の人格の間には大して差が生じなかっただろう。
こうなると、もはや常に鏡を見ている気分になるだろう。
きっと気が狂うに違いない。
それに加えて、分身と2人で一緒にいる所を誰かに見られたら、当たり前に一発アウト。
2人で交互に学校に通いたいならば、体にカメラとマイクでも付けてお互いの学校生活を観察しないと、友達とのコミュニケーションに矛盾が生じる可能性もある。
つまり、普通に学校に通いたいなら、『異性の分身』がいる方が何かと都合がいいってわけだ。
さて、ここまで読んでくれた君は、『分身』というものがいかに面倒かということを、きっと知ってくれただろう。
その『分身』が男子だろうが女子だろうが、厄介なのはやはり、『分身』は『自分と同じ記憶・人格を持つ』という点。
分身にも人間としての明確な自我と人生がある。
それに寄り添うことができなければ、それは『分身』をペット未満として扱うような卑劣な人間になってしまう。
そんな面倒なことも多いが……『分身』というのは、俺にとってかなり大切な存在になっている。
俺は過去のトラウマがきっかけで、完璧主義の思想を持っていた。
そのため、他人と自らから寄せられる期待に応え得るための努力をすることにしか、人生の価値を見出していなかったのだ。
でも、女子の『分身』にはそのようなプレッシャーはかからない。
いつしか、彼女は自分の弱さを理解し、のびのびと生きるようになっていた。
俺も、そんな彼女にだけは弱さを見せることができる。
彼女は、「『俺』という人間が本心ではどうしたいのか」を映す鏡となってくれたのだ———。
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「ねぇ観己。今週末にボウリングに行かない?」
高校の帰り道、映真は俺に提案をした。
「ボウリングか……。でも映真、来月はテストだろ?勉強しないと」
俺にとっては、勉強をすることこそが人生の意味。
でも映真は知っている。
俺は、身と精神を削ってまで必要以上の勉強をしている、ということを。
他人からよせられる期待以上の成果を出さねばと、無理をしているということを。
「確かにそれはそうかも……。でも、息抜きも大切だよ? 頑張り過ぎもよくないよ〜。週末ずっとテスト勉強なんてしても、疲労と寝不足で気が狂っちゃうだけでしょ?」
映真は、こうやって俺を助けてくれるのだ。
「……それもそうかもな。よし、ボウリングで俺と勝負だ、映真!」
「勝負かぁ……意地でも観己と同じ点数を出そうかなぁ。分身の強みを活かしてね」
「はっ、残念だがそれは無理だな。『分身』同士で勝負したところで、物理的に考えれば、ボウリングの点数など数点くらいの誤差は生じるはずだ。それで俺が勝つ!」
「はは、観己らしいや」
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でも、君はまだ知らない。
あの夏の俺もまだ知らなかっただろう。
俺の分身が、どうやって俺の人生を大きく変えてくのかを。
そして、俺が心のさらに奥底に抱えるものを。
この短編の本編連載
『心うつしのジェミニ 〜謎の宝石の力により、突如生まれた俺の『女体化分身』。正体隠す2人の共同生活〜』
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