第5話 実技試験
昼食後、再び別の試験会場に案内された俺。
実技試験はどうやら学院の象徴ともいえる大規模施設で行われるようだ。
半透明のドーム状型の大型施設で、白銀石と透明魔鉱で頑丈に作られている。内側からは透けて見えるが、外側からは見えない不思議な造りとなっている。
夜になるとドームが青白く光ることでも有名だ。
「はえー、すっご」
中央部には広大な円形フィールドが広がっており、その大きさは約150メートル程。
半透明のドームの内側には、破壊耐性が付与された魔法結界が使用時に展開される。
観覧席が階段状に用意されており、多くの観客を収容できるようになっている。まあ最も殆どは関係者以外は立ち入り禁止だが。
ちなみにこの大規模施設の名前は通称魔導闘技場。
「では只今を持って二次試験の説明を始めさせていただきます」
一次試験とは別の試験官が、試験の説明を受験生に向けて丁寧に話し出す。
「筆記試験の番号で事前にグループ分けをしました。これは収容人数の問題です。なので実技試験を終えた人から順に速やかに退出していただきます」
髪を後ろで丁寧に束ねた大人の女性試験官がテキパキと丁寧に説明していく。
概要はこうだ。
実技試験は複数のグループに番号順で分けられる。
例年より受験者数が多かった為、実技試験は複数日に跨ぐことが急遽発表されている。
俺の番号は若いので、実技試験は当日の最初に行われる。アルシェリアは逆に、今日の試験最終時間ギリギリに実技を行う予定となっている。
試験内容はバトルロワイヤル。1グループの受験者同士でドーム内で戦ってもらい、最後まで生き残った者が勝者となる。
勝利基準は試験前に配られる試験用の魔石を破壊されず守り切る事。
しかし生き残れば試験に必ず合格できるわけではない。相手の魔石の破壊した数、どういう手法で破壊したか、またどういう風に守るかなど、多種多様な加点原点が存在する。試験の採点基準は学院側では公表しておらず推測の域を出ない。
魔法、武術、剣術など戦闘手法は問わない。
但し必要以上の加虐的行為、殺生などは禁止されている。
「では各自予め使用許可を頂いた武器や魔道具の類を手元に用意してください。これより20分後に試験開始と致します。何か異常事態が発生した場合は即座に観覧席にいる教師達に申し出をお願いします」
各自準備に取り掛かる。思った以上の緊張で手が震え、心臓が跳ね上がる。
まさか引きこもりだった俺が、こんなアクティブな活動をする羽目になるとはな。
「やるだけやるしかないか」
俺は試験官に預けていた小さなポーチを受け取る。この中にはある魔道具が入っている。アルシェリアにお勧めされた物で、結構高価である。本当に彼女には頭が上らない。
「ではこれより二次試験の実技試験を開始致します。各自のベストを尽くして臨んでください。では試験開始!」
試験開始の合図と鐘の音が大きく鳴り響く。その瞬間受験生全員の顔つきが変わる。
試験会場の空気が「バチッ」と魔力に帯電している。
各自大きく動き出し、ドーム状の広範囲を四散する。
「ちいっ!」
「逃がさないよ」
俺は背後から打ち出された火の玉を転がって避ける。早速狙ってきやがった。
その後方では風属性の魔法使いが加速して高速移動 → 混戦をかき乱す。最早誰が誰に狙われてるかを把握するのが困難だ。
「これでも喰らえ」
「また俺かよ」
今度は上空から大きな岩石が降り注ぐ。俺はそれを雷魔法で粉砕する。
『常に自分に魔粒子を循環させるようにイメージしなさい』アルシェリアの言葉を思い出す。
「閃撃スパーク・ダート」
俺の詠唱と共に発動する雷魔法。両の掌から放たれるその雷弾はいとも容易く降り注ぐ岩石を粉々に破壊した。
「バカな!? 初級魔法で」
そう俺の今の魔法は初級魔法。当然だが30日程度で高度な魔法なんか習得できるわけない。だからアルシェリアと作戦を考えた。
それは応用が効きそうな初級魔法を優先的に覚えるという手法。
そしてその初級魔法で十分通用するという事。何せ俺の魔粒子を取り込む量はどうやら常人のそれとは比較にならないらしい。つまり魔法因子と共鳴して生み出す魔力は常人の数十倍にも及ぶ。
「雷紋スタティック・ステップ」
俺の足元に薄い雷紋が浮かび上がる。一度だけ速度を上昇させることが可能。
回避、間合い調整に便利な初級魔法だ。
使用すると地面が少しだけ焼き焦げるのが特徴的である。
「悪いな」
「がはっ!」
俺は目の前の男に強烈な蹴りをお見舞いする。その威力により相手の魔石が粉々に破壊される。
「雷紋──スタティック・ステップ」
再び連続使用する。
今度は地面を思いっきり蹴って右前方の相手に拳を叩き込む。
これで魔石2個破壊だ。
「へえーあの受験生やりますね。名前は確か──」
「オオナギヤレン」
「ああそうそう。アルシェリアのお嬢ちゃんの推薦だったな」
「珍しい名前」
観覧席で何やら俺を見て会話している。まさか減点!?
いや、今はそんなよそ見してる場合じゃねえ。
「やべっ」
「ちょこまかと」
次から次へと攻撃が繰り出される。休む暇が存在しない。
その時、観覧席の一部がざわつく
何やら違う場所でも大盛り上がりを見せているようだ。
そして気づけば、試験開始から5分が経過していた。
脱落者も徐々に増えてきている。
今しかない。
「雷鎖ボルト・チェイン」
俺が30日で覚えた二つの大技のうちの一つ。
中級魔法に分類され、放った雷が複数の対象へ連鎖していく。
群れ戦やバトロワで超有効の魔法だ。
但し明確に弱点もある。それは魔力消費の激しさと何より連鎖が進むほど威力が落ちていく。
「っ、ぐっ…… !」
雷が触れた瞬間、相手の身体がビクリと跳ね、
次の瞬間、四肢がこわばったように動きを失った。
「っ……! 体が……くそ、動かねぇ……!」
筋肉が一瞬だけ過剰に収縮し、
相手はまるで糸の切れた操り人形のようにその場へ膝をつく。
連鎖で雷を喰らった複数人が同じ現象に見舞われる。
「悪く思うなよ」
俺は動けなくなった相手の魔石を次々壊していく。
『いいヤレン。魔法因子には限界がある。必要以上に共鳴すると、肉体ごと内側から破壊される恐れがあるから気をつけなさい』
アルシェリアの言葉を再び思い出す。
「がはっ!」
その瞬間、俺は誰かに背後から蹴られて前方30m近く吹っ飛ぶ。
背中の痛みに耐えながら、蹴られた方角を見やる。
「誰だお前」
「ちょっと遊んでくれにゃ〜」
「は?」
目の前にはおかしな語尾で話す、真っ黒なローブに身を包んだ猫耳の美少女がこちらを恍惚とした目で見つめてくる。
実技試験の後半戦が始まろうとしていた。




