妖刀さん、謎のクソ強一般人にドン引きする
我は無銘、望みなど、もてる筈もない妖刀。
5人の持ち主を内なる魔にて死に至らせしもの。
この自我が目覚めたのが、いつかも忘れた。
どう作られたのかも、作り手の顔も記憶の果てに消え果てた。
だが、最初に我を振るった者はよく覚えている。
血に酔い、狂った剣の鬼。
屍山血河の果てに、全身を貫かれ、それでも月夜に嗤い、骸を晒した鬼。
我は、その鬼の理想の体現であった。
それ即ち、折れぬ、曲がらぬ、鈍らぬ。
それが、もとより備えられた物か、人に鬼に呪われた果てに身についたのか、我には分からぬ。
死した鬼の血が、我に触れた時、この身に魔が宿った。
それから、我を手にし、振るったものは狂い死ぬようになった。
夜、夢の中にて剣の鬼が持ち主を殺すのだ。
何度も、何度も、何度も、袈裟斬り、突き、兜割、手を変え品を変え、殺す。
夢の中で出来ることは、我を手にし、鬼に立ち向かう事のみ、決して勝てぬ勝負に。
そして眼が覚めれば何も覚えておらぬ。
魔に魅入られた者は、我を手放さぬ。
仮に離れても、我が身に宿る呪いは、その身から抜けぬ。
だだ、一度、我を手にして振っただけなのに。
そして、狂い死ねば、鬼の眷属となり、新たな持ち主に襲いかかる。夢の中で磨いた剣の腕を使って。
繰り返すこと、五度。六つの魔をこの身に宿した。
哀れみなど抱かぬ。ただ、我が二度と振るわれぬことを願い、眠りにつく。
我が振るわれた感触で、目を覚ました。前の持ち主から、どれほどの時が経ったのだろう。
装いが全く違う。そして、今度の持ち主は……子供だ。
否、恐らく元服は済ませてはいる、十五といったところだろう。
だが、人死と無関係の人生だったのだろう、とても穏やかな面立ちだ。
傍らには年の頃が似通った女子がいる。
我を構えた男を見て、はしゃいでいる。
……ああ、そこまで平和な世になっておったのか。
初めての感情だった、哀れみ、申し訳なさ、悔い。
その少年、少女は、あろうことか我に名を付けた。
舞い散る桜を写したこの身から取った、それは妖刀に似つかわしくないもの。
……もう、やめてくれ、これ以上、与えるな。
今から、奪うしかないこの身が憎い。
そして、最初の夜。六番目の持ち主が襲いかかる。
大上段からの一撃、即ち最速の一撃は、斬り合いなどしたことない少年に迫る。
そして少年は勝った。
え?なんで?身を翻しただけで躱して、一刀両断してるんだけど?
やってた?平和な世だと思ったけど、人斬りだった?
次の夜、五番と四番目の持ち主、生前は兄弟だった二人が襲いかかる。
絶え間のない連撃は、息も尽かせぬ怒濤の如き剣、それが少年に迫る。
そして少年は勝った。
いや、全部弾いてたんですけど?どうなっての?
そもそも弾くって何!?なんで迫る剣を斬ってんだコイツ!?
最後の方、兄弟の方が息切れしてたわ。するんだ、魔になっても息切れ。
さらに、次の夜。二番目と三番目の持ち主。
今まで、一方向から襲いかかって来ていた魔は、少年を挟み込む。
即ち、挟み撃ち、絶対有利の状況の上で二つの剣閃は、どちらかを防ごうとも、どちらかは届く。
そして少年は勝った。
今まで使わなかった、蹴りや跳躍を駆使して、逆に翻弄していた。
出来るならはじめから使わんかい!いや、そもそも人は人の身長の倍近くの高さ跳躍出来たの!?
そんなわけないよな!妖刀やって長いけど、初めて見たわ!
最後の夜だった。いよいよ鬼が来る。
少年は勝った。
いやいやいや、鬼が何か話し始めた辺りで斬りかかってたぞ、コイツ!!
てか、話せたんだ鬼!?
なんかずっと無言か、斬った後に嗤うくらいだったから、人語を介さないと思ってたのに、急に
「よくぞここまで……」
みたいなこと言い出した時はびっくりした。その後、蹴られたけど、腹。
その時だった、虚空から魔が溢れる。
刀を持った黒い人影、妖怪変化か、動物変化の畜生どもの黒い異形共。
それは、まさに地獄の顕現であった。どこから来るのか、まさに百鬼夜行。
我に内包されていたのは魔のみにあらず、今まで魔が葬りし屍の無念。
それらは、こちらを見下す。
少年の手が初めて震えた。だが、
「…………」
それは、少年と共に我に名を与えた少女の名であった。震えが止まる。
「行こう、姫桜」
それは、我の、否、妾の新たな名前、そうあれかしと、汝が望むなら応えよう。
妾は姫桜、桜の姫なるぞ。異形、亡霊、何する者ぞ。桜の散り様を見せてしんぜよう!
そして、妾らは、勝った。
六つの魔と地獄を乗り越えた一人と一振り。
今宵、妖刀は護り刀へと至った。
時は流れる、呪いは解けなかった。
だが、毎夜の悪夢は週に一度程度に変わった。
定期的に少年は夢に捕らわれ、朝を待つ。魔も地獄もない、その場所に。
やることもないので、魔に似せたものを作りだし、少年の鍛錬の相手とした。
剣の腕を磨くこと、それが今生で役に立つかは分からぬが、いつか少年の助けとなるように。
偽の魔達は、未だに少年に片膝を突かせることも出来ない。
いや、強すぎるわ。なんなん…コイツ…怖っ……。
少年少女は月に一度は二人で現れ、妾の手入れをする。
その心地よさに身を任せながら、ふと見る。少女と少年の手が不意に重なった。
すぐに謝る両者。そして、互いに少し顔が赤い。
え?これで結婚してないってマジ??
妾は姫桜、はやくこの子らのややこが見たい。
長編も書いています。よろしければ、よろしくお願いします。
異世界快進劇 破顔一蹴 ヤマトナデシコ ~現実帰還のためなら、異世界の一つくらい救ってやろうじゃない~
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