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『隠しクエスト突破で本物の異世界へ──複製スキル〈フォージ・コード〉が世界の法則を上書きする』  作者: 風白春音


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第8話 試験結果

 アルヴェリア王立魔導学院入学試験から七日が過ぎようとしていた。


 「なあ、いつ頃試験結果わかるんだ?」

 「例年通りなら大体今日の夕方以降かしら」

 「やばい、緊張してきた。落ちてたらどうしよ」

 「その時はその時じゃない。今更じたばたしたって結果は変わらないわよ」

 「いやわかってるけど」


 余裕そうなアルシェリアと緊張が抜けない俺。

 あの試験以降ずっと胸がざわつき落ち着かない。


 「私これから南東区に用事があって向かうから、ヤレンも出かけるなら鍵かけて、宿屋の主人に鍵預けておいてね」

 「え? 俺一人?」

 「もう一人でも死ぬことはないと思うけど」

 「まあいいや。わかった」

 「じゃあね。また夕方以降」


 アルシェリアは手をひらひらと振って出かける。

 俺は一人になった瞬間、ベッドに軽く寝転んだ。


 「何しようかな、暇だ」


 仰向けに寝転び、天井をぼーっと眺める。

 そういやユニークスキル『複製』の副作用は出てないな。

 

 「ま、万能ではないだろうな」


 どんな技にも必ずリスクはある筈。早めに把握しとかないと痛い目を見そうだ。


 「俺も出掛けるか」


 思い立ったが即行動と言わんばかりに、俺は部屋を出て鍵を閉める。

 主人に鍵を預けてそのまま外へ出た。


 王都アルヴェリアの朝は早い。

 太陽出る前に、街全体が目を覚ます。

 露店の商人たちは手際よく店を開き、焼き立てのパンの香りと、魔石ランプの熱で煮込まれたスープの匂いを通りに漂わせる。

 魔法で冷やされた果実が並ぶ店には子どもたちが群がり、通りの端では旅商人が声を張り上げて客を呼び込んでいる。


 「相変わらず賑やかな街だな」


 滞在してまだ40日前後なのに何故か慣れ始めている自分がいた。

 いつかこの世界での生活が当たり前になる日が来るのだろうか。


 「ようそこの兄ちゃん。ギュララサンドはいかがかな」

 「ギュララサンド?」

 「何だ知らねえのか。ははーん、さては相当な田舎者だな」

 「美味しいのか?」

 「真実は口の中ってね。兄ちゃん、特別だ。安くしとくよ」


 俺は少し迷ったが、まだ朝から何も食べてないので買ってみることにした。

 アルシェリアから頂いた大事なお金を腰に巻きつけたポーチから取り出し、店主へと渡す。


 「毎度ー。また来てくれよな兄ちゃん」


 そう気前よく送り出してくれる店主。

 俺はギュララサンドとかいう食べ物を勇気を出して一口、口に頬張る。


 「うっま! めっちゃ甘いけど」


 想像以上の美味さで思わず唸ってしまう。

 ついつい二口目も口に運んでしまう。


 ギュララとはこの世界の果実の一種で、見た目は 小ぶりの丸い柑橘系+透明感のあるゼリー質の皮。皮ごと食べられ、噛むとぷるんと弾ける。

 果汁は 微発光する黄金色(魔粒子を微量に含む)らしい。

 らしいと言うのは、さっき店主が熱烈に語ってくれた内容しか知らない為、真実かは不明だからだ。

 ちなみにギュララサンドの味は甘い柑橘 × ハチミツ × 微弱な清涼感って感じだ。

 パンの生地がしっとりなのもあって、凄く相性がいい。


 「2ソル払ったから残り18ソルか。無駄遣いしないようにしないと」

 

 アストレイア全土で使われるのは〈ソル〉と呼ばれる統一通貨である。

 世界で一番信用があり、流通量が多い通貨だ。

 ただし各国には独自の通貨も存在しており、価値は国力や魔力資源によって変動する。

 王立都市アルヴェリアではソルが主流であるが、冒険者が持ち込む外貨も多数混在している。その為、街の両替屋は常に賑わっている。

 

