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妖刀さん、謎のクソ強一般人にドン引きする

作者: 沢クリム
掲載日:2026/01/19

我は無銘、望みなど、もてる筈もない妖刀。


5人の持ち主を内なる魔にて死に至らせしもの。


この自我が目覚めたのが、いつかも忘れた。


どう作られたのかも、作り手の顔も記憶の果てに消え果てた。


だが、最初に我を振るった者はよく覚えている。


血に酔い、狂った剣の鬼。


屍山血河の果てに、全身を貫かれ、それでも月夜に嗤い、骸を晒した鬼。


我は、その鬼の理想の体現であった。


それ即ち、折れぬ、曲がらぬ、鈍らぬ。


それが、もとより備えられた物か、人に鬼に呪われた果てに身についたのか、我には分からぬ。


死した鬼の血が、我に触れた時、この身に魔が宿った。


それから、我を手にし、振るったものは狂い死ぬようになった。


夜、夢の中にて剣の鬼が持ち主を殺すのだ。


何度も、何度も、何度も、袈裟斬り、突き、兜割、手を変え品を変え、殺す。


夢の中で出来ることは、我を手にし、鬼に立ち向かう事のみ、決して勝てぬ勝負に。


そして眼が覚めれば何も覚えておらぬ。


魔に魅入られた者は、我を手放さぬ。


仮に離れても、我が身に宿る呪いは、その身から抜けぬ。


だだ、一度、我を手にして振っただけなのに。


そして、狂い死ねば、鬼の眷属となり、新たな持ち主に襲いかかる。夢の中で磨いた剣の腕を使って。


繰り返すこと、五度。六つの魔をこの身に宿した。


哀れみなど抱かぬ。ただ、我が二度と振るわれぬことを願い、眠りにつく。


我が振るわれた感触で、目を覚ました。前の持ち主から、どれほどの時が経ったのだろう。


装いが全く違う。そして、今度の持ち主は……子供だ。


否、恐らく元服は済ませてはいる、十五といったところだろう。


だが、人死と無関係の人生だったのだろう、とても穏やかな面立ちだ。


傍らには年の頃が似通った女子おなごがいる。


我を構えた男を見て、はしゃいでいる。


……ああ、そこまで平和な世になっておったのか。


初めての感情だった、哀れみ、申し訳なさ、悔い。


その少年、少女は、あろうことか我に名を付けた。


舞い散る桜を写したこの身から取った、それは妖刀に似つかわしくないもの。


……もう、やめてくれ、これ以上、与えるな。


今から、奪うしかないこの身が憎い。




そして、最初の夜。六番目の持ち主が襲いかかる。


大上段からの一撃、即ち最速の一撃は、斬り合いなどしたことない少年に迫る。


そして少年は勝った。


え?なんで?身を翻しただけで躱して、一刀両断してるんだけど?


やってた?平和な世だと思ったけど、人斬りだった?



次の夜、五番と四番目の持ち主、生前は兄弟だった二人が襲いかかる。


絶え間のない連撃は、息も尽かせぬ怒濤の如き剣、それが少年に迫る。


そして少年は勝った。


いや、全部弾いてたんですけど?どうなっての?


そもそも弾くって何!?なんで迫る剣を斬ってんだコイツ!?


最後の方、兄弟の方が息切れしてたわ。するんだ、魔になっても息切れ。



さらに、次の夜。二番目と三番目の持ち主。


今まで、一方向から襲いかかって来ていた魔は、少年を挟み込む。


即ち、挟み撃ち、絶対有利の状況の上で二つの剣閃は、どちらかを防ごうとも、どちらかは届く。


そして少年は勝った。


今まで使わなかった、蹴りや跳躍を駆使して、逆に翻弄していた。


出来るならはじめから使わんかい!いや、そもそも人は人の身長の倍近くの高さ跳躍出来たの!?


そんなわけないよな!妖刀やって長いけど、初めて見たわ!



最後の夜だった。いよいよ鬼が来る。


少年は勝った。


いやいやいや、鬼が何か話し始めた辺りで斬りかかってたぞ、コイツ!!


てか、話せたんだ鬼!?


なんかずっと無言か、斬った後に嗤うくらいだったから、人語を介さないと思ってたのに、急に


「よくぞここまで……」


みたいなこと言い出した時はびっくりした。その後、蹴られたけど、腹。




その時だった、虚空から魔が溢れる。


刀を持った黒い人影、妖怪変化か、動物変化の畜生どもの黒い異形共。


それは、まさに地獄の顕現であった。どこから来るのか、まさに百鬼夜行。


我に内包されていたのは魔のみにあらず、今まで魔が葬りし屍の無念。


それらは、こちらを見下す。


少年の手が初めて震えた。だが、


「…………」


それは、少年と共に我に名を与えた少女の名であった。震えが止まる。


「行こう、姫桜ヒメザクラ


それは、我の、否、妾の新たな名前、そうあれかしと、汝が望むなら応えよう。


妾は姫桜、桜の姫なるぞ。異形、亡霊、何する者ぞ。桜の散り様を見せてしんぜよう!



そして、妾らは、勝った。


六つの魔と地獄を乗り越えた一人と一振り。


今宵、妖刀は護り刀へと至った。



時は流れる、呪いは解けなかった。


だが、毎夜の悪夢は週に一度程度に変わった。


定期的に少年は夢に捕らわれ、朝を待つ。魔も地獄もない、その場所に。


やることもないので、魔に似せたものを作りだし、少年の鍛錬の相手とした。


剣の腕を磨くこと、それが今生で役に立つかは分からぬが、いつか少年の助けとなるように。


偽の魔達は、未だに少年に片膝を突かせることも出来ない。


いや、強すぎるわ。なんなん…コイツ…怖っ……。



少年少女は月に一度は二人で現れ、妾の手入れをする。


その心地よさに身を任せながら、ふと見る。少女と少年の手が不意に重なった。


すぐに謝る両者。そして、互いに少し顔が赤い。


え?これで結婚してないってマジ??



妾は姫桜ヒメザクラ、はやくこの子らのややこが見たい。

長編も書いています。よろしければ、よろしくお願いします。



異世界快進劇 破顔一蹴 ヤマトナデシコ ~現実帰還のためなら、異世界の一つくらい救ってやろうじゃない~




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