 朝、アルシェリアは俺に20ソル渡してくれた。

 『取り敢えずこれだけあれば十分過ごせる筈。無駄遣いしないように』

 出掛ける前に釘を刺された言葉を思い出す。

 俺はポーチの紐をキツく締めるのであった。


 しかし露店を見て回ると、ついつい興味深いものがあって欲しくなってしまう。

 それを避けるために俺は、路地裏へと移動する。


 「一気に静かになったな」


 大通りの喧騒が嘘みたいに静まり返り、路地裏は冷たい薄闇に満ちていた。

 石畳はところどころが欠けており、蒸発しきれてない雨水が黒く濁り切って残っている。

 軒下には乾ききらない洗濯物が無造作に吊るされ、生乾き臭が空気中に漂っている。   

 さらにはどこからか聞こえる犬とも獣ともつかない声が耳を刺した。


 すれ違う人々がやけにこちらを警戒した目で見てくる。

 大通りとは違う、薄暗い物を背負ったものが集う場所だ。


 「華々しい場所にも見られたくない場所はあるものか」


 俺が興味深く、キョロキョロと観察していると突然脳内で声が木霊した。


 『ハナ……レロ』

 「つっ──!」

 

 突如激しい頭痛に襲われその場に座り込む。

 動悸と眩暈が追加で襲って来て、壁にもたれ掛かる。


 『ハナ……レロ』

 「さっきから──誰だ」


 頭痛の激しさが増す。

 眩暈と動悸に加えて冷や汗も止まらない。

 

 「急になんで」


 いよいよ死を覚悟する俺。

 そんな俺に気付き、慌てて声をかける中年男性。

 

 「大丈夫かね君」


 どうやら偶然通りかかったらしく、もたれ掛かっている俺を見て無視できなかったらしい。


 「ああ、もう大丈夫です」

 「本当かね? 聖癒院せいゆいんまで運ぼうか」

 「いや本当に大丈夫です」


 嘘ではなく、突然先ほどの頭痛や眩暈が一瞬で消えた。

 すっかり元通りになった。


 「ならいいが」

 「心配かけてすみません。では俺はこれで」


 そう言い残してさっさと路地裏から表街道へと移動する。

 さっきのは一体何だったんだ。

 誰の声だったんだ。

 

 まだ脳内にその声はこびり付いている気がした。

 俺は思わず頭を数回横に振るのであった。


 

 「ただいま」

 「おかえり。遅かったな」

 「まあ、ちょっとね」


 アルシェリアが帰って来たのは夜の19時頃だった。

 俺が宿に戻って来てから実に3時間後である。


 「どこも出掛けなかったの?」

 「いや色々見て回ったよ。楽しかった」

 「そうならよかった。それとお土産」


 アルシェリアは左手に持っていた大きめな封筒を俺に渡してくる。

 立派な材質で出来た封筒だ。


 「これって、まさか?」

 「ええ。合否の通知よ」

 「つっ──」


 思わず緊張して床に封筒を置く。

 一度深呼吸してゆっくりと開封する。


 白銀石を模した淡い光沢のある紙、表面にはアルヴェリア王立魔導学院の文字、そして裏には学院の六角紋章、封蝋は青白く光る魔法蝋と格式高い物だと一眼見てわかる。

 

 「うわっ!?」


 触れた瞬間、封がふわりと解け、中から合格証(魔力で文字が浮かぶ羊皮紙)と入学に必要な手続き案内、寮の場所や制服採寸の日程、初日オリエンテーションの案内などが記された紙がゆっくりと宙を舞って俺の手元に吸い寄せられる。


 「ご、合格だあああっ!」

 

 俺は思わず喜びのあまり声を大にしてアルシェリアへ抱き付く。

 アルシェリアは少し恥ずかしそうに、俺を離そうとする。


 「ちょ、ちょっわかったから落ち着きなさい」

 「あ、ああごめん。つい興奮して」

 「全くもう。でも、まっおめでとう」


 アルシェリアが優しく微笑み俺の合格を労う。

 

 「そういや、お前はどうだったんだ?」

 「あ、ああ私。勿論合格。だってこの封筒合格者にしか渡されてないもの」

 「は? いやだって、お前さっき合否通知って」

 「そっちの方が面白そうだったから」

 「ふざけんな」


 俺が一気に脱力してベッドへ顔面を突っ伏す。

 その様子を見てアルシェリアが思わずクスクスと笑う。


 「相変わらず不思議な人。ヤレンといると退屈しなさそうで安心する」

 「何だそれ?」

 「だって退屈ってつまらないじゃない」


 そう呟いたアルシェリアの横顔はどこか儚げで寂しそうだった。


 この日俺はアルヴェリア王立魔導学院の試験に合格した。

 晴れて生徒になる。

 

 だがまだこの時は何も知らなかった。

 あんな事件が起こるなんて。


